(マンガ:まんがで気軽に経営用語 様)
フランクな社長さんですよね。社員ものびのび仕事ができそうです。
さて、有限会社について説明しますね。
有限会社というのは、「有限会社法」に基づいて設立される営利社団法人です(旧・有限会社法1条)。
現在では、「有限会社法」は廃止されていますので、新しく有限会社を設立することはもはやできません。新設された「会社法」下においては、同じことをしたいなら「株式会社」を立てれば出来るようになっているし、そうすべきだと考えられているからです。
ですので、現存する有限会社は、「有限会社法」が廃止される前に設立された有限会社です。
「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(略して整備法)」という長ったらしい名前の法律によって、その当時「有限会社」だった会社は、「特例有限会社」として存続することを許され、無くなっちゃった「有限会社法」の実質的な適用があるように配慮されています。
とはいえ、「株式会社」と「特例有限会社」でそれほど大きく規制が異なる訳ではありません。歴史に目を向ければ簡単に分かりますので、少しご説明します。
そもそも、旧・商法で「株式会社」は、大衆の遊休資本を結集する装置として、でっかい企業が利用する会社形態として想定されていました。
そして、大衆の資本を結集するために、所有と経営を分離させるという法技術を用いたのですが、これには当然リスクがあります。経営者が好き勝手しちゃう、というリスクです。(ここら辺は、「所有と経営の分離」や「コーポレートガバナンス」の記事でもう少し詳しく取り扱っています)
このリスクの発症を防ぐための規制が旧・商法には数多く設けられていました。マンガにありますように、「株式会社」を立てるための最低資本金が1000万円だったというのも、その規制の一つです。
もっとも、中小企業にとっては、この様々な規制が却って障害となり、なかなか株式会社形態を利用できなかったのです。とはいえ、合名会社や合資会社という会社形態は、「有限責任」ではない社員の存在が前提にありますので、こちらもおいそれとは利用できません。
そこで、中小企業が「会社」形態を利用できるようにするため、「株式会社」に関する規制より若干緩めた規制にしつつ、「有限責任」を認めた「有限会社」を観念したのです。
(より正確には、物的会社の典型であった従来の「株式会社」と人的会社の典型である「合名会社」のちょうど中間くらいの「会社」形態として、「有限会社」は観念されています。なお、「有限責任」の意味については、「合資会社」の記事において詳しく説明させて頂いております。)
ところが、「有限会社」は、「株式会社」のブランド力には遠く及ばず、流行りませんでした。せっかく中小企業用の「会社」制度を作ったのに、あまり利用してくれなかったのです。
これでは、問題の解決にはなりませんから、旧・商法・第二編の「会社」に関する規定が、新たに「会社法」として独立する際、「有限会社法」を廃止する代わりに、「会社法」に「有限会社法」の考え方を大いに取り込みました。
そして、「株式会社」を(大衆の遊休資本の結集という理念を背景とした)大企業だけが利用するようなものとして観念する事はやめて、ほとんどの企業が利用できるけれど、規模に応じて規制が異なるものとして観念したのです。
つまり、「株式会社」は基本的にはどんな企業でも利用できますよ~、でも「公開会社」なら「取締役会」置いてくださいね~(会社法327条1項1号)、「大会社」なら「監査役会」や「会計監査人」も置いてくださいね~(会社法328条1項)、というような規制にしたのです。
そして、既に存在する「有限会社」については、いつでも定款変更して商号を変更し、その旨の登記さえすれば、「株式会社」になれるし、「特例有限会社」として存続してもいいよ、ということになったのです(整備法45条1項)。
長くなりましたが、「特例有限会社」と、(「有限会社法」の趣旨を取り込んで、再定義された現在の)「株式会社」では、規制が異なる理由があまりない、という事はこれで分かって頂けたのではないでしょうか。
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(もう一歩前へ)
「株式会社」と「特例有限会社」の規制はほぼ同じですが、少し異なる点があります。
その中でも比較的重要な点について、見ていきましょう。
(1)役員の任期
まず、役員の任期に関する規制が異なります。
株式会社では、取締役の任期は、公開会社であれば最長2年、非公開会社であれば最長10年です(会社法332条)。また、監査役の任期は、公開会社であれば4年、非公開会社であれば最長10年です(会社法336条)。
特例有限会社では、「特例有限会社については、会社法第332条、第336条及び第343条の規定は、適用しない」(整備法18条)とされているので、取締役も監査役も任期の規制はありません。つまり、わざわざ役員の変更登記をする必要がない訳です。
(2)株主総会以外の機関の設置
株式会社では、「株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会を置くことができる」としています(会社法326条2項)
特例有限会社では、「特例有限会社の株主総会以外の機関の設置については、会社法第326条2項中「取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人又は委員会」とあるのは、「監査役」とする」となっています(整備法17条1項)。
つまり、特例有限会社を利用しているのは中小企業だけなので、そんなに複雑な機関の分化は必要なく、「株主総会」、「取締役」、「監査役」さえ置くことができれば、それで十分なのです。
・・・大きな差異は、この程度です。まぁこの差はほんと大した差じゃないです。
今回の内容で大事なのは、有限会社と対比することで、改めて「株式会社」の概念を自分の中で整理することだと思います。
「所有と経営の分離」とはいうけれど、小中規模の企業をも取り込んだ概念として再定義されたことで、必ずしもすべての「株式会社」が「所有と経営の分離」がなされている訳ではありません。「所有と経営の分離」がなされる可能性がある、というのが現在の「株式会社」の法制度上の特徴なのです。