問題:(完全オリジナル問題)Aが有していた1000万円をBがAの自宅の金庫から盗取し、その1000万円を自己のCへの債務の返済に充てた。このとき、Cは、夜逃げを防ぐため24時間Bを監視していたので、1000万円がAの金庫からBが盗んだ事によって工面されたことを知っていた。ところが、Cは、自分は窃盗事件とは無関係だし、今後Bに金銭的に余裕が出てくれば、今度はこれをネタにBを恐喝しようという腹積もりで素知らぬ顔で1000万円を受領していた。さて、1000万円盗まれたAは、窃盗犯Bに対して不法行為に基づく損害賠償と不当利得返還請求をかけたが、Bに財産はほとんどなく、実効性がなかった。そこで、Aとしては、Cに対して不当利得返還請求をしようと考えた。この請求は認められるだろうか、理由と結論を40字程度で記述しなさい。
(下記の問題解説の文章に選択肢が含まれているので、正しいと思う選択肢を選んでいってください。アプリでタッチすれば次々と文章が流れていく形式を想定しておりましたので、選択肢の直後に解答がある場合もございますが、それはご了承ください。)
間違いなく難問である。不当利得返還請求であることは問題文が明示してくれているため、どのような論点が問われているかについては分かった方も少なくないと思う。ところが、この論点は書くのがとても難しいため、書くのに時間を取られたはずである。
さて、解答に入る前に、本問の前提をもう少し確認しておく。
被害者Aとしては、Bに対する請求はできるが、実効性がない。また、CはBと共犯ではないからCに対して不法行為に基づく請求はできない。そこで、Cが1000万円を盗まれたお金と知りながら受け取った事に着目して、Cは給付を保持する資格がないことを理由に不当利得返還請求をしようとしているのである。
それでは、本問の解決を判例の立場に忠実に見ていく。
本問は、いわゆる
(①転用物訴権②騙取金による弁済③公序良俗に反する弁済④直接訴権)
という論点が問題となっている。
この論点は、Cのように、騙取金である事を知りながら弁済を受ける奴は道義上許されず、被害者を救済したいという結論ありきの論点である。
被害者を救済する法律構成について、不当利得を用いるか否か、用いた場合どの要件を問題にするのかが判例・学説上様々な見解が戦わされているのである。
判例は、不当利得という構成を用いて被害者を救済している。どのように肯定しているのかを、「因果関係」と「法律上の原因」の二つの要件から見ていく。
まず、「因果関係」について。本問のような騙取金による弁済事例の場合、Cが得た債務の弁済という利得は、あくまでBへの債権が実現しただけで、Aの損失と直接の関わりはない。
このように考えると、Cの利得とAの損失との間には、因果関係がないようにも見えるが、判例は不当利得で要求される因果関係は
(①直接の因果関係②相当因果関係③条件関係④社会通念上の因果関係)
があればよいと捉えている。
社会通念上の因果関係とは、Aの金銭でCの利益をはかったと社会通念上認められるだけの関係があればそれで足りるという見解であり、本問においても、Aの金庫から盗まれたお金により、返済能力の無かったBに返済能力が生じ、Cに返済がなされたのであるから、因果関係は肯定できることになる。
次に、「法律上の原因」である。そもそもCはBに対して1000万円の債権を有しており、Cの利得はその弁済によって得られたものであるため、債権の存在は法律上の原因にストレートにあたるとも思える訳である。
ところが、判例は、「法律上の原因」というのは、
(①公平の理念②社会通念③裁判官の立場④平等原則)
からみて、財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的理由を指すと定義し、
弁済受領者が
(①悪意又は重過失②悪意又は有過失③悪意④背信的悪意)
であったような場合は、受領者の金銭取得は、被害者との関係においては正当化する実質的理由がなく、法律上の原因はないものとしている。
本問でいえば、Cは弁済金が盗難によって工面されたことについて悪意であるため、弁済を正当化する実質的理由が欠けており、AC間においては、Cの利得に法律上の原因がないものと評価されるのである。
従って、AのCに対する不当利得返還請求は認められる。
(解答)
②④①①
・4問20点。均等配点。