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接続犯(百選100事件)


 

接続犯(最判昭和24・7・23、百選(第6版)100事件、百選(第7版)99事件)

 

【事実の概要】

 

被告人は長男Aと共謀の上、昭和22年12月14日午後10時頃から翌15日午前0時頃までの間3回にわたって、

栃木県塩谷郡喜連川村大字鷲宿字堀内所在喜連川農業会鷲宿(第4号)倉庫で同農業会倉庫係B保管の水粳玄米4斗入3俵ずつ合計9俵を窃取した。

 

※ 昭和21年12月中、前後7回にわたって、同じ倉庫で同じくB保管の水粳玄米4斗入15俵を窃取した行為についても併せて起訴されていましたが、高裁で「犯罪の証明がない」として斥けられています。

 

【裁判上の主張】

 

検察側は、

3回にわたって米を窃取した行為が、各々窃盗罪(235条)を構成し、3つの窃盗罪は併合罪となる、と主張した。

 

弁護側は、上告理由において、

「本件は①一個の犯意に基づく行為であり、②窃取行為は継続していて、その間断絶しておらず、③その手段も同一、即ち最初に倉庫の窓にかけた梯子を、二度目三度目の窃取時も利用しており、④被害者が同一人で、⑤被害物も同一品種で、⑥その始期から終期まで、即ち窃盗着手から終了までの所要期間は二時間であって、とても短い事などからみて、常識上当然一個の行為とすべきもので、併合罪として刑の加重をするべきものではないし、加重する必要もない」

「改正刑法は連続犯の規定を削除しているが、これは今まで裁判所が認定した連続犯、即ち前後2年間に3回位やった窃盗行為を連続犯として一罪として処罰したような、常識上不合理な判決を排斥する為であって、時間的にも行為上も継続して行われた犯行まで併合罪として処断しようとした趣旨ではない。この点より見て原判決は法令の適用に誤りがある」・・・と主張した。

 

※ 旧刑法55条には、「連続したる数個の行為にして同一の罪名に触れるときは一罪としてこれを処断する」という連続犯の規定がありました。

 

【訴訟経過】

 

古い判例であるため、地裁判決は見当たりませんでした。

東京高裁(年月日不明)は、

 

  主   文

 

被告人を懲役1年6カ月に処する

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

公訴事実中後記理由中記載のように昭和21年12月中前後7回にわたり玄米を窃取した点について被告人は無罪。

 

  理   由

 

「法律に照らすと被告人の判示所為は、おのおの刑法第235条に該当するが、以上は同法第45条前段の併合罪であるから、同法第47条、第60条によって併合罪の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6カ月に処し、訴訟費用は刑事訴訟法第237条第1項によって全部被告人の負担とすることにする」

「なお、公訴事実中被告人が昭和21年12月中前後7回にわたって、判示倉庫で判示B保管の水粳玄米4斗入15俵を窃取したとの点は、犯罪の証明がないから刑事訴訟法第362条によって、被告人に対しこの点について無罪の言渡しをすることとする」

・・・としました。これに対して、上で述べたような理由で弁護側が上告したのです。

 

【判示内容】

 

  主   文

 

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す

 

  理   由

 

「原審は右事実を併合罪として処断しているのである、ところが右3回における窃盗行為は、わずか二時間あまりの短時間のうちに同一場所で為されたもので、同一機会を利用したものであることは挙示の証拠からも窺われるのであり、かついずれも米俵の窃取という全く同種の動作であるから単一の犯意の発現たる一連の動作であると認めるのが相当であって原判決挙示の証拠によるも、それが別個独立の犯意に出でたものであると認めるべき別段の事由を発見することはできないのである。」

「然らば右のような事実関係においてはこれを一罪と認定するのが相当であって、独立した三個の犯罪と認定すべきではない。それゆえ原審が証拠上別段の事由の認められないに拘わらず、右3回の窃取行為を独立した3個の犯罪行為と認定したことは実験則に反して事実を認定した違法であると云わなければならない,この点に関する論旨は理由があり原判決は破毀を免れない。」

 

【コメント&他サイト紹介】

 

上告理由が説得的でしたね。最高裁も基本的には、上告理由の考え方を受け入れているようです。

ただ、どこかの文献に書かれていたことではありませんが、この判例は「単一の犯意の発現」と言えるか、という点を最重視しているように見えます。

なぜなら、この判例の文言を素直に読めば、時間的・場所的要素や、同一機会か、同種の動作か、という点は、全て「単一の犯意の発現たる一連の動作」といえるかの判断材料という位置づけですし、例外としての「別段の事由」は、「別個独立の犯意」の有無にかかってくるみたいですので。

しかし、須之内教授の百選解説(第6版)は、そのような「単一の犯意」や「犯意の継続」というような主観的要件を強調する(しすぎる)考え方には、批判的なようです。

 

まぁ、事案を処理する際は、(上告理由は明示していたのに)この判例が明示していない「被害法益の同一性」(今回で言えば、被害者が同一人で、被害物が同一品種)も考慮要素にしていいと思いますし、上告理由みたいに全考慮要素を並列的に取り扱ってもいいと思います。フツーは、その事例から抽出しうる考慮要素を挙げて、さらっと包括一罪か否か認定すれば、それで終わりですしね。

もう少しだけ(学説の呈示する枠組みに乗っかって)丁寧に包括一罪か否かの当てはめをしたい場合は、「①複数の結果が認められるが、1つの結果として評価すれば十分であり、かつ②複数の行為を一体として評価できる場合」(山口厚『刑法総論(第2版)』372頁)であれば包括一罪と言える、という物差しを用いてもいいと思います。判例の挙げている要素(「短時間」、「同一場所」、「同一機会」、「同種の動作」、「単一の犯意の発現たる一連の動作」)は、全て②に属する要素ですね。被害者が同一人で、被害物が同一品種であるという事情が、「被害法益の同一性」として①に属する要素です。

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