(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】
それでは、「正当防衛」の解説をしますね。
前半で、「正当防衛」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)は、「正当防衛」となるのか、という観点から解説します。
正当防衛については、おそらく皆さんご存知でしょう。
悪い人の攻撃に対して、身を守るために反撃する行為は違法な行為じゃないって感じですよね。「ヤらなきゃヤられる!だったらヤるしかねぇだろ!」ってやつです。その認識でオッケーです。
刑法36条1項に載っていますので、一応見ておきますか。
第36条
1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
誰かが急にあなたに殴りかかってきました。
一方的に数発殴られた後、とっさに地面に落ちていた握りこぶしサイズの石をつかみます。
顔を狙っても外れる可能性が高いので、的が大きい相手の腹に!
石は相手の脇腹に命中し、相手が痛みで動きを止めた隙に大声で警察を呼びながらあなたは逃げました。
さて、以上のような状況を想像してみます。
あなたも相手もおそらくケガをしているでしょう。
そうすると相手の行為は、傷害罪となることは分かりますよね?
(分からない方は、コチラの記事をご覧ください。)
しかし、あなたの行為も素直に考えれば傷害罪になりそうであることは分かりますでしょうか?
だって、あなたも石を投げつけて相手を攻撃していますし、相手はケガをしちゃっていますよね?
ですが、悪いのは相手なのに、こんな場合にあなたが犯罪者となるのはオカシイです。
そこで、「正当防衛」という規定があるのです。条文に当てはめて考えてみましょう。
誰かが急にあなたに殴りかかってきた状況こそ、「急迫不正の侵害」状況です。
そして、あなたは自分自身の生命・身体という重要な「自己の権利」を「防衛するため」、「やむを得ずに」石を投げつけました。
完全に36条1項に書いてあることに当てはまりますよね?
ですので、あなたの行為は傷害罪になりそうでしたが、正当防衛行為として「罰しない」事とされるのです。
正当防衛の基礎知識は以上です。
なお、正当防衛と似た概念に緊急避難というものもあります。
この二つの概念の比較・説明は、既にコチラの記事で行っておりますので、併せてご参照くださいませ。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
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全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。
では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
今回、テロみちゃん(金髪の女の子)は、サドみちゃんを倒して学校の支配者になろうと点火状態のダイナマイトを片手に持っています。投げつける気満々でした。
点火状態のダイナマイトを手に持ちながら窓を開けることで、ターゲット(サドみちゃん)との間の物理的障害を無くした時点(=要は、1コマめの段階)で、おそらくテロみちゃんに殺人未遂罪が成立しますが、まぁ本題ではありませんので脇に置いておきましょう。
分析の対象は、サドみちゃんが、テロみちゃんのダイナマイトを打ち抜いてテロみちゃんをやっつけた行為です。
この行為も、殺人未遂罪になりそうな行為です。
(未遂なのは、今後もテロみちゃんは元気に登場するからです。)
しかし、「正当防衛」に当たるのであれば、「罰しない」として無罪となりますので、「正当防衛」になるかを検討しましょう。
刑法36条1項をもう一度載せておきます。
第36条
1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
テロみちゃんが急にガラッと現れ、ダイナマイトを投げつけようとしたのは、どう考えても「急迫不正の侵害」です。
そして、サドみちゃんは最強設定ですが、体が通常人よりも丈夫という描写は私の知る限りございませんので、ダイナマイトから身体を守る必要があるのは一般人と変わりません。
ですので、自分の生命・身体という「自己の権利を防衛するため」、「やむを得ずにした」と評価できます。
よって、今回のサドみちゃんの行為は、正当防衛であるため無罪ということになります。
(法学部生向けの補足です。更なる細かい議論は可能ですが、正当防衛が成立するという結論は動かないでしょう。例えば、サドみちゃんが防衛にとどまらず攻撃の意思を有している可能性はありますが、防衛の意思必要説に立ったとしても、積極的加害意思がない限り、攻撃の意思を併有していたとしても防衛の意思の存在は肯定されます。そして今回の事例で積極的加害意思の存在を基礎づける事情はありません。また、サドみちゃんとテロみちゃんには明らかに力の差がありますが、そこから今回の行為が「やむを得ずにした」とは言えず(質的過剰として)過剰防衛だとするのも無理があります。お互いの武器は、近接距離での点火状態のダイナマイトと銃であり、武器として対等と評価すべきだと思います。)