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権利の行使と恐喝罪(百選58事件)


権利の実行と恐喝罪(最判昭和301014、百選(第6版)58事件、百選(第7版)60事件)

 

[事実の概要]

 

被告人Xは昭和209月頃、Aと共にB公社名義で土木建築請負業を始めた。

 

昭和225月頃A等とB株式会社を創立し、社長であるAの下で専務取締役となったが、その後Aと不仲になった。

 

昭和23年1~2月頃、B株式会社を退くにあたり、Aに対して自己が同会社の為金18万円位を出資したと主張し、Aはこれを否定して争ったが、結局Aより金18万円の支払を受けることになった。

 

そして、内金15万円の支払を受けたが、その後Aが残金の支払をしないので、友人である被告人Yに事情を述べてAから金を取り立てるよう依頼し、

 

被告人Yは知り合いの被告人Z及び被告人Wに伝え、被告人4名は共謀の上、右残金をAから取立てると共に、同Aから金員を喝取しようと企てた。

 

被告人らはAに対し、もし要求に応じない時はAの身体に危害を加えるような態度を示し、かつ、Aに対し被告人Y及びZ等は「俺達の顔を立てろ」等と申向け、Aをしてもし要求に応じない時は自己の身体に危害を加えられるかも知れないと畏怖せしめ、よって同年2月下旬頃、A方で、Aをして前記残額3万円を含む金6万円を被告人Xに交付させた。

 

 

※全く重要ではありませんので取り上げませんが、本裁判においては、被告人Yの詐欺・恐喝が山のように併合され、かつ、被告人Zの銃刀法違反も併合審理されています。被告人Xの行為は、これだけです。

 

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

被告人Xらの行為は、恐喝罪(刑法2491項)にあたると主張した。

 

弁護側は、

 

債権の取立ては、正当な権利行使であり、権利行使の範囲内であれば恐喝罪は成立しないのであるから、Xが正当に権利を有していた3万円についてまで恐喝罪を認めるのは不当で、その3万円については、脅迫罪が成立するにとどまり、残りの3万円についてのみ恐喝罪が成立する、と主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

 

1審判決(東京地判昭和26618):

 

被告人Yを懲役4年に、被告人Zを懲役12月に、同W及び同Xを各懲役1に処する。

但し、同Wにつき、Wに対する本裁判確定の日から5年間、また、同Xにつき、Xに対する本裁判確定の日から3年間刑の執行を猶予する。

 

 

控訴審判決(東京高判昭和27529):

 

原判決を破棄する。

被告人Yを、原判決添附第一表の(一)及至(七八)、同第二表中の(一)乃至(四)、同第三表中の(一)乃至(一四)の罪につき懲役1に、同第二表中の(五)乃至(二〇)、同第三表中の(一五)乃至(二七)、同第四表中(一)乃至(八)の罪及び原判示第三の罪につき懲役1に処する。

Z懲役1に、同WXを各懲役10に処する。

但し、被告人WXに対しては、本裁判確定の日から各3年間いずれも右各刑の執行を猶予する。

 

 

※第一審判決は、事実を淡々と処理しているだけで、見るべきところはありません。また、控訴審における攻防及び控訴審が第1審判決を破棄した理由は、以下で一応説明しておりますが、本当にどうでもいいものです。

 

※第1審判決は、昭和26518日に弁論を終結したものの、同年618日の公判期日において職権により、さきに終結した弁論を再開する旨の決定をしました。そして、職権により被告人Yに対する詐欺事件について証人Cを取り調べる旨の決定を言い渡し、次回期日を同年620日午後1時と指定し、その公判期日において証人Cを取り調べた上、検察官の論告求刑、各弁護人の担当被告人のための弁論、各被告人の最終陳述を聴いた後弁論を終結し即日判決の宣告をなしたのですが、

「原判決書原本を調べてみるとその作成日附は昭和26618日と記載されていること明らか」だったのです。

 

※つまり、知りたかった事を証人Cから聞いたし、その日のうちに原判決完成した~と喜びのあまり(・・・かどうかは知りませんが)、判決作成日付をその日としてしまい、弁論終結前に判決が完成した事になっちゃった訳です。それで、「原判決書は本件弁論終結前に作成された違法な判決」として、原判決は破棄されたのです。

 

 

・・・とはいえ、第1審判決と大体同じくらいの宣告刑を控訴審も言い渡していますので、それに不服のある弁護側が上告したのです。

 

[判示内容]

 

 

主    文

 

本件各上告を棄却する。

 

 

理    由

 

上記弁護側の主張(=正当な権利を有している3万円について恐喝罪は成立しない)に対して、

 

「他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり、かつ、その方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超えない限り、なんら違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする。」

 

「本件において、被告人らが債権取立てのためにとった手段は、原判決の確定するところによれば、もし債務者Aにおいて被告人らの要求に応じないときは、Aの身体に危害を加えるような態度を示し、かつ、Aに対し被告人Y及びZ等は「俺達の顔を立てろ」等と申向けAをしてもしその要求に応じない時は自己の身体に危害を加えられるかも知れないと畏怖せしめたというのであるから、もとより、権利行使の手段として社会通念上、一般に認容すべきものと認められる程度を逸脱した手段であることは論なく、従って、原判決が右の手段によりAをして金六万円を交付せしめた被告人等の行為に対し、被告人XAに対する債権額のいかんにかかわらず、右金六万円の全額について恐喝罪の成立をみとめたのは正当であって、所論を採用することはできない。」

 

・・・と判断している。

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本判決のポイントは、(従来の判例においては原則的なテーゼであった、)「正当な権利の範囲内かどうか」について、あくまで判断する際の一つの要件であると捉えなおし、①正当な権利の範囲内かどうか、②方法が、社会通念上許容できる程度内かどうかの二本柱で考えるという基準を示し、本判決の認定のように、②がアウトであるという理由だけで恐喝罪成立が肯定できる(=②も、一考慮要素なのではなく、要件となっている)事を示したことです。

 

他サイト様としましては、「司法試験・法科大学院(ロースクール)情報」様の、

 

http://study.web5.jp/070621a.htm

 

・・・の再現答案の記事がご参考になるのではないでしょうか。

 

恐喝罪全般を網羅しているものとして、「東京弁護士法律事務所」様の、

 

http://danjotrouble-bengo.com/zaimei-guide/forViolence/kyokatsu/index.html

 

http://keiji-bengo.com/offense/kyoukatu.html

 

・・・これは、かなりオススメです。恐喝罪について、基礎から確認できると共に、恐喝罪に関する弁護実務を教えてくださっています。

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