問題:(完全オリジナル問題)Bは、A名義の銀行預金通帳と印鑑を盗み、C銀行から預金の払い戻しを受けた。この際、Bは自分がAだと名乗ったのではなく、Aの代理人だと称して払い戻しを受けていた。C銀行はBが無権限者であることにつき善意・無過失であった。自己の通帳と印鑑が盗まれ、預金が払い戻されてしまっている事に気づいたAは、既に無資力のBに請求しても仕方がないので、Cに対して、Bに対する弁済は無効であることを前提に、預金の払い戻しを請求した。このような請求は認められるか、理由と結論を40字程度で記述しなさい。
(下記の問題解説の文章に選択肢が含まれているので、正しいと思う選択肢を選んでいってください。アプリでタッチすれば次々と文章が流れていく形式を想定しておりましたので、選択肢の直後に解答がある場合もございますが、それはご了承ください。)
まず、本問はどのようなルールについて問題となっているか見抜くところから始める。
Bは、通帳等を盗んだ盗人であり、預金債権者ではない。ということは、C銀行の払い戻しは、無権利者で受領権限の無い者に対する弁済であるので、無効であることがまず導かれる。
しかし、民法は、弁済の義務を果たすべき立場の債務者に、真の債権者か否かの調査義務を課すのは酷であると考え、民法478条に
(①債権の準占有者への弁済②無権利弁済③有償弁済④債権の保持者への弁済)
といわれる制度を用意した。
これは、債務者が受領権限の無い者に弁済をした場合でも、債務者が、受領者に受領権限がないことについて善意・無過失である限り、一定の場合には弁済を有効とする制度である。
この一定の場合というのは、受領権限の無い者が「債権の準占有者」にあたることである。
「債権の準占有者」というのは、弁済者より観察し社会一般の取引通念に照らして真実債権を有するものと思料するに足る外観を備える者と判例は定義している。
「債権の準占有者」の典型例として挙げられるのは、本問の事例を少しだけ修正して、BがA名義の通帳と印鑑を持ち、自己がAだとしてCから預金の払い戻しを受けたような場合のBである。
この典型例とは少し異なり、本問のBのように本人Aだと詐称するのではなく、Aの代理人であると詐称しているような詐称代理人も「債権の準占有者」と評価できるのかというのが、この問題の核である。
もう少し問題点がはっきり分かるように説明する。「準占有」という概念は、この478条以外に205条に出てくる。
205条は、占有権の規定を準占有にも準用するという規定であり、準占有を
(①「自己のためにする意思」②「他人のためにする意思」③「利益を得る意思」④「所有者としてふるまう意思」)
をもって財産権を行使する場合と表現している。
そして、205条の「準占有」と478条の「準占有」を統一的に捉えると、478条の「準占有」者というのは、自己のためにする意思を備えているという外観まで有している必要があるとも読めるわけである。
このように読むと、代理人の地位を詐称しているに過ぎないBは、自己のためにする意思を備えているという外観は有していないとも考えられる。
ここから、詐称代理人は「債権の準占有者」に含まれないとも考えうるため、論点となっているのである。
判例・通説は、詐称代理人も「債権の準占有者」に
(①含まれる②含まれない)ものと考えている。
判例の考え方だけ紹介すると、判例は205条と478条の「準占有」概念を統一的に捉えた上で、代理占有の場合に占有代理人自身にも占有が認められるのと同様、準占有についても、代理行使をする者にも準占有が認められると理解している。
これは、478条の文脈でどのような外観を備えた者が「準占有」者にあたるのかを考えているのではなく、占有法理(つまりは、205条の側)からアプローチして、どのような形態で権利行使している者を「準占有」と評価できるのかを考えているのである。
その結果、205条で「準占有」と評価された詐称代理人は、当然に478条において「準占有」者となるものとされているのである。
このような立場からは結局、善意・無過失であるCの払い戻しは、有効であり、Bは払い戻しを主張することはできないことになる。
(解答)
①①①
・3問20点。均等配点。小数点第一位四捨五入。