(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】
それでは、「名誉毀損罪」、「侮辱罪」の解説をしますね。
前半で、「名誉毀損罪」、「侮辱罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、「名誉毀損罪」、「侮辱罪」が成立するのか、という観点から解説します。
え~皆さんは、この二つの罪について、どのような認識をお持ちなんでしょうね。
悪口を言っちゃう罪ですかね? ほぼ正解です。
皆の前で悪口を言っちゃう罪とか? さらに正解に近づいてきました!
皆の前で、社会的な評判を下げる危険のある悪口を言っちゃう罪? 大正解!!
自作自演はこのあたりにして、さっさと解説に入りましょう(笑)。
名誉毀損罪は、刑法230条1項に載っています。見てみましょうか。
第230条
1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
ん~どこまで説明するべきやら。
この条文は、「皆の前で、人の社会的評価を落とすレベルの悪口(具体的な事実付き)を言ってはいけない」というルールを提示しています。
例えば、A男くんには、B子さんという妻がいました。C男くんは、A男くんか嫌いで、「【拡散希望】A男は、D子さんと不倫している」という噂を何度もツイートしました。
このC男くんの行為は、「A男は、D子と不倫している」という「事実を摘示」し、不特定多数が知り得る形で、即ち「公然と」、A男くんの名誉を毀損する行為ですので、名誉毀損罪です。
この結論は、A男くんとD子さんが不倫をしていなかった場合はもちろん、実はA男くんとD子さんが本当に不倫をしていた場合でも、変わりません。これが、「その事実の有無にかかわらず」という言葉の意味です。
違和感を持たれる方が多いですよねぇ、多分。
特に今のインターネットでは、「匿名での正義の代執行」行為が常態化していますので、何で本当の事を言うことが悪い事なの?と思われる方が多い気がします。
その行為の是非はともかくとして、どうかここでは事実に目を向けて下さい。
A男が暴力団員だろうが、不倫をしていようが、未成年なのに飲酒をしていようが、刑法は等しく保護の対象としています。
悪口の対象がどんな人であっても、(仮に国民の大半が、胸がスッとするような内容であったとしても、)その社会的評価を皆の前で貶める行為は、「皆の前で、人の社会的評価を落とすレベルの悪口(具体的な事実付き)を言ってはいけない」というルールに違反しています。
ですので、A男くんは社会的に非難されるべきであったとしても、それとC男くんの行為が犯罪かどうかは、全く関係ないのです。ルールに違反しているかどうか、という点に焦点を絞って冷静に判断して下さいね。
では、次に侮辱罪を見てみましょう。刑法231条です!
第231条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
この条文が示しているルールは、「皆の前で、人の社会的評価を落とすレベルの悪口(具体的な事実ナシ)を言ってはいけない」というものです。
名誉毀損罪が示しているルールは、「皆の前で、人の社会的評価を落とすレベルの悪口(具体的な事実付き)を言ってはいけない」でした。
侮辱罪と名誉毀損罪の違いはもう分かりますよね?
そうです!悪口に「具体的な事実」がくっついているかどうかが違うのです!
例えば、「お前は本当にバカだなぁ!」と皆の前で言うのは、具体的な事実の指摘を伴っておらず、単に軽蔑の価値判断を示しているだけですので、侮辱罪です。
それとは異なり、「お前、高校の時は英語の成績悪すぎて、留年しかけてたよな、評価1だったし。ホントバカだよな。」と皆の前で言うのは、具体的な事実の指摘を伴っているので、(その事実がウソかホントかに関わらず、)名誉毀損罪となります。
どっちの方が言われたら社会的な評価が傷つくと思います?
フツーは、具体的な事実を指摘された方が、より傷つく気がしますよね?
刑法もそのように考えているため、名誉毀損罪の刑罰は、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」というそこそこ重いものであるのに対し、侮辱罪の刑罰は、「拘留又は科料」というかなり軽いものとなっているのです。
(法学部生向けの補足。以上の記述は、名誉毀損罪と侮辱罪を「事実の摘示の有無」で区別する、通説・判例の立場を前提に記述してきました。この立場に反対する有力説の考え方として、プライドを傷つけるだけの行為(=名誉感情を傷つける行為)が侮辱罪で、プライドを傷つけるにとどまらず社会的評価を下げる行為(=外部的名誉を傷つける行為)が名誉毀損罪である、というものもあります。この有力説からは、事実の摘示の有無は重要なメルクマールではなくなります。)
以上で、前半の解説を終わります。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
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では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、侮辱罪か名誉毀損罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
さて、サドみちゃんの行為を分析するにあたって、まずどちらの罪っぽいでしょう?
侮辱罪と名誉毀損罪は、「具体的な事実」付きで悪口を言っているかどうかが違うんでしたよね?
侮辱罪は、単なる侮蔑の価値判断や評価を表明する行為であるのに対し、名誉毀損罪は、本人に不利益な事実を社会的評価が落ちるレベルで具体的に指摘する行為なのです。
今回のサドみちゃんは、侮蔑の価値判断を表明していますか?
表明していませんよね。「けっこんおめでとうございます」は、よほど特殊な状況ではない限り、侮蔑の価値判断の表明とは捉えられません。
そこで、「結婚した」という事実を指摘しているものと捉え、名誉毀損罪の検討に入ることになります。
そして、結論としては、これでは社会的評価が落ちるレベルの悪口とは評価できず、「名誉を毀損した」とは言えないため、名誉毀損罪は成立しません。
今回サドみちゃんは、結婚していない事を分かりながら、先生の心にダメージを負わせることを目的として、「けっこんおめでとうございます」という呪いの言葉を、皆の前で花束と共に言いました。
しかし、その行為によって、先生の名誉感情(プライド)は傷ついたでしょうが、「結婚した」という事実は、(修行僧とかでない限り、)フツーは人に不利益な事実ではないため、先生の社会的評判が落ちたとは言えないのです。
よって、今回のサドみちゃんの行為には、侮辱罪も名誉毀損罪も成立せず、無罪だと思います。