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電話傍受と通信の秘密(百選66事件)


電話傍受と通信の秘密最決平成111216、百選66事件)

 

[事実の概要]

 

―――とある暴力団事務所の一室―――

 

yumi8

 

 

kanako3はい、もしもし

 

 

(訴外A)

あ、あの・・・アレを・・・

yumi3

 

 

 

あぁ、アレね。車のナンバーと量教えて

 

kanako4

 

 

(訴外A)

ナンバーは、(ピーー)で、量は3万円分でお願いします

yumi10

 

 

また、連絡するね。警察には気をつけてね 

tika7

 

 

(会話を傍受していた警察)

・・・(ニヤリ)

 

 

 

被告人らは、組織的な覚せい剤の密売方法として、注文受付担当者と、注文してきた客に実際に渡す者に役割分担していた。

 

注文受付担当者は、あらかじめ一定の者には番号を周知してある覚せい剤受付専門電話において、とある特定の名を用いて覚せい剤購入希望者である事を示してきた相手に対して、自動車のナンバー及び覚せい剤、注射器の個数を述べるよう促した上、もう一度連絡してくるよう指示し、

 

その注文内容及び車のナンバーを実際に覚せい剤を渡す者のポケットベルに、その専門電話又は別に設置された連絡用電話から伝達し、

 

再度連絡してきた購入希望者に、受け渡し場所を指定して、そこに来るよう指示し、実際に覚せい剤を渡す者がナンバープレートを頼りに、購入希望者と接触する、という手口であった。

 

 

ところで、この犯罪は、受け渡し場所が毎回異なっており、捜査機関にとって、全容解明及び犯人の身柄確保はとても難しいものであった。

 

具体的には、警察は、

 

・とある特定の暴力団が関与していること

・警察が把握している覚せい剤購入者25名のうち少なくとも14名が購入の為に、特定の電話番号に電話をした旨供述していること

・その電話番号は、当該暴力団の幹部組員が毎日午後5時過ぎから午後11頃まで当番についていること

・覚せい剤密売に関する受付担当者と譲渡担当者との連絡には、その部屋に設置されたもう一つの電話が利用されている可能性があること

・受け渡し場所には、一定性がないこと

 

・・・を把握していたが、現場を押さえることもできず、捜査は行き詰っていた。

 

そこで警察は、(当時は、通信傍受法が制定されていなかったため、)

 

一 日本電信電話株式会社(NTT)旭川支店113サービス担当試験室において、同支店保守管理に係る同室内の機器の状況並びに本件二つの電話に着発信される通話内容を検証する。(ただし、覚せい剤取引に関する通話内容に限定する)

 

二 検証の日時は、722日及び23日の二日間、いずれも午後5時から午後11時までとする

 

三 地方公務員2名を立ち会わせ、通話内容を分配器のスピーカーで拡声して聴取するとともに録音し、対象外と思料される通話については、立会人に直ちに電源スイッチを切断させ、音声を遮断し、録音を中止する

 

・・・ことを内容とした検証許可状を請求し、裁判官は、請求通りの条件を付した検証許可状を発した。

 

そこで、捜査官は、NTT旭川支店において、支店の総務担当課長ほか一名に対し検証許可状を呈示した後、地方公務員である旭川市消防本部の職員2名の立会を得て、本件検証を実施した(つまりは、電話傍受していた)。

これによって、被告人らへの捜査は飛躍的に進展した訳である。

 

 

[裁判上の主張]

 

弁護側は、

 

弁護人は、(通信傍受法が制定されていない時代であるから、)現行法上、両当事者に知らせずに電話の通話内容を聴取することなどの権限を捜査機関に認めた規定はないから、本件検証は、通信の秘密を定めた憲法212項、強制処分法定主義を定めた憲法31条、刑事訴訟法1971項但書に違反する違法なものであり、これによって得られた証拠は違法収集証拠であって証拠能力がなく、この証拠なくして事実認定すれば、当然被告人らは無罪になると主張した。

 

 

 [訴訟経過]

 

1審判決(旭川地判平成7612):

 

被告人A(譲渡担当者)を懲役3に、被告人B(受付担当者)を懲役5年及び罰金20万円に処する

 

控訴審判決(札幌高判平成9515):控訴棄却

 

 

1審判決は、

 

弁護側の主張に対し、

 

「刑事訴訟法は、過去に生起した犯罪事実の捜査のために、裁判官の令状発付を認めている。したがって、捜査機関が、将来行われるであろう犯罪の捜査のため、電話傍受をしようとすれば、裁判官は令状を発付することはできず、これを認めるためには新たな立法が必要である。」

「その反面、過去の犯罪事実の捜査のため、現に行われている電話の傍受が必要なこともありうる。この場合には、現行法上、電話傍受それ自体を目的とした令状は規定されていないが、電話傍受の性質に応じ、刑事訴訟法に規定する令状を得て、捜査機関は電話傍受をすることができると解される。そして、電話傍受は、電話回線を流れる電気信号を、音声信号に変換した上で、これを認識し記録するものであるから、その性質は、有体物を前提とする捜索差押ではなく、人の五感によって対象の存在、内容、状態、性質等を認識する検証にあたると解されるから、右令状は、検証許可状によるのが相当である。」

 

「右令状の発付にあたっては、通信の秘密やプライバシーの権利に対する重大な制約になることに照らし、被疑事実となる犯罪事実の重大性、傍受対象となる通話の予測される内容、被疑事実の捜査のためにその通話を傍受する必要性、他のより制限的でない捜査方法によることの困難性など、電話傍受の必要性を慎重に検討すべきである。さらに、検証の実施にあたり、公正さを維持し、プライバシーの侵害を極力避けるために、立会人を設け、関連性のない会話を検証の対象から排除する措置を講ずるよう、相当性の観点から条件を付することが必要であると解される。」

 

・・・として、必要性、相当性の観点から具体的に本件事案を検討し、本件検証を適法としている。

 

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇〇日を第一審判決の懲役刑に算入する。

 

 

理    由

 

 

上記弁護側の主張に対して、

 

「電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではないと解すべきであって、このことは所論も認めるところである。」

 

「そして、重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。」

 

「そこで、本件当時、電話傍受が法律に定められた強制処分の令状により可能であったか否かについて検討すると、電話傍受を直接の目的とした令状は存していなかったけれども、次のような点にかんがみると、前記の一定の要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。

 

 (一) 電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。

 (二) 裁判官は、捜査機関から提出される資料により、当該電話傍受が前記の要件を満たすか否かを事前に審査することが可能である。

 (三) 検証許可状の「検証すべき場所若しくは物」(刑訴法二一九条一項)の記載に当たり、傍受すべき通話、傍受の対象となる電話回線、傍受実施の方法及び場所、傍受ができる期間をできる限り限定することにより、傍受対象の特定という要請を相当程度満たすことができる。

 (四) 身体検査令状に関する同法二一八条五項は、その規定する条件の付加が強制処分の範囲、程度を減縮させる方向に作用する点において、身体検査令状以外の検証許可状にもその準用を肯定し得ると解されるから、裁判官は、電話傍受の実施に関し適当と認める条件、例えば、捜査機関以外の第三者を立ち会わせて、対象外と思料される通話内容の傍受を速やかに遮断する措置を採らせなければならない旨を検証の条件として付することができる。

 (五) なお、捜査機関において、電話傍受の実施中、傍受すべき通話に該当するかどうかが明らかでない通話について、その判断に必要な限度で、当該通話の傍受をすることは、同法一二九条所定の「必要な処分」に含まれると解し得る。」

 

「もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとまで解するのは相当でない。」

 

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

警察24時みたいな内容で、ドキュメンタリーとして面白いですよね。おそらく根本的な手口は現在でも変わらないのではないでしょうか。本事件は、被告人Aと被告人Bによる覚せい剤密売、同様の手口による被告人Bと被告人Cによる覚せい剤密売、被告人Cによるクレジットカード詐欺及び詐欺未遂事件が併合されているのですが、無駄にややこしくなるのを避け、ABの密売の部分だけを取り扱っています。

他サイト様としては、

要点をコンパクトに整理されているものとして「ザ・フューチャー」様の

http://www.thefuture.co.jp/hanrei/2001/05.html

元原裁判官の反対意見も掲示されているものとして、「憲法判例集(仮)」様の

http://blog.livedoor.jp/cooshot5693/archives/52441288.html

・・・が、一読の価値があると思います。

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