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無銭飲食・宿泊(百選50事件)


無銭飲食・宿泊(最決昭和3077、百選(第6版)50事件、百選(第7版)52事件)

 

[事実の概要]

 

被告人は、所持金なく、かつ、代金支払の意思がないにもかかわらず、支払意思があるかの如く装って、東京都文京区の料亭において昭和27920日から同月22日迄の間宿泊1回飲食3回をなした。

 

同月22日、自転車で知人を見送ると嘘を言って、店先に出て、そのまま逃亡し、その代金合計32290円の支払を免れた。

 

 

※初めて、百選解説が取り上げている以上の「事実の概要」が全くない事案を取扱いました。こう「事実の概要」が短いと、少し寂しいですね・・・

 

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

被告人の行為は、詐欺罪(刑法2462項)に該当する、と主張した。

 

※弁護側は、控訴審において、原判決の矛盾や事実誤認、量刑不当を主張するもので、さして取り上げるべき主張はしていない。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(水戸地判昭和2976):被告人を懲役6に処する。

 

控訴審判決(東京高判昭和291222):本件控訴はこれを棄却する。

 

 

1審判決は、事実認定をして、淡々と2項詐欺罪を適用したにすぎず、見るべきところはない。

 

控訴審判決は、

 

「原判決が、その事実理由において、「被告人は所持金なくかつ代金支払の意思がないにもかかわらず然らざるものの如く装って」と冒頭し、原判示日時場所において原判示のような宿泊、飲食をなした上、「逃亡してその代金32290円の支払を免れたものである」と説示したのは、欺罔行為の時期、換言すれば、詐欺罪成立時期の認定について、首尾一貫しないような観がある。」

 

「けれども、ひるがえって考えてみると、飲食店が客に提供する行為の態様は一様ではない。即ち場屋その他諸設備の提供、飲食物の供与、それ等に附随する接待行為など一連の行為であって、しかもそれ等は相錯綜し、一々法律的に分折することは著しく困難であるばかりでなく、社会通念上からいっても、同一の機会になされた叙上のような一連の行為は、包括して一個の行為とみるのを相当とするから、犯人が最初から欺罔の意思をもって飲食遊興した場合でも相手方を最終的に欺罔した行為が終了した時において、包括的に一個の詐欺罪が成立すると解すべきものである。」

 

「これを本件の場合にみると、原判決をその挙示する証拠と対照して検討すれば、被告人は最初から欺罔の意思をもつて原判示被害者方において、原判示のような飲食、宿泊をなした後、自転車で帰宅する知人を見送ると申欺いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したものであるから、その時において代金支払を免れようとする欺罔行為が終了し、ここに詐欺罪は既遂に達したものというべきである。」

 

 

[判示内容]

 

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

(1)   原判決への批判

 

「刑法二四六条二項にいわゆる「財産上不法の利益を得」とは、同法2362項のそれとはその趣を異にし、すべて相手方の意思によって財産上不法の利益を得る場合をいうものである。従って、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払をしなかっただけで足りるものではないと解すべきである。」

 

「されば、原判決が「原(第一審)判示のような飲食、宿泊をなした後、自動車で帰宅する知人を見送ると申欺いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したこと」をもって代金支払を免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当であるといわなければならない。」

 

(2)本件の処理

 

「逃亡前すでにBを欺固して、代金33290円に相当する宿泊、飲食等をしたときに刑法246条の詐欺罪が既遂に達した」

 

・・・と評価すべきであり、原判決は無用の判示をしたけれど、結論において正当であるとして、上告を棄却した。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

無銭飲食等は、本件のように最初からお金を払わないつもりであったのか(=犯意先行型)、「やばっ!財布持ってくるの忘れてた!」とか「こんな不味い店に金払いたくね~、逃げよ!」って感じで、途中からお金を払う気がなくなった場合なのか(=飲食等先行型)によって処理が異なります。

 

犯意先行型であれば、本判決が処理したように、飲食物等を頼んだ時点で未遂、店側が提供した時点で、既遂となるのです。

 

しかし、飲食等先行型であれば、飲食物等を頼んだ時点ではお金を払うつもりだったのですから(=このような場合を飲食等先行型と呼んでいるのですから)、この時点では、まだ実行の着手は存在せず、未遂は成立しません。そこで、支払いを免れた行為に違法性を見出し、支払い免脱の2項詐欺を問題とする事になるのですが、

 

本判例が、2項詐欺の成立には、「相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要する」と言っているように、財産上の利益の移転についての処分意思が観念できるかどうかがポイントになります。

 

そして、単に黙って逃げた場合や、本件のように「自転車で帰宅する知人を見送る」と逃げる隙を作るためだけに嘘をついたような場合は、(本件で例え店員さんが「わかりました~」と言っていたとしても、)店側の(財産上の利益の移転の)処分意思は観念できませんので、2項詐欺の成立は否定されることになるわけです。(但し、本件と似たような事案で詐欺罪を肯定している判例もありますので、こう言いきれるかは本当は微妙なのですが。)

 

他サイト様としては、本判例を分析されたものは見当たりませんでした。

 

「弁護士作花知志のブログ」様の、

 

http://ameblo.jp/spacelaw/day-20120407.html

 

・・・が、本論点を題材として、日々の学習の心構え的な事をおっしゃっています。

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