(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】
・・・難易度的には、誰でも読んで頂けますが、マンガ的にはR-15くらいな気もしますね(笑)
さて今回は、「被害者の同意」の解説をしますね。
前半で、「被害者の同意」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、何らかの罪が成立するのか、という観点から解説します。
「被害者の同意(承諾)」というのは、ある意味刑法用語です。
「○○をしてはならない」という刑法が定めたルールがあったとして、それは被害者自身がやってもいいよって言っている場合でも、なお罪になるの?っていう問題状況を「被害者の同意」と表現しています。
例えば、住居侵入罪(刑法130条)について考えてみます。
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
まぁ簡単にいえば、「プライベート空間に侵入してはならない」というルールになっています。
このように「プライベート空間に侵入してはならない」というルールを刑法が定めていますが、それは被害者自身がいいよって言っていた場合は、罪になりません。
当たり前ですよね。
友達にお呼ばれされて、私が友達の家に遊びに行く行為は、住居侵入ではありません。
これは、住居権者である友達が許している以上、「侵入」とはいえなくなるからです。
つまり、「被害者(住居権者)の同意」のパワーによって、私が友達の家に入る行為が、違法な「侵入」から、適法な「おじゃましま~す」になったわけです。
次に、強制わいせつ罪(刑法176条)について考えてみます。
第176条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
ここから、二つのルールが導けることがお分かり頂けるでしょうか。
「13歳以上の者に、無理矢理わいせつな行為をしてはならない」というルール1と、
「13歳未満の者に、わいせつな行為をしてはならない」というルール2です。
ルール1は、逆に言えば、「無理矢理」じゃなくて合意の上であれば、やってオッケーなのです。つまり、上で述べた住居侵入罪と同じで、「被害者の同意」があれば、違法な「わいせつ行為」が、適法な「いちゃいちゃ」になるわけです。
これに対し、ルール2は、無理矢理だろうが、合意の上だろうが、「13歳未満の子にわいせつな行為をすることそのもの」が認められていません。ここでの「被害者の同意」には、何の効力もないわけです。
さて、以上から、「被害者の同意」があれば、そりゃ犯罪なんて成立しないだろう、と思ってしまいがちですが、「被害者の同意」があったとしても犯罪が成立する場合もある、という事が分かって頂けたと思います。
「被害者の同意」があれば犯罪が不成立となる場合もたくさんありますし、「被害者の同意」があっても犯罪が成立する場合も実はたくさんあります。
以上が、「被害者の同意」を考える上での、基礎知識でした。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
https://itunes.apple.com/jp/album/fa-lu-yong-yuzemi/id858331309
全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。
では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
まず、サドみちゃんが、どんなルールを破っていそうか考えてみてください。
分かりますでしょうか。
二つ条文を載せてみました。
第204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第208条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
傷害罪(刑法204条)と暴行罪(刑法208条)です。
この区別の仕方は、コチラで既に述べておりますので、ご参照くださいませ。
正解は、傷害罪です。
具体的にどうなっているのかは少し良くわかりませんが(笑)、背中の皮膚が火傷なり裂傷なりを負っているのは間違いなさそうですので、これは「暴行」の進化系である「傷害」なのです。
ですが、この校長、他のマンガからも明らかなのですが、完全に同意しています。
「被害者の同意」があるわけです。
では、傷害罪の「人を傷つけてはならない」というルールには、「被害者の同意」って効力を発揮するのでしょうか?
別に自分が傷ついても良いって言ってるんだから、いいんじゃないの?って思われる方が多いのではありませんか?
刑法学者の多くもそう考えています。
「人を傷つけてはならない」というルールは、被害者の身体を守ってあげるためのルールです。その被害者自身がいいって言ってるんだから、「被害者の同意の上で、その人を傷つける行為」は、適法と考えればいいんじゃないの、というわけです。
ところが、裁判所(最決昭和55・11・13)の見解は、少しだけ異なります。
「被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体障害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて決すべきである」とされているのです。
簡単に言えば、「被害者の同意」は、適法に傾く判断要素ではあるけれど、それだけで適法になるわけじゃなくて、適法か違法かは色んな事情を考えて裁判所が判断するぞ、と言っている訳です。
う~ん、判断が明快に出来ない分、やきもきしますよね。
でも、このような裁判所の立場に立っても、今回のようないわゆる「SMプレイ」については、傷害の程度が、被害者が事前に想定している程度にとどまるなら、問題なく適法となるでしょう。
そうじゃなきゃそういうプレイのお店、全部摘発されていなければオカシイですからね。
というわけで、今回のサドみちゃんの行為は、無罪でした~。
ここから先は、余談です。
「SMプレイ」関連で、究極の事案です。
被害者は、ドMでした。被害者は、究極のSMプレイとして、派遣されてきた男性のSMを専門とされている方に、800万円あまりの報酬と引き換えに、サバイバルナイフで下腹部を刺して殺してもらいたい旨依頼しました。男性は、金欲しさから依頼を承諾し、実際にナイフで下腹部を刺して殺害した、という事案がありました。
裁判所の判断を見る前に、殺人罪と同意殺人罪について確認しておきましょう。
第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
第202条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
どのようなルールになっているか分かりますか?
199条は、「人を殺してはならない」というルールを提示しています。
202条は、「承諾を得ても人を殺してはならない」というルールを提示しています。
ただ、罪の重さが全然違いますよね?
つまり、「被害者の同意」によって、重い殺人罪が、軽い同意殺人罪になるのです。
「被害者の同意」があっても、「人を殺す」行為は、依然として犯罪だけれども、罪は軽くなるのです。
さて、この究極のSMプレイの事案では、重い殺人罪なのか、軽い同意殺人罪なのかが争われました。本題から外れるので詳しくはやりませんが、被害者が本当に死ぬことに同意していたのかどうかが争われたのです。
そして、第1審では、本当に死ぬことに同意していた訳ではない、として男に殺人罪の成立が認められましたが、控訴審(大阪高判平成10・7・16)では、本当に死ぬことに同意していた、と理解する余地が十分ある、として男に同意殺人罪の成立が認められました。
まぁ、世界は広いんだな~という感じの余談でした。