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親族相盗(百選33事件)


親族相盗(最決平成6719、百選(第6版)33事件、百選(第7版)掲載なし)

 

[事実の概要]

 

被告人Xは、平成4825日午前130分ころ、大分県内のA方庭先において、そこに駐車中の軽四輪貨物自動車内から、A保管に係るB株式会社(代表取締役C)所有の現金約26000円を窃取した。

 

なお、被告人XAとは、曾祖父母を同じくする6親等の親族にあたる。

 

※ただし、XAが親族関係にあることが分かったのは、第1審公判の途中であった。

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

窃盗罪(刑法235条)が成立すると主張し、

 

弁護側は、

 

本件窃盗の客体である現金の占有者はAであり、被告人XAとの間には同居していない親族(六親等の血族)の関係があるから、本件は刑法2441項後段により親告罪に該当するというべきであるのに、Aからの告訴のないまま公訴提起された本件は、公訴を棄却すべきである、と主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(日出簡判平成5930):

 

被告人を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する

 

控訴審判決(福岡高判平成623):本件控訴を棄却する

 

 

1審判決は、

 

執行猶予を付した理由について、

 

「被告人は年齢もまだまだやり直しが利く30代前半だし、充分反省していると見受けられるし、被害弁償も終了した。」

 

保護観察に付した理由について、

 

「保護観察に付したのは,次の事を実行してもらいたいためである。自分に合った職業を一日も早く見つけて真面目に働くこと。放浪癖をなくすこと。他人のものに手をださぬこと。母親に心配をかけぬこと。」

 

・・・と説示した。

 

控訴審判決は、

 

弁護側の主張(=告訴がないのに、公訴提起したのだから、第1審判決は、公訴棄却すべきだった)に対し、

 

「原審で取り調べた証拠によれば、本件窃盗(変更後の訴因及び原判示の窃盗)の客体である現金の占有者はAであり,被告人XAとの間には同居していない親族(六親等の血族)の関係があるが、他方、右現金の所有者はB株式会社(代表取締役C)であることが認められる。したがって、本件の場合、窃盗犯人と窃盗の客体である財物(以下、単に「財物」という。)の占有者との間には刑法2441項後段の親族関係があるが、窃盗犯人と財物の所有者との間には親族関係がない。」

 

「窃盗罪においては、財物に対する占有のみならず、その背後にある所有権等の本権も保護の対象とされているというべきであるから、財物の占有者のみならず、その所有者も被害者として扱われるべきであり、したがって、刑法2441項が適用されるには、窃盗犯人と財物の占有者及び所有者双方との間に同条項所定の親族関係のあることが必要であり、単に窃盗犯人と財物の占有者との間にのみ又は窃盗犯人と財物の所有者との間にのみ右親族関係があるにすぎない場合には、同条項は適用されないと解すべきである。」

 

・・・と判断した。

 

 

[判示内容]

 

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

弁護側の上記主張に対し、

 

「本件は、被告人が、B株式会社(代表取締役C)の所有し、被告人と六親等の血族の関係にあるAの保管する現金を窃取したという事案であるところ、窃盗犯人が所有者以外の者の占有する財物を窃取した場合において、刑法二四四条一項が適用されるためには、同条一項所定の親族関係は、窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要するものと解するのが相当であるから、これと同旨の見解に立ち、被告人と財物の所有者との間に右の親族関係が認められない本件には、同条一項後段は適用されないとした原判断は、正当である。」

 

・・・と判示した。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

1審判決の裁判官は人情派ですね。なかなかこのような文章は書こうと思っても気恥ずかしくなって書けないものですが、堂々と書いておられるあたり、人情派な気がいたします。

 

本事件における裁判上の攻防においては、親族相盗に関する規定は、占有者と犯人との間にありさえすればよいと判示したともとれる最判昭和24521の(文言及び射程の)解釈が重要なポイントだったのですが、今回の最判平成6719の判示が出た以上、この判例の先例的価値は現在では全くありませんので、取り上げませんでした。

 

川口教授の百選解説にやや詳しく載っていますので、気になる方はご覧になればより理解も深まると思います。

 

より重要なご指摘としましては、今回の判例が占有者だけでなく所有者にも配慮を示したことで、「最高裁の所持説(占有説)への傾斜に歯止めがかかった」というものです。

 

他サイト様としましては、

本判例を分析されているものはありませんでしたが、最判平成20・2・18に触れられているものが多かったですね。

例えば、「泉総合法律事務所」様の、

http://www.tokyo-lawoffice.com/hanrei/post_147.html

・・・の記事が丁寧にまとまっていると思います。

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