強盗罪における暴行脅迫1(最判昭和23・11・18、百選(第6版)36事件、百選(第7版)38事件)
[事実の概要]
被告人X、Yはいずれも18歳未満の少年で、被告人Xは神奈川県内の少年保護施設を逃亡し、被告人Yは無断家出して居たので生活費等に窮した結果、
被告人両名は、原審相被告人Z(当時16歳)と共謀の上、昭和22年9月11日午前1時頃東京都内の時計商A方裏勝手口から屋内に侵入し、被告人Y及び右Zはそれぞれ草苅鎌を被告人Xはナイフを各A等に突きつけ、こもごも「静かにしろ」「金を出せ」等と言って脅迫しAを畏怖させ、Aから所有していた現金3170円、腕時計、懐中時計、ライター等40数点(価格合計6800円余り相当)を奪い、
他にも、その凶器の草刈鎌はそもそもAの隣家B宅で盗んでいたものであるし、その他の日時で主に衣類を中心に盗んでいた行為が窃盗として起訴された。
[裁判上の主張]
検察側は、
被告人X、Yが、Aから現金等を奪った行為は、強盗罪(刑法236条1項)を構成するものであり、その余の行為は窃盗罪(235条)を構成するものと主張した。
弁護側は、
Aらは未だ心身の自由を完全には制圧されてはおらず十分被害者の心身の自由の余地を残しているため、強盗罪ではなく、せいぜい恐喝罪(249条1項)が成立するに過ぎない、と主張した。
※一応載せておくと、強盗罪の法定刑が、「5年以上の有期懲役」なのに対し、恐喝罪の法定刑は、「10年以下の懲役」であり、罪の重さがかなり違うことが分かる。(当然、強盗罪の方が重い・・・一応説明しておくと、刑法12条1項が、「有期懲役は、1月以上20年以下とする」と定めていることから、基本的には強盗罪の法定刑は、「5年以上20年以下」であるのに対して、恐喝罪の法定刑は、「1月以上10年以下」だからである)
[訴訟経過]
第1審判決:不明
控訴審判決:
被告人Xを3年以上6年以下の懲役に、被告人Yを2年6月以上5年以下の懲役にそれぞれ処する。押収に係るナイフ一挺はこれを没収する。
控訴審判決は、淡々と事実を処理しているだけで見るべきところはない。
※このような宣告刑を相対的不定期刑という。ちなみに、これに対し(ほぼすべての条文がそうであるが)法定刑が懲役○年~○年とか、○年以下となっていることを罪刑法定主義との関係(=絶対的不確定刑の禁止という文脈)で、相対的不確定刑という。きちんと概念を整理しておく必要がある。
[判示内容]
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
上記弁護側の主張(=心身の自由が完全に制圧されておらず「強取」ではない)に対し、
「強盗罪の成立には被告人が社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る暴行又は脅迫を加え、それに因って被害者から財物を強取した事実が存すれば足りるのであって所論のごとく被害者が被告人の暴行脅迫に因ってその精神及び身体の自由を完全に制圧されることを必要としない。」
「原審は論旨摘録のように被告人等が判示午前一時頃屋内に侵入し被告人Y及びZはそれぞれ草刈鎌を被告人Xはナイフを被害者A等に突き付け、こもごも「静かにしろ」「金を出せ」等言って脅迫しAを畏怖させその所有の現金三千百七十円、腕時計、懐中時計、ライター等四十数点を強奪し、と判示して被告人等が社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る脅迫を加え、これに因って被害者が畏怖した事実をも明に説示して手段たる脅迫と財物の強取との間に因果関係の存することをも認定しているから、これに対し刑法第249条を適用せずに同法第236条第1項を適用したのは正当であって、原判決には所論のように法律の適用を誤った違反はない。」
[コメント&他サイト紹介]
本判決の要点は、反抗抑圧に足る暴行・脅迫の存否は「社会通念」から客観的に判断し、必ずしも「被害者が被告人の暴行脅迫に因ってその精神及び身体の自由を完全に制圧されることを必要としない(=被害者の主観的な観点を必要条件としない)」とした点です。
さらに、最判昭和24・2・8によって、被害者の主観的な観点は必要条件としないどころか考慮要素ともしない(=「暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によって決せられるのであって、具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であったかどうかと云うことによって決せられるものではない」)として、客観面だけで判断するという立場を確立させました。
本判決については、小名木教授の百選解説が面白い(?)です。
臆病者の代表としてのび太が、豪胆な者の代表としてジャイアンが解説中に登場しています。
ん~・・・TV版だとのび太は臆病・・・と言えなくはないとしても、ジャイアンは小悪党ですし、映画版だとジャイアンはまさに豪胆な者ですが、のび太もかなり豪胆ですしね。どうでもいいですね、はい。
他サイト様としましては、
本判決とは関係ありませんが、強盗の成否に関するブレインストーミングとして、
http://shonen-bengo.com/zaimei-guide/faq/goutou/index.html
・・・この「東京法律弁護士事務所」様のページがかなりオススメです。