(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★★☆ : 基本的には誰でも読んで頂けますが、少し難しい部分があるかもです】
それでは、「逮捕罪」の解説をしますね。
前半で、「逮捕罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、テロみちゃん(金髪の女の子)に、「逮捕罪」が成立するのか、という観点から解説します。
今回は、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)ではなく、テロみちゃん(金髪の女の子)の罪責を検討いたしますので、注意してくださいね。
まず、逮捕罪を初めて学習するにあたって、一番大事なのは、『「逮捕」って警察官が犯人を捕まえるときにやるヤツだよね、ほら、あの手錠かけるヤツ』という固定観念を一度取っ払ってしまうことです。
「逮捕」という行為は、警官だけがやる行為ではありません。
私があなたを羽交い絞めにしました。
ならば、私はあなたを「逮捕」しています。
柔道の試合で、田中選手が、前田選手に対して袈裟固めで、一本を取りました。
ならば、田中選手は、前田選手を「逮捕」していたのです。
このように、「逮捕」という行為は、誰かが誰かを直接拘束して、身体の自由を(一定時間継続して)奪う行為を指します。自分の身体を使って、相手の身体を動けなくすれば、その行為を「逮捕」と呼ぶのです。
「逮捕罪」という罪がある理由が分かって頂けましたよね?
人の身体の自由を奪うのは、基本的には良くない行為ですから、犯罪とされているのです。
「逮捕罪」について規定しております刑法220条を載せておきます。
第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
「逮捕」が悪い行為とされていますよね?
「監禁」と同レベルに悪い行為なのです。
「逮捕」は、直接的に相手の身体の自由を奪う行為でしたが、
「監禁」は、間接的に相手の身体の自由を奪う行為です。
ドラマとかでよく見る誘拐の現場を想像してください。
被害者を羽交い絞めにして車に連れ込むシーンが、「逮捕」している状況で、その後アジトの部屋に鍵をかけて閉じ込めるシーンが、「監禁」している状況なのです。
では、警官の行う正式な「逮捕」や、柔道の試合で行われている「逮捕」は、何故、「逮捕罪」とならないのでしょうか。
これは、簡単に言えば「不法」ではないから(より正確には違法性がないから)です。
柔道の試合で行われる「逮捕」は、競技の一環として当然生じ得る正当な行為として社会的に容認されておりますので、違法性がない「逮捕」行為なのです。
また、警官の逮捕も、憲法及び刑事訴訟法等に、きちんとした手続を踏んだのなら逮捕してもいいよ、と書いてありますので、法が許しているのですから当然違法性がないのです。
こんな感じです。
「逮捕」は誰にでもなしうる悪い行為なのだ、ということ、及び、警官の「逮捕」は例外的に許されているのだ、ということを押さえて頂けますと、「逮捕罪」という概念は理解できたことになります。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
https://itunes.apple.com/jp/album/fa-lu-yong-yuzemi/id858331309
全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。
では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、テロみちゃん(金髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
もう一度、刑法220条を載せておきます。
第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
そんなに難しくありませんね?
トモみちゃん(茶髪の女の子)の同意なく、トモみちゃんの首に自らの右腕を回し、トモみちゃんの身体の自由を(一定時間継続して)奪っておりますので、テロみちゃんの行為は、「逮捕」です。
また、この行為を正当化する理由がありませんので、この「逮捕」行為は「不法」です。
よって、テロみちゃんの行為は、「逮捕罪」に該当することになります。
なお、友達同士がじゃれあって、例えばプロレスごっこをやっていたとしても、それは「逮捕」行為ではありますが、「逮捕罪」が成立することは通常ありえません。
そのような行為は、社会的に許容されていると考えられますし、フツーは相手の同意があり、違法性はないからです。
今回のテロみちゃん達の行為を、子供同士の誘拐ごっこと仮に見るのであれば、「逮捕罪」は成立しませんが、それはこのマンガの見方として誤りである気がいたします。
以上が、今回のテーマ「逮捕罪」に関係するお話でした。
ちなみに、以下は余談ですが、テロみちゃんが、トモみちゃんの「生命」「に対し」「害を加える旨を告知して」、サドみちゃんに「降伏しろ」という内容の「義務のないこと」を行わせようとしていますが、
テロみちゃんの今回の行為に強要罪って成立すると思います?
強要罪についてまだ学習されていない方は、コチラをご覧ください。
刑法223条全文を載せておきますので、考えてみてください。
第223条
1項 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3項 前二項の罪の未遂は、罰する。
答えは、強要罪は成立しません。
サドみちゃんが「いいとも」って言っているからじゃないですよ?
「人に義務のないことを行わせ」る(=今回で言えばサドみちゃんを降伏させる)ことに失敗した場合でも、それをやろうとして脅迫行為を開始した時点で、「未遂」となります。
今回は、その未遂すら成立しないのです。
その理由は、サドみちゃんとトモみちゃんは、親族関係にはないから、です。
強要罪というのは、その人自身か、その人の親族を脅して、その人に無理矢理何かをやらせる犯罪です。
今回のケースでいえば、サドみちゃん自身か、サドみちゃんの親族を脅して、サドみちゃんに降伏させようとする行為が、強要罪です。
その人の友達を脅して、その人に何かをさせようとしても強要罪にはなりません。
刑法222条は、そのような場合に「強要罪」になりますよ、とは書いていないからです。
したがって、テロみちゃんに、サドみちゃんに対する強要罪は成立しません。トモみちゃんに対する脅迫罪は成立しますけどね。
この結論に違和感を覚えられる方もおられるかもしれません。
なんで、「親族」と「友達」を区別するんだよ、と。その人の親族を脅した場合は罪なのに、その人の友達を脅しても罪にならないのかよ、と。もっともな考え方です。正論です。
ですが、事件を処理する裁判官は、そのように考える訳にはいかないのです。
詳しくは、「(被告人に不利な形での)類推解釈禁止の原則」、「罪刑法定主義」でググってみてください。
紙幅の関係上、ここで説明することはできませんが、刑法を学習するにあたって、一番重要な概念が、この「罪刑法定主義」です。
では、余談が長くなり過ぎましたので、この辺で。