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脅迫罪の罪質(百選12事件)


脅迫罪の罪質(最判昭和35318、百選(第6版)12事件、百選(第7版)11事件)

 

[事実の概要]

 

―――時代背景―――

 

※大字(おおあざ)というのは、今でいう町みたいなもの。

※根成柿は、現在奈良県大和高田市にある。

 

(最初の主人公は、天満村、途中からの主人公は、天満村の一区域である根成柿であると頭に入れておくと、話が入ってきやすい)

 

 

昭和30101日町村合併促進法が施行し、奈良県下においても町村合併が推奨されていた。

 

奈良県高田市天満村、同金橋村、同新沢村の三村は学校水利等の利害関係があって、奈良県庁はこの三村合併を要望し天満村は県庁の要望に従い計画を進めていたところ、右新沢村及金橋村は昭和315月突如橿原市に合併した。

 

そこで天満村は陵西村に合併の計画を立てたが同村は同年九月三十日に大和高田市に合併した。

 

天満村は隣が、橿原市と大和高田市だけになっちゃったので、橿原市か又は大和高田市のいずれかに合併しなければならないことになった。

 

天満村は、その区民代表の意見を聞いた結果、根成柿,箸喰、奥田の三大字は橿原市に、出、西坊城、秋吉、吉井の四大字は大和高田市に合併したいと言った。

(根成柿,箸喰、奥田、出、西坊城、秋吉、吉井は全て天満村の一区域である)

 

昭和321月奈良県知事の勧告により、(本当は橿原市とくっ付きたかった)根成柿と箸喰については、一旦天満村全体が大和高田市と合併した後で、大和高田市において、境界変更の上、橿原市に編入すべく善処する申合せを行った上で、実際に天満村と大和高田市がくっついた。合併後の名前は、大和高田市である。

 

その後、箸喰は、住民投票の結果分市派(=大和高田市から出て行って、橿原市の一部になりたい派)の勝利となり境界変更の上同年七月一日橿原市に編入し、

 

次いで根成柿も橿原市派の要望強く住民投票が行われたが所定の得票に達せず分市派の敗北に帰した。(=根成柿は、大和高田市に残ることになった)

 

もともと、根成柿においては合併前から、高田派と橿原派とが対立し、高田派はXYが中心となり、橿原派は被告A及び訴外BC、中D4名が中心となって互いに抗争を続けていたが、前示分市の住民投票に際しては両派の抗争は熾烈になり互に感情悪化し強烈な言論戦、文章戦その他あらゆる手段に依り自派の投票獲得に奔走していた。

 

 

―――犯罪の実行行為―――

 

 

橿原派の被告Aは、

 

第一に、Y名義を騙って、X宛に、「出火御見舞申上げます火の元に御用心八月十六日」と記載した郵便はがきによる脅迫状一通を作成して投函し、X方に到着させ、同人に受領させ同人所有の住宅及附属建物の火災発生を予知することに依り其の財産に危害を加えることを通告して同人を脅迫し、

 

第二に、X名義を騙って、Y宛に、「出火御見舞申上マス火の用心に御注意八月十五日」と記載した郵便はがきによる脅迫状一通を自ら作成してこれを投函し、Y方に到着させ同人に受領させ同人所有の住宅及附属建物の火災発生を予知することに依り其財産に危害を加えることを通告して同人を脅迫した。

 

(つまり、Aは、高田派の中心人物であるXYを少し脅して大人しくさせようとしていたのである。あわよくば、XY間の相互不信による高田派の瓦解も狙っていたのかもしれない)

 

 

[裁判上の主張]

 

上告理由から引っ張ってくると、弁護側は、

 

刑法222条の脅迫罪は、同条所定の法益に対して害悪を加うべきことを告知することによって成立し、その害悪は一般に人を畏怖させるに足る程度のものでなければならないところ、本件二枚の葉書の各文面は、これを如何に解釈しても出火見舞にすぎず、一般人が右葉書を受取つても放火される危険があると畏怖の念を生ずることはないであらうから、仮に右葉書が被告人によって差出されたものであるとしても被告人に脅迫罪の成立はない、と主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(奈良地判昭和331215):

 

被告人を懲役六月に処する。
但本裁判確定の日より二年間右刑の執行を猶予する。

 

控訴審判決(大阪高判昭和34730):控訴棄却

 

 

1審判決と控訴審判決は、サラッと事案を処理しているものであり、さして見るべき点はない。

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

上記弁護側の主張に対して、

 

「本件におけるが如く、二つの派の抗争が熾烈になっている時期に、一方の派の中心人物宅に、現実に出火もないのに、「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」、「出火御見舞申上げます、火の用心に御注意」という趣旨の文面の葉書が舞込めば、火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であるから、右は一般に人を畏怖させるに足る性質のものであると解して、本件被告人に脅迫罪の成立を認めた原審の判断は相当である。」

 

・・・と一蹴した。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

事実の概要を分かりやすく説明するのに、少し手間がかかりました。最初は奥田、秋吉、吉井とかは人の名前だと思っていましたから、???って感じでした。

 

ちなみに、本件のような文書による脅迫の場合、告知名義人は、実際には存在しない人の名や、偽名であってもよいとされています(大判明治431115)。まぁ、当たり前ですよね。

本判例を丁寧に説明している記事はもちろん、脅迫罪について説明している記事も見当たらない・・・

というわけで、

http://taiho-bengo.com/information/zaimei/sub10_2/index.html

・・・東京弁護士法律事務所さんの脅迫罪に関する記事です。学問的な記事ではありませんが、意外と興味深いです。

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