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強盗における暴行脅迫2(百選37事件)


強盗罪における暴行脅迫2(最決昭和611118、百選(第6版)37事件、百選(第7版)39事件)

 

[事実の概要]

 

被告人Xが属していた暴力団A一家と、被害者Bが属していた暴力団C会とは、かねて対立抗争中であった。

 

A一家D組組長Eは、知人である一、二審相被告人Fと話し合った結果、FがかねてBを知っており、覚せい剤取引を口実に同人をおびき出せることがわかったので、C会C組幹部であるBを殺害すればC会の力が弱まるし、覚せい剤を取ればその資金源もなくなると考え、Fにその旨を伝えた。

 

Fは、Bに対し、覚せい剤の買手がいるように装って覚せい剤の取引を申し込み、Bから覚せい剤1.4キログラムを売る旨の返事を得たうえ、Gも仲間に入れ、昭和581110日、D、その舎弟分のA一家H組組長I及びHの配下の被告人とa駅付近で合流した。

 

被告人X、F、D、H、Gの五名が一緒にいた際に、Fは、被告人Xに対し「C会の幹部をホテルに呼び出す。二部屋とつて一つにC会の幹部を入れ、もう一つの部屋にはお前が隠れておれ。俺が相手の部屋に行きしばらく話をしたのち、お前に合図するから、俺と一緒についてこい。俺がドアを開けるからお前が部屋に入ってチャカ(拳銃)をはじけ。俺はそのとき相手から物(覚せい剤)を取って逃げる」と言って犯行手順を説明し、被告人もこれに同調した。

 

なお、この際、奪った覚せい剤は全部Fの方で自由にするということに話がまとまった。

 

ところが、その後、Fは右犯行手順の一部を変更し、被告人に対し「俺が相手の部屋で物を取りその部屋を出たあとお前の部屋に行って合図するから、そのあとお前は入れ替わりに相手の部屋に入って相手をやれ」と指示した。

 

11日午前に至り、福岡市内のMホテル303号室にBを案内し、同人の持参した覚せい剤を見てその値段を尋ねたりしたあと、先方(買主)と話をしてくると言って309号室に行き、そこで待機している被告人及びGと会って再び303号室に戻り、Bに対し「先方は品物を受け取るまでは金はやれんと言うとる」と告げると、Bは「こっちも金を見らんでは渡されん」と答えてしばらくやりとりが続いたあと、Bが譲歩して「なら、これあんたに預けるわ」と言いながらFに覚せい剤約1.4キログラム(以下、「本件覚せい剤」という。)を渡したので、Fはこれを受け取ってその場に居合わせたGに渡し、Bに「一寸待ってて」と言い、Gと共に303号室を出て309号室に行き、被告人Xに対し「行ってくれ」と述べて303号室に行くように指示し、Gと共に逃走した。

 

被告人XはFと入れ替わりに303号室に入り、同日午前2時ころ、至近距離からBめがけて拳銃で弾丸五発を発射したが、同人が防弾チョッキを着ていたので、重傷を負わせたにとどまり、殺害の目的は遂げなかった。

 

 

一、二審判決は、このように「被告人XがFと入れ替わりに303号室に入った」と事実認定したが、最高裁は、「Fが用いた口実からして、Bは、Fが買主に本件覚せい剤の品定めをさせ、値段について話し合い、現金を数えるなどしてから戻って来ると誤信させられていたことになるから、文字どおりFと入れ替わりに被告人が303号室に入るのはいかにも不自然」であり、「Fは、309号室において被告人Xに少し時間を置いてから303号室に行くように指示し、被告人もFらが出ていってから少し時間を置いて303号室に向かったことが認められ、したがって、被告人XがBに対し拳銃発射に及んだ時点においては、FとGはすでにMホテルを出てタクシーに乗車していた可能性も否定できない」と事実認定を変更している。

 

※少し先取りで説明してしまいますと、この事実認定の変更は、要は、「被告人Xが拳銃発射した時点」で、一、二審判決の事実認定によれば、「覚せい剤を保有するFが被害者Bの近くにいた」(=303号室付近やMホテルの3階のエレベーター前のようなイメージ)ことになるため、「被告人Xの拳銃発射は、Fらが覚せい剤奪取を確実なものとする手段」と評価できるのに対し、最高裁判決の事実認定によれば、その時点においては、既に「覚せい剤を保有するFは、既に被害者Bの手の届かないところに逃げ去っていた」ことになるため、そのような評価はできない(1項強盗と評価する訳にはいかない)、という差があります。

 

※ちなみに、組長Eの知人に過ぎないFが何故こんなに中心人物みたいな感じで大物感があるのかというと、Fはかつて暴力団の一員で、F組組長も務めた人物だからです。Fは、Eが被告人Xにドスで殺すよう指示していたのを拳銃の方がいいと提案したり、未だ拳銃を使用することも人を殺めた事もない被告人Xに、拳銃の使い方を指南したり、まぎれもなく本事件の中心人物です。第一、二審では、Fも共同被告人でした。

 

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

被告人Xらの行為は、強盗殺人未遂罪(刑法240条後段、243条)に該当すると主張し、

 

弁護側は、

 

     被告人Fと被告人Xとの間に共謀は存しないため、Fは、殺人未遂の幇助にすぎない

 

     本件覚せい剤の取得は、強盗ではなく、詐欺(もしくは)横領にすぎない

 

・・・等を理由として、被告人両名に対する強盗殺人未遂罪の成立を否定し、被告人Xは殺人未遂にとどまるし、被告人Fは詐欺もしくは横領と、殺人未遂幇助の併合罪にすぎないと主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(福岡地判昭和59119):

 

被告人F懲役18及び罰金200万円に、

被告人X懲役18に処する。

 

控訴審判決(福岡高判昭和60829):本件各控訴をいずれも棄却する

 

 

1審判決は、事案を処理しているのみで、さして見るべきところはない。

 

 

控訴審判決は、

 

弁護側の①の主張(=共謀は存しないため、Fは幇助にとどまる)に対して、

 

「被告人FBの覚せい剤を取得することが主たる目的であり、被告人XBを殺害することが主たる目的であって、被告人Fが覚せい剤を手にし、被告人Xがけん銃を発射し、かつXは覚せい剤の分け前にあづからなかったとしても、右は各自が犯罪行為の一部をそれぞれ行なったというにすぎず、まさに被告人両名はB殺害と覚せい剤奪取という強盗殺人を行なうため共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し各自の意思を実行に移すことを相謀って犯罪を実行したものに外ならないから、共謀共同正犯の成立は否定できず、被告人Fの所為につき殺人未遂幇助であるとの被告人F及び弁護人の所論は採用できない(とくに、本件において被告人F自らB殺害と覚せい剤の奪取の具体的方法を立案しているものであり、被告人Xに対しけん銃の使用を勧め、その使用方法を伝授したり、あるいは自ら殺人を実行しようかと述べてみたり等し、現場においても被告人Xに殺害実行の合図をしたものであつて、本件殺害行為に積極的に関与しているものである。)」

 

・・・と判示し、

 

弁護人の主張②(=覚せい剤の取得は、「強取」ではない)に対して、

 

Bは覚せい剤の売買のため現場(Mホテル303号室)で、被告人Fのいう買主との間に売買が成立すればこれに対し代金引換えに覚せい剤を渡す意図であるところ、前もって覚せい剤を買主に見せて品物があることを確認させるとともにその品質や量を吟味させて値段の折り合いを図るなど覚せい剤密売の準備として、同被告人Fに本件覚せい剤を預けたにすぎない」

 

「被告人Fも右303号室のすぐ近くにある309号室にいる買主に見せると称して預ったものであるうえ、同被告人の共同正犯である被告人Xは、309号室において被告人Fの指示を受けて直ちに303号室に赴いてBに対し犯行に及んでいることに徴すると、被告人Fは相手方の意思に基づく財産的処分行為を介して財物の占有を取得したものとはいえず、同被告人は本件覚せい剤をBから奪取しようとした(本件は、自己の占有する目的物に対する行為ではないから、横領罪の成立する余地はない。)ものとみるのが相当である。」

 

「そして、人を殺してその所持金品を奪取する行為が強盗殺人罪に当ることは疑いのないところであり、あらかじめ殺人と金品奪取の意図をもつて、殺人と奪取が同時に行われるときはもとより、これと同一視できる程度に日時場所がきわめて密着してなされた場合にも強盗殺人罪の成立を認めるのが相当である。」

 

「このように解することは、強盗殺人(ないし強盗致死傷)罪が財産犯罪と殺傷犯罪のいわゆる結合犯であることや、法が事後強盗(この場合には、当初は窃盗という単純な奪取行為だけを意図したものが、財物窃取後にその取還を防ぎ又は逮捕を免れるなどのために暴行又は脅迫をなすのであり、これに比して、当初から金品奪取と殺害を意図して行なう場合は一層危険かつ悪質であることは明らかである。)の規定を設けてこれを強盗として扱うことにした趣旨にも合致するところである。」

 

「本件の場合、もともとBを殺害して覚せい剤を奪取する計画であったところ、後に計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後にBを殺害することにしたものの、殺害と奪取を同一機会に行なうことに変りはなく、右計画に従って実行(被害者Bが覚せい剤を預けてから狙撃されるまで時間的にもきわめて短く、かつ場所も全く動いていない)しているものであつて、右所為について強盗殺人未遂罪が成立するというべきである。」

 

・・・とした。

 

 

[判示内容]

 

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

まず、「事実の概要」において述べたように事実認定を一部変更した上で、

 

(1)上記控訴審判決のまとめ

 

「原判決は、(1) FはBの意思に基づく財産的処分行為を介して本件覚せい剤の占有を取得したとはいえず、これを奪取したものとみるべきであること、(2) あらかじめ殺人と金品奪取の意図をもつて、殺害と奪取が同時に行われるときはもとより、これと同視できる程度に日時場所が極めて密着してなされた場合も強盗殺人罪の成立を認めるべきであること、(3) このように解することは、強盗殺人(ないし強盗致死傷)罪が財産犯罪と殺傷犯罪のいわゆる結合犯であることや、法が事後強盗の規定を設けている趣旨にも合致すること、(4) 本件の場合、もともとBを殺害して覚せい剤を奪取する計画であつたところ、後に計画を一部変更して覚せい剤を奪取した直後にBを殺害することにしたが、殺害と奪取を同一機会に行うことに変わりはなく、右計画に従って実行していること、などの理由を説示して、被告人(及びF)に対しいわゆる一項強盗による強盗殺人未遂罪の成立を認め、これと結論を同じくする第一審判決を支持している。」

 

(2)控訴審判決への反論

 

「しかしながら、まず、右(1)についてみると、前記一、二審認定事実のみを前提とする限りにおいては、FらがBの財産的処分行為によって本件覚せい剤の占有を取得したものとみて、被告人らによる本件覚せい剤の取得行為はそれ自体としては詐欺罪に当たると解することもできないわけではないが(本件覚せい剤の売買契約が成立したことになっていないことは、右財産的処分行為を肯認する妨げにはならない。)、他方、本件覚せい剤に対するBの占有は、Fらにこれを渡したことによっては未だ失われず、その後FらがBの意思に反して持ち逃げしたことによって失われたものとみて、本件覚せい剤の取得行為は、それだけをみれば窃盗罪に当たると解する余地もあり、以上のいずれかに断を下すためには、なお事実関係につき検討を重ねる必要がある。」

 

「ところで、仮に右の点について後者の見解に立つとしても、原判決が(2)において、殺害が財物奪取の手段になっているといえるか否かというような点に触れないで、両者の時間的場所的密着性のみを根拠に強盗殺人罪の成立を認めるべきであるというのは、それ自体支持しがたいというほかない」

 

「(3)で挙げられている結合犯のことや、事後強盗のことが、(2)のような解釈を採る根拠になるとは、到底考えられない。」

 

「また、(4)で、もともとの計画が殺害して奪取するというものであつたと指摘している点も、現に実行された右計画とは異なる行為がどのような犯罪を構成するのかという問題の解決に影響するとは思われない。本件においては、被告人Xが三〇三号室に赴き拳銃発射に及んだ時点では、Fらは本件覚せい剤を手中にして何ら追跡を受けることなく逃走しており、すでにタクシーに乗車して遠ざかりつつあつたかも知れないというのであるから、その占有をすでに確保していたというべきであり、拳銃発射が本件覚せい剤の占有奪取の手段となっているとみることは困難であり、被告人らが本件覚せい剤を強取したと評価することはできないというべきである。したがって、前記のような理由により本件につき強盗殺人未遂罪の成立を認めた原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわなければならない。」

 

(3)最高裁の本件への法令の解釈適用

 

「前記の本件事実関係自体から、被告人Xによる拳銃発射行為は、Bを殺害して同人に対する本件覚せい剤の返還ないし買主が支払うべきものとされていたその代金の支払を免れるという財産上不法の利益を得るためになされたことが明らかであるから、右行為はいわゆる二項強盗による強盗殺人未遂罪に当たるというべきであり(暴力団抗争の関係も右行為の動機となっており、被告人Xについてはこちらの動機の方が強いと認められるが、このことは、右結論を左右するものではない。)、先行する本件覚せい剤取得行為がそれ自体としては、窃盗罪又は詐欺罪のいずれに当たるにせよ、前記事実関係にかんがみ、本件は、その罪と(二項)強盗殺人未遂罪のいわゆる包括一罪として重い後者の刑で処断すべきものと解するのが相当である。」

 

(4)上告に対する結論

 

「したがって、前記違法をもつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。」ため、上告棄却という主文のとおりの結論となった。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本事件は、あとFの覚せい剤所持や、被告人Xの別件の恐喝未遂、別件の殺人未遂等も併合審理されているのですが、事実の概要が長くなったため、その点はカットし、百選同様、中心の強盗殺人未遂部分だけ取り扱っています。

 

FXは、同じ懲役18年ですが、本件の強盗殺人未遂だけを評価するのであれば、(Xは他にも殺人未遂をした上での18年なのですから、)XよりもFの方が罪が重いと言えるかもしれません。

 

本判例につきましては、岩間教授の百選解説(第6版)がとてもおススメです。学説ではなく、徹頭徹尾、判例分析という視点から、とても分かりやすく解説してくださっています。

 

本判例の分析は見当たりませんでした。

強盗に関するページを探していた過程で見つけたのですが、

http://homepage2.nifty.com/and-/keihou/zaisan1.txt

・・・作者不詳のこのページが、素っ気ないように見えて意外と良く財産犯についてまとまっています。予備校的なまとめとして、スリムでありながら、ポイントは抑えていて、かなりレベルが高いと思います。

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