(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★★☆ : 基本的には誰でも読んで頂けますが、少し難しい部分があるかもです】
それでは、「器物損壊罪」、「緊急避難」の解説をしますね。
前半で、「器物損壊罪」、「緊急避難」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、先生に、「器物損壊罪」が成立するのか、という観点から解説します。
器物損壊罪というのは、今回のマンガの窓ガラスを割る行為のように、他人の物を壊しちゃう犯罪です。刑法261条に規定があるので、さっそく見てみましょう。
第261条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
対象は、「前三条に規定するもののほか、他人の物」と書いてあります。
「前三条」とは、第258条(公用文書等毀棄罪)、第259条(私用文書等毀棄罪)、第260条(建造物等損壊罪)を指し示しています。
ですので、「前三条に規定するもののほか、他人の物」というのは、およそ他人が所有する「物」の中で、258条・259条・260条が対象にしていないあらゆるもの、を指すわけです。
窓ガラスもそうですし、筆箱も時計もカバンもそうです。
「飼育している金魚」や「飼い犬」、「飼い猫」も実はそうです。
少し不快に思われた方もいるかもしれません。
ですが、刑法は「人間以外の動物」は、人間が所有し得る「物」と位置付けています。
刑法261条をもう一度見て下さい。
「他人の物を損壊」する行為と、「他人の物を傷害」する行為が処罰の対象ですよね?
「物を傷害する」って表現に違和感を覚えませんか?
「傷害」という言葉が使われているのは、「物」の中に「動物」が含まれることを前提にしているからなのです。
他人の所有する動物を傷害する行為は、器物損壊罪と呼ばれることもあれば、動物傷害罪と呼ばれることもありますが、いずれにせよ刑法261条に違反する罪です。
他方、「人間」を「傷害」した場合は、傷害罪(刑法204条)で、遥かに重い罪になります。
この不条理な格差は、刑法は人間が作り上げた人間のためのルールだから、ということで目をつぶる他はありません。
以上で、器物損壊罪の解説を終わります。
次に、「緊急避難」について簡単に説明します。
これは、完全なる刑法用語であり、初めてこの言葉を聞いたよって方は、少し理解されるのに時間がかかると思います。
「緊急」に安全なところに「避難」するわけではありません。
「正当防衛」って知っていますよね?
それと似た概念です。
不良のAさんが、急に襲いかかってきました。慌てたBさんが、Aさんに反撃しました。このBさんの反撃は、正当防衛ですよね?
不良のAさんが、急に襲いかかってきました。慌てたBさんが、横にいたCさんを突き飛ばして攻撃を避け、あわてて逃げました。このBさんが、Cさんを突き飛ばした行為が、「緊急避難」行為と呼ばれているのです。
つまり、悪い奴の攻撃に対して、危険から自分を守るため、その悪い奴に反撃するのが正当防衛でした。
それとは異なり、何らかの攻撃に対して(悪い奴の攻撃だけに限りません、自然災害の場合などもあります)、危険から自分を守るため、無関係の人やモノを犠牲にしちゃう場合が緊急避難です。
この正当防衛と緊急避難との差を一言で上手いこと表した言葉があります。
正当防衛は、「不正vs正」の関係であるのに対し、緊急避難は、「正vs正」の関係だといわれています。先程の例で言えば、正当防衛は、不正なAと、正義のBとの関係であったのに対し、緊急避難は、可哀想な正義のBと、これまた可哀そうな正義のCとの関係なのです。
「正義の反対は、また一つの正義」ってやつですかね、違いますね(笑)
では、条文を見てみましょう。刑法37条1項です。
第37条
1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
まぁ細かい話は抜きにしましょう。
この条文は、何らかのピンチから自分を守るために、「やむを得ずにした」のであれば、それは「緊急避難」行為として、何らかのルールを破っていたとしても、無罪にしましょう、刑罰を課しませんよ、ということを書いています。
『「緊急」にピンチから「避難」するために行った仕方ない行為』が、緊急避難行為だとそんな感じで覚えて頂ければ覚えやすいのではないでしょうか。
以上で、「緊急避難」の解説を終わりますね。
CMコーナーです。
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では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、先生に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
サドみちゃん(ピンク髪の女の子)ではなくて、分析の対象は、先生ですからね、気を付けて下さい。
それでは、裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
さて、まずは先生の行為を客観的に表現してみましょう。
先生は、いつ爆弾が爆発するかも知れない、という自分の命が危うい状況下で、爆弾が入っていると思われる箱を窓に向かって投げ捨て、窓ガラスを割っています。
その後、どうなったのかは分かりません。
下の通行人が降ってきた窓ガラスの破片でケガをしたかもしれませんし、もしかすると爆弾が外で爆発して外で遊んでいた子が怪我をしたかもしれません。
しかし、それはただの仮定の話ですので、窓ガラスを割った行為だけに着目して、分析することにいたしましょう。
窓ガラスを割る行為は、どんなルールを破っていますか?
これは、簡単ですよね。「他人の物を壊しちゃダメ」というルールです。
つまり、器物損壊罪(刑法261条)にあたるように思えるわけです。
ですが、箱は、「チッチッ」と機械音がしており、危険物を普段から持ち歩いているサドみちゃんから受け取った物なのですから、爆弾と判断しても全くおかしくありません。先生は、この箱を爆弾と判断し、自分の生命を守るため、やむをえず窓に投げつけたのです。
第37条
1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
つまり、「自己の生命に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした」わけです。
また、これによって生じた害は、「窓ガラスが割れたこと」で、避けようとした害は、「先生の生命が危うくなること」なのですから、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」と言えます。
先生が、この先生きのこるには、やむをえなかったのです!!
すみません、言いたかっただけです(笑)
ですので、「緊急避難」が成立し、先生の行為は、「罰しない」こととされます。
よって、結局、器物損壊罪は成立せず、先生は無罪となります。
なお、余談ですが、仮にこの箱の中身が爆弾ではなく、ただの時計だったとしても、先生に器物損壊罪は成立せず、先生は無罪です。
この場合、実際は、先生の命はヤバくなかった訳ですから、「緊急避難」ではありませんが、先生が「緊急避難状況だと錯覚していた」ことの意味が問題となり、「違法性阻却事由の錯誤」という難しい議論を経て、先生の行為は、そのような場合でも仕方ない行為だよね、非難されるような行為じゃないよね、無罪だよね、という結論に落ち着きます。