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日曜日授業参観事件(百選45事件)


日曜日授業参観事件(東京地判昭和61・3・20、百選45事件)

 

[事実の概要]

 

原告は、東京都江戸川区立小岩小学校に通学する当時小学4年生のX1と、小学6年生のX2、その両親で、キリスト教小岩教会の牧師・副牧師のX3・X4である。
被告は、小岩小学校長、江戸川区、東京都である。

 

原告らは、X1が小学2年生、X2が小学4年生であった3年前から、日曜日の授業参観問題に直面していた。

どういうことかというと、キリスト教においては、日曜日はキリストが復活したとされる週の第1日であり、その朝に礼拝をすることは特別な意味をもっており、子供らへの教会学校もその一環として日曜に行われていたが、日曜日に授業参観がある場合、時間的にかぶってしまうという問題である。

 

原告らは、1年目は、教会学校に子供らを行かせた後、遅刻して授業参観にも行かせた。

2年目には、教会学校の開始時刻を1時間早め、また、その日には朝・昼2回教会学校を開くことで対処した。

しかし、3年目である今年は、前年までと異なり、参観授業時間が短かかったため、定刻どおり教会学校へ出席し、後に遅刻して学校へ行つてもほとんど授業を受けられない事が判明した。

そこで、原告は、学校側に、

「公立学校は日曜日に正規の授業をしてはならない。日曜日授業をあえて行う場合、あらかじめ父母、子どもにこれを任意のものであることを伝え、出欠をとるべきでない。日曜日に公的授業を行い、月曜日を代休とすることは憲法、教育基本法によって保障されている宗教教育の自由との関連で、公立学校として超えてはならない枠を超えるものである。」との要請をした。

しかし、被告校長は、これに何らの応答も処置もしないまま、本件授業を実施し、原告児童らの通知表に同日が欠席日数として数えられ、被告校長は、原告児童らの指導要録に本件欠席記載をした

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欠席じゃない、適切な授業がそもそもなかったんだ!

 

 

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そこまでムキにならんでも・・・

 

 

 

[訴訟上の主張]

 

原告は、

指導要録になされた欠席記載の削除
② 江戸川区と東京都は10万円支払え

・・・という主張をした。

 

その理由は、欠席記載は、憲法20条1項に反する処分性のある行為であるという点の主張が大半である。損害については、X1・X2の児童らが、「ずる休み」の目で見られたこと、通知表に「欠席」と記載されていることを見たときの精神的苦痛及び、X3・X4は、子を持つ親としてあるいは信仰者として精神的苦痛を被ったという主張である。

 

被告の、たった一回の欠席で何をギャアギャア言っているんだという反論に対しては、

 

「今日の日本の学校・企業などが、その選択・採用の際、その子どもの行状を判定する資料として、性格、行動の記録と並んで出欠の記録にも注目し、しかもその際「病欠」よりも「事故欠」を重視し、更にその事故欠の「理由」(指導要録の出欠記録の備考欄に記載される。)に関心をもち、理由の如何によってはそれがたとえ一日であってもマイナスの評価をするのが現実であることが看過されてはならない。被告らは、調査書の出欠の記録において欠席日数が一日増えたとしても合否判定が左右されることはないかのごとく主張しているが、教育現場の実態を知らない皮相な論である」

 

・・・と再反論している。

 

[訴訟経過]

 

なし(本判決が地裁判決だから)

 

[判示内容]

 

主    文

 

一 原告の被告江戸川区立小岩小学校長に対する訴えをいずれも却下する。
二 原告らの被告江戸川区及び被告東京都に対する各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

理    由

 

① 欠席記載の削除請求却下の理由

 

「弁論の全趣旨によれば、右指導要録に出欠の記録をする目的及びその機能は、もっぱらその後に児童を担任する教師らのためにその児童の出欠状況についての情報を提供するためのものであることが認められる。そうすると、本件欠席記載は単なる事実行為であるにとどまり、これにより原告子どもらの権利義務に直接法律上の影響を及ぼすことのないものであるといわざるをえない。」
「よって、本件欠席記載は、抗告訴訟の対象となりうる行政処分には当たらないというべきであり、その取消しを求める訴えは不適法である。」

 

② 損害賠償請求棄却の理由

 

授業参観は、「第一に児童の授業の実際の場面を父母に参観してもらうこと、第二に参観授業の終了後に担任の教師と父母との間で、日頃の学習指導のみならず、生活指導あるいは家庭での生活の模様など児童の教育に関する諸般の問題について、懇談し、意見を交換する場を持つこと、第三に校長が学校経営(児童の教育を含む。)の方針ないし考え方について父母に説明し、理解してもらう(これは、右第一及び第二の行事が終了した後に行われることが多い。)ことを目的とするものであり、今日の学校教育上、父母の学校教育に対する理解を深め、また、児童に対する教育効果を高める上で、十分な意義を有する教育活動である」ため、(学校教育法施行規則47条に規定する)「特別の必要がある場合」にあたる

 

そして、「この授業参観を日曜日に行う必要性について考察するのに、まず、授業参観は、児童の父母が実際の授業を見ることを必須の条件としていることから、これを行う以上、現実に児童の父母がより多く参観に来ることができるような曜日を選定しなければならないといえる。そして、証人の証言によれば、小岩小学校では一学期に一回の割合で平日に父母の授業参観日を設けているが、その場合には、児童の七、八割の母親が参観するものの、父親の参観はほとんどないことが認められ」、「そうすると、少なくとも会社員及び公務員等のいわゆるサラリーマン家庭については日曜日、国民の祝日等の休日には勤務を要しない可能性が高いから、日曜日は、この多数を占める家庭について父母双方あるいは少なくとも平日参観ができない父親も参観に来ることができる可能性が大きい日ということになる」と論証し、手続的には適法(学校教育法施行規則47条違反ではないという意味)になされたものである事を導いている。

 

次に、日曜参観が実体的に違法かどうかは、

 

「公教育として学校教育上十分な意義を有するものであり、かつ、法的な根拠(=学校教育法施行規則47条など)に基づいているものであるから、これを実施するか否か、実施するとして午前、午後のいかなる時間帯に行うかは被告校長の学校管理運営上の裁量権の範囲内であるということができる。したがつて、本件授業の実施とこれに出席しなかつた原告児童らを欠席扱いにしたことが原告らに対して不法行為を構成する違法があるとすれば、それは、被告校長が右の裁量権の範囲を逸脱し、濫用した場合に限られる

 

・・・という基準を定立している。

 

この判断の枠組みの中で、

 

「一般に、宗教教団がその宗教的活動として宗教教育の場を設け、集会(本件の教会学校もここにいう「集会」に含める。)をもつことは憲法に保障された自由であり、そのこと自体は国民の自由として公教育上も尊重されるべきことはいうまでもない。しかし、公教育をし、これを受けさせることもまた憲法が国家及び国民に対して要請するところであり、具体的には学校教育法等の関係法規によって定められたところに従って、被告校長その他の教育実務の運営に当たる機関において実施することが要求されている行為であることもまた明らかである。」という憲法論を出発点として論理を展開している。

 

この後は、色んな宗教にこんな形で配慮していたら公教育が破綻するよね、という内容である。

 

そして、「原告らの被る右の不利益は原告らにおいて受忍すべき範囲内にあるものと言わざるをえない」と評価され、

 

結局、

「以上、本件授業の実施に伴い、原告らに一定の事実上の不利益が生ずることを認められるものの、本件授業は、法令上の根拠を有し、その実施の目的も正当であるところ、実際に当該年度に実施された日曜日授業の回数(弁論の全趣旨によれば、小岩小学校における昭和五七年度の日曜日授業参観は本件授業のみであったことが認められる。)及び授業参観の目的を達成するためにとりうる代替措置の可能性の程度からみても、本件授業の実施に相当性が欠けるところはなく、被告校長の裁量権の行使に逸脱はない。そして、日曜日に出席しなかつた児童に対して指導要録に欠席記載をとるべきことも前記判示のとおりこれを正当として是認できるから、被告校長が本件授業を実施し、本件欠席記載をしたことは憲法一四条一項、二〇条一項、二六条、教育基本法三条、七条、一九条に違反するものではなく裁量権の逸脱もないから、右所為を不法行為と主張する原告らの請求はいずれも理由がない。」

 

・・・と結論づけられ、主文となっている訳である。

 

[コメント&他サイト紹介]

 

百選43事件と対比してみると、どんな宗教にも色々な人がいる事が分かって面白いですよね。それはそうと、地裁の判示内容をこんなに丁寧に引っ張る必要があるのか、少し悩んでおります。

判例百選の中では、ややマイナーなのか、あまり詳しく分析された他サイト様はありませんでした。

http://ameblo.jp/ka2829ma/entry-11409845821.html

・・・そんな中、「学校の常識・非常識」様のこのページが、比較的簡潔によくまとまっている気がいたしましたので、ご紹介させて頂きます。

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