(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)
・・・う~ん。株主提案権は、「株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる」(議題提案権、会社法303条1項)等というものですから、このマンガには少し誤解が含まれている気がいたします。
社長が、同時に株主であれば株主提案権を行使できますが、そもそも社長は取締役なのですから、そんな回りくどいことをする必要はありません。取締役(あるいは取締役会の一員)として、議題を提案し、あるいは議案を提出すればそれで良いのです(会社法298条1項2号、4項等)。
株主提案(権)という言葉が、株主「が」提案するものであって、株主「に対して」提案するものではない事も併せて押さえておきましょう。
さて、本題である共益権の話に参りましょう。
自益権と共益権の区別につきましては、既にコチラの記事で述べました。
簡潔にだけおさらいしますと、
会社法上、株主に認められている権利の中で、「権利を行使する株主のみが利益を受けるもの」を自益権と呼び、「権利を行使する株主以外の株主も利益を受け得るもの」を共益権と呼んだのでした。
そして、自益権は、株主が会社から直接経済的利益を受ける事を目的とする権利と定義できるという話を上記記事においてさせて頂きましたね。
これに対して、共益権は、株主が会社の経営に参加・関与し、又は会社の経営を監督・是正することを目的とする権利と定義できます。
共益権の具体例はホント数多いですが、重要なものをピックアップして見ていきましょう。
まず、最も重要なのは、議決権(会社法105条1項3号)です。株主総会において、個々のテーマに対して賛否の票を投じる権利です。
あとは、マンガにも登場した(株主総会で議論するテーマを設定したり(=議題提案権)、特定のテーマにおける自らの考えに対して賛否を問うことができる(=議案提出権))株主提案権や、(株主総会の場で経営陣に質問し、回答を求めることができる)質問権などがあります(会社法303条~305条、314条)。
以上が、定義の中でも「株主が会社の経営に参加・関与……することを目的とする権利」という部分の具体例です。基本的には、株主総会の一員として会社の経営に口出しする権利、という感じですね。
「会社の経営を監督・是正することを目的とする権利」の具体例としては、まずは書類等の閲覧等請求権が挙げられます。取締役会・監査役会等の議事録や、計算書類・会計帳簿などを株主がチェックすることで、経営陣に対して、ちゃんと経営しているかプレッシャーをかけることができるって事です。
次に、取締役等に対する責任追及の訴えなどの、訴訟の提訴権が挙げられます(会社法847条等)。これは、経営陣と対立してでも経営の是正を図る手法ですね。
以上で、共益権の中でも重要なものについては、概観できたように思います。
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(もう一歩前へ)
もう語るべきことは語ってしまった……。
議決権について掘り下げるか、株主提案権について掘り下げるか、訴訟の提訴権について掘り下げるか……。
この中で一番重要なのは株主総会での議決権です。
会社法308条1項は、「株式一株につき一個の議決権を有する」と規定しています。
つまり、出資をたくさんして、株式をいっぱい保有している人ほど、(その株式が議決権制限株式でない限り)議決権もたくさん持つことができるのです。1人1票ではないのです。
そして、議決権を代理行使できるのか、というのも議決権についての重要な論点なのですが、その点につきましては、コチラの記事で、取締役会の議決権と株主総会の議決権を比較しながら、その違いを述べましたね。
改めて申しますと、取締役会においては、プロとしてのその取締役自身の能力への信頼を基礎に、取締役会で情報を集約しつつ、プロ同士の喧々諤々の議論を経て結論を得ることが求められているのですから、議決権の代理行使は認められません。
これに対して、株主総会においては、株主は出資者以上の何者でもなく、その能力・個性は重視されません。
ですので、会社法310条1項は、「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる」としており、原則として議決権の代理行使は認められているのです。
こんな感じですか。代理人資格を限定して、株主の議決権代理行使の機会を一定程度制限する定款の有効性という応用のお話があるのですが、まぁすごく長くなりますし、そこまでは止めましょう、うん。
合理的な理由があって、相当程度の制限なら、そんな定款も有効になる(最判昭和43・11・1)という結論のみ書いておきますね。以上です。