
(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★★☆ : 基本的には誰でも読んで頂けますが、少し難しい部分があるかもです。後半は、難易度★★★レベル(法学部1・2年生レベル)になってしまっています。】
それでは、「窃盗罪」、「強盗罪」の解説をしますね。
前半で、「窃盗罪」、「強盗罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、「窃盗罪」、「強盗罪」が成立するのか、という観点から解説します。
窃盗罪が、物を盗む罪であることは、おそらく皆さん分かりますよね。
スーパーやコンビニでの万引きが典型例です。
刑法235条に窃盗罪が載っていますので、見ておきましょう。
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
条文に書いてある「窃取」というのは、他人の物を、その他人の意に反して自分や第三者の物にすることです。日常用語の「盗む」と同じと考えて頂ければ、とりあえずそれでオッケーです。
要は、他人の物を盗んだら「窃盗の罪」になるよ~、と書いてあるわけです。
では次に、強盗罪が載っている刑法236条を見てみましょう。
第236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
「他人の財物」を対象としていることは、窃盗罪と同じです。
違うのは、「窃取」じゃなくて「強取」となっている点ですよね。
「強取」というのは、被害者が加害者に対して歯向かう気もおきないようなヤバいレベルの暴行・脅迫によって財物を奪うことをいいます。
「窃取」と「強取」は、「財産を奪う」点では同じですが、ヤバいレベルの「暴行・脅迫」を手段としているかどうかが違うわけです。
具体例で説明した方が、分かりやすいと思います。
① 不良のAくんが、前を歩いていたBさんのポケットから財布をスろうと、Bさんに軽く肩をぶつけ、思わずBさんが身体を守るために上半身を手でガードする態勢になったところを、すかさずポケットに手をつっこみ、財布をスって逃げた。
⇒ Aくんが、Bさんの財布をスった行為は、「窃盗罪」です。この「肩をぶつける」という暴行は、Bさんが抵抗できなくなるようなヤバいレベルではありませんので、強盗罪にいう「暴行」ではありません。ですので、財布の取得行為は「強取」とはいえないのです。
② 不良のAくんが、前を歩いていたBさんを後ろから羽交い絞めにし、右手で首根っこをつかみながら、Bさんを地面に押し付け、右足でBさんの背中を踏みつけ、左手で地面に這いつくばっているBさんのポケットをまさぐり、財布を取って逃げた。
⇒ Aの行為は、「強盗罪」です。この一連の暴行は、Bさんが完全に抵抗できないレベルのものですので、強盗罪にいう「暴行」であり、財布の取得行為は「強取」です。
③ 不良のAくんが、前を歩いていたBさんを急に殴って金を要求した。これにビビったBさんは、逃げてもどうせ後が怖いと考え、財布を自ら差し出した。
⇒ これは余談です。Aの行為は、「恐喝罪」です。Aくんの暴行は、Bさんが完全に抵抗できないレベルではありません。現に、Bさんには逃げるという選択肢もありました。しかし、Bさんは、脅されながらとはいえ、自分の意思で財布を出しています。
⇒ 基本的には、相手の意思とは無関係に奪うのが、「窃盗罪」や「強盗罪」ですので、相手をビビらせることで相手の意思を誘導して奪う「恐喝罪」や、相手を騙すことで相手の意思を誘導して奪う「詐欺罪」と区別できるようになりましょう。
さて、これで窃盗罪と強盗罪の大枠は理解して頂けたのではないでしょうか。
ここから少しだけ話が複雑になります。
窃盗罪にしても、強盗罪にしても、基本は「他人の物を盗んじゃダメ」というルールです。
では、他人の物を盗んじゃダメ、とはいうものの、少しの時間拝借するくらいならどうでしょう?
例えば、友達の家に遊びに来て、「あ、3DS忘れた!ちょっと取ってくるわ!」と言って、自分の家に3DSを取りに帰る際、(友達の靴と分かりながら)友達の靴を履いて帰った場合、これは靴の窃盗でしょうか?
条文にそのまま当てはめてみてください。
友達という「他人」の、靴という「財物」を、自分で履いて帰るという形で「窃取」していますよね。
そのまま当てはめてみると、窃盗罪になりそうです。
でも、この人は、一時的に使わせて貰うだけのつもりで、必ず靴を返すつもりでした。
当たり前ですよね。自分自身の靴は、友達の家に残っていますし。
このような場合に、窃盗罪となるなんて、私たちの常識に反していますよね。
刑法学もそう考えています。
このような「無断での一時使用」行為は、「相手の物を自分の物にしてやろう」って悪い意思が、事実上ないため、「窃盗」ではなく、「使用窃盗」と呼び、褒められた行為ではないものの、刑罰を課すべき行為とはしない、と考えているのです。
つまり、
原則 : 「相手の物を、相手の意に反して自分の物にした」という事実があれば、それは「窃盗」であり、窃盗罪となる。
例外 : 「相手の物を、相手の意に反して自分の物にした」という事実があっても、「相手の物を自分の物にしてやろう」って悪い意思が事実上認められない行為は、「使用窃盗」として、窃盗罪の対象ではない。
・・・というルールとなっているわけです。
なお、分かりやすいように窃盗について話をしていますが、強盗についても、考え方は全く同様です。
以上が、後半に繋がる基礎知識です。
後半は、この基礎知識を前提としながら、さらにもう少し難しくなります。
では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
ただし、とても難しいので、分からなくてもあまり気にしないで下さいね。
刑法235条をもう一度載せておきましょう。
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
また、
原則 : 「相手の物を、相手の意に反して自分の物にした」という事実があれば、それは「窃盗」であり、窃盗罪となる。
例外 : 「相手の物を、相手の意に反して自分の物にした」という事実があっても、「相手の物を自分の物にしてやろう」って悪い意思が事実上認められない行為は、「使用窃盗」として、窃盗罪の対象ではない。
・・・というルールを思い出してくださいね。
今回の事例は、どちらでしょうかね。
確かなのは、サドみちゃんの(他の4コマも含めた先生に対する)一連の行為は、基本的に先生に構ってもらう為の行為ですので、その後も車を自分のものとして使う意図が、サドみちゃんにあるとは思えない、ということです。
つまり、車を自分の物にしようとした、というよりは、一時使用目的なのです。
では、上のルールにあてはめて、「使用窃盗」だから窃盗罪の対象とはならないのか、というとそう単純ではないのです。話が複雑になってきましたね。
裁判所(最決昭和55・10・30)は、他人の「自動車」を夜中に4時間程度無断で乗り回していた行為について、弁護側の「元の場所に戻すつもりであり、使用窃盗だから無罪だ」という主張を斥け、「たとえ、使用後に、これを元の場所に戻しておくつもりであったとしても、」自動車を「数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図」があったとして、窃盗罪が成立する、としました。
この裁判所の判断を前提とすると、サドみちゃんが車を乗り回した時間などにもよるのですが、「自動車」を既に「完全に自己の支配下に」置いている上、「完全に自己の支配下に置く意図」を否定する事情は見当たりませんので、窃盗罪が成立する可能性は決して低くない、ということは言えそうです。
つまり、盗まれた物が「自動車」である場合は、理由を裁判所は明言してくれていないものの、「例外ルール」は当てはまらず、「使用窃盗」とはされない可能性が高いのです。
なお、この「例外ルール」が当てはまらない理由について、一般的には、「自動車」は高価なものであり、そのような高価なものを自分の物とする行為を、「相手の物を自分の物にしてやろう」って悪い意思が事実上認められない行為と評価するわけにはいかない、と説明されることが多いです。
この裁判所の判断を「上述のような例外ルールの消滅」と考えるか、「例外の例外ルールが設定された」と考えるかは、学者によっても区々ですので、これ以上は立ち入らない方がよさそうです。
※ 法学部生向けの補足です。窃盗罪が不成立となる「例外」が存在すべきことは、どの学者も一致しています。前者の「既存の例外ルールの消滅」と考える立場も、そうはいっても友達の靴を一時使用するような行為を処罰する訳にはいかず、例えば「可罰的違法性」のような概念を持ち出して、「新たな例外ルール」を作ることになります。後者は、「例外の例外ルール」を設定しますので、要は既存の「例外ルール」を残したまま微修正を図るということです。従って、結局1ブロック上の表現は、「既存の例外ルール」(「権利者排除意思が不存在」であれば、窃盗罪が成立しない「例外」となる、というルール)を認めるか否かで、学者が分かれているよ、というお話であるわけです。「不法領得の意思」の議論の中でも、権利者排除意思の要否にスポットを当てていた記述ということです。
こんな感じですかね。
最後は、複雑怪奇になりましたが、これは今回のサドみちゃんの行為を分析するのが、かなり難しかったからです。
※ 再び、法学部生向けの補足です。サドみちゃんが先生に銃をつきつけて、「けーどろ」をムリヤリさせた事が、強盗罪の「脅迫」に該当するか否かは、結論を出すのが困難なので、あえて後半では強盗罪に触れませんでした。引き金に指をかけながら銃を手に持っていることが、反抗を抑圧するレベルの『態度による「脅迫」』であることは間違いありません。ですが、強盗罪の「脅迫」は、財物奪取に向けられたものである必要がありましたよね?
一方で、サドみちゃんが先生に銃で子供っぽい遊びを強要することは、今までのマンガで何度もありまして、この銃での脅迫は、「けーどろの泥棒が本当に泥棒した」というギャグがやりたいサドみちゃんが、先生にけーどろの警察役をさせたかっただけで、財物奪取に向けた「脅迫」とは評価できない、と考えることが可能です。
他方で、「けーどろ」の警察役をさせ、先生の位置を一定時間固定することで、自動車の奪取を容易にしており、銃での「脅迫」が結果として財物奪取に向けたものであったと評価することも十分可能です。
窃盗か強盗かでいえば、強盗が成立する可能性の方が高いと私は判断していますが、便宜上、本文は窃盗について記載してきました。
結論としましては、これだけの事情からは本当は判断できませんが、まぁ「自動車」だし、窃盗罪又は強盗罪が成立する可能性がそこそこあるよ、という感じです。
今回は難しすぎでしたね・・・。