岐阜県青少年保護育成条例事件(最判平成1・9・19、百選56事件)
[事実の概要]
皆に笑顔を届けたい・・・
そのために私に何ができるのだろうか・・・
・・・そうだっ!
被告人は、自動販売機により図書を販売することを業とする株式会社X1及びその代表取締役X2である。
X2は、岐阜県内の道路沿いの喫茶店A前及び同じく道路沿いのB前において、X1があらかじめ設置し、管理する図書自動販売機に、計5回にわたって、「~~通信二月号」、「~~二月増刊号(MY美少女)」等、岐阜県知事が昭和54年7月1日告示第539号をもって、あらかじめ(包括)指定した有害図書に該当する雑誌を収納した。
(岐阜県の青少年)
本屋さんよりも買いやすいよ、おじさん!(ニコニコ)
[裁判上の主張]
岐阜県青少年保護育成条例は、
6条1項において、
図書の内容が「著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長するため、青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」と認めるとき、知事は当該図書を「有害図書」として指定する・・・ものとしており、事後的な個別指定を原則としていた。
もっとも、6条2項においては、
「有害図書」のうち、「特に卑わいな姿態若しくは性行為を被写体とした写真又はこれらの写真を掲載する紙面が編集紙面の過半を占める」刊行物については、例外的に、個別指定に代えて、当該写真の内容を予め規則で定めるという方法による包括指定できるものとしていた。
この6条2項を受けて、岐阜県青少年保護育成条例施行規則2条は、「特に卑わいな姿態」とは、「全裸、半裸又はこれに近い状態での卑わいな姿態」を指し、「性行為を被写体とした写真」とは、「性交又はこれに類する性行為」を指すものと定めていた。
そして、さらにこの意味、内容をより具体化したものが、昭和54年7月1日岐阜県告示第539号によって、定められていた。
そして、このような有害指定図書に関して、
岐阜県青少年保護育成条例6条の6は、
有害指定図書を自動販売機に収納することを禁止しており、
岐阜県青少年保護育成条例21条5号は、
上記6条の6の違反について、3万円以下の罰金または科料に処せられる旨を定めていた。
ほらね、ダメって書いているよね!(ニコニコ)
弁護側は、
① 本件条例6条1項が、有害図書の認定基準として掲げる「著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長する。」との文言は、その内容が広汎、かつ不明確であって、憲法31条が保障する罪刑法定主義に違反する。
② 本件条例のように、各地方公共団体が条例によって青少年の保護育成上有害である図書の指定基準を定めて販売等を規制するのは、その規制の内容や運用に著しい地域差を生ずることになるから、そのような条例は、憲法14条が保障する法の下の平等に反して無効である。
③ 本件条例による有害図書の指定は、当該図書の全面的販売禁止の結果を招くこととなるから、右指定に関する規定は、検閲を禁止した憲法21条に違反して無効である。
・・・などと反論した。
[訴訟経過]
第1審判決(岐阜簡判昭和62・6・5):
被告人X1社・同X2を、それぞれ罰金6万円に処する。
控訴審判決(名古屋高判昭和62・11・25):控訴棄却
まず、法定刑が罰金3万円以下なのに、宣告刑が罰金6万円であり、3万円を超過しているのは、自販機に雑誌を納入した5回の実行行為が併合罪の関係に立ち、処断刑の上限が刑法48条2項により、合算されて15万円になっているからである。
そして、第1審は、
弁護人の①の主張に対して、
「その文言自体をみると、必ずしも犯罪構成要件として十分であるとはいえないが」、「岐阜県告示第539号によって、その意味、内容がより具体的に定められているのであるから、この種の取締規定としては、憲法第31条によって要請されると解される犯罪構成要件規定の明確性に欠けるところはない」と、一蹴し、
弁護人の②の主張に対して、
「昭和33年10月15日最高裁判所大法廷判決(売春等取締条例違反事件)の趣旨に照らし、右弁護人の主張は採用できない」と否定している。
ただし、この点に関しては、「条例の内容や運用に地域差のあること、特に他府県においては、本件図書と同一内容の図書について取締りがなされていない点は、量刑にあたって十分に斟酌すべきである」と判断している。
弁護人の③の主張に対して、
「本件条例が定める有害図書の指定は、自動販売機による販売等、限られた販売方法等の規制に関するものであるから、本件条例の目的からみて、合理的な制限と範囲内に止まるものであって、検閲を禁止した憲法第21条に抵触するものではない」としている。
弁護側は、①~③の主張を中心に上告した。
[判示内容]
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
(1) 最小限度の理由と結論
「上告趣意のうち、憲法二一条一項違反をいう点は、岐阜県青少年保護育成条例六条二項、六条の六第一項本文、二一条五号の規定による有害図書の自動販売機への収納禁止の規制が憲法二一条一項に違反しないことは、当裁判所の各大法廷判例(昭和二八年間第一七一三号同三二年三月一三日判決・昭和三九年(あ)第三〇五号同四四年一〇月一五日判決・、昭和五七年(あ)第六二一号同六〇年一〇月二三日判決)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。同上告趣意のうち、憲法二一条二項前段違反をいう点は、本条例による有害図書の指定が同項前段の検閲に当たらないことは、当裁判所の各大法廷判例(昭和五七年(行ツ)第一五六号同五九年一二月一二日判決・昭和五六年(オ)第六〇九号同六一年六月一一日判決)の趣旨に徴し明らかであるから、所論は理由がない。同上告趣意のうち、憲法一四条違反をいう点が理由のないことは、前記昭和六〇年一〇月二三日大法廷判決の趣旨に徴し明らかである。同上告趣意のうち、規定の不明確性を理由に憲法二一条一項、三一条違反をいう点は、本条例の有害図書の定義が所論のように不明確であるということはできないから前提を欠き、その余の点は、すべて単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由に当たらない。」
(2) 理由を補足で説示
「本条例の定めるような有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであつて、青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい。」
「さらに、自動販売機による有害図書の販売は、売手と対面しないため心理的に購入が容易であること、昼夜を問わず購入ができること、収納された有害図書が街頭にさらされているため購入意欲を刺激し易いことなどの点において、書店等における販売よりもその弊害が一段と大きいといわざるをえない。」
「しかも、自動販売機業者において、前記審議会の意見聴取を経て有害図書としての指定がされるまでの間に当該図書の販売を済ませることが可能であり、このような脱法的行為に有効に対処するためには、本条例六条二項による指定方式(=包括指定)も必要性があり、かつ、合理的であるというべきである。そうすると、有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において、憲法二一条一項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害図書の流通を幾分制約することにはなるものの、青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約であるから、憲法二一条一項に違反するものではない。」
「よって、刑訴法四〇八条により、主文のとおり判決する。」
[コメント&他サイト紹介]
短いですが、判示内容は、(伊藤正己裁判官の長い補足意見を除いた)多数意見について、かなり引っ張ってきています。雑誌名や株式会社名は載せようか迷いましたが、一応伏せておきました。
私は長くなるので載せませんでしたが、本判例の伊藤正巳裁判官の補足意見も重要ですので、それが学習できる他サイト様を紹介します。
多数意見と伊藤補足意見の要点が簡潔によくまとまっているものとして、
http://inf.tumblr.com/post/32279249/2
・・・この「whimsy inflorescencia」様のこの記事がオススメです。
また、
http://study.web5.jp/090421a.php
・・・この記事は、H20年度の(新)司法試験の考査委員の採点実感と絡めて、伊藤補足意見を学習することの大切さを説かれています。同時に、本判決の伊藤補足意見がかなり引用されています。独特の観点からの素晴らしい記事だと思います。
憲法学的に、さらに深い理解へ到達することを目指すのであれば、
http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/seminar/1104human_rights_of_minor.htm
・・・甲斐教授のこの記事がオススメです。