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凶器の意義(百選9事件)


凶器の意義(最判昭和47314、百選(第6版)9事件、百選(第7版)掲載なし)

 

[事実の概要]

 

被告人は、ABCの三名であり、

 

Aは、大阪市のやくざ団体D会系二代目E組の若者頭Fの若衆であり、

Bは、同E組の組長Gの若衆であり、

Cは、同E組若者頭補佐であった。

 

E組は、かねてから反目関係にある神戸に本拠のあるY組系H組と抗争中であった。

 

ABCらは、

 

第一に、H組の襲撃を予想し、昭和42217日の午後9時頃から午後10時半頃までの間、H組組員らが襲撃して来た際にはこれを迎え撃ち、同組組員らの生命、身体に対して共同で害を加える目的で、E組組員及び傘下団員約20名と共に、Fの指示により被告人Aは日本刀二振の兇器を準備し、被告人Cは兇器の準備があることを知って、いずれも集合し、

 

そこで、実際に襲撃に来たH組組員をE組組員が猟銃で重傷を負わせ、E組とH組の関係がさらに険悪になった。

 

第二に、H組の再襲撃を予想し、昭和42219日午後8時頃から午後11時過ぎ頃まで、Fを始めとするE組組員らと共に、被告人Bにおいて拳銃一丁、拳銃用実包4発及び日本刀一振の兇器を準備し、被告人Aにおいて右凶器の準備があることを知って、いずれも集合し、

 

第三に、H組の再襲撃のおそれが未だ解消されていないとして、220日午後7時半ごろから、午後10時ごろまでの間、Fを始めとするE組組員らと共に、拳銃、拳銃用実包、日本刀およびダンプカー1などの兇器の準備があることを知って、被告人ABCは、いずれも集合し、

 

第四に、被告人Bは、自己の舎弟と共謀のうえ、法定の除外事由がないのに、拳銃一丁及び拳銃用実包4発を所持した。

 

 

[裁判上の主張]

 

刑法208条の31項(当時は、刑法208条の2

 

「二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」

 

 

弁護側は、上告理由において、

 

ダンプカーは、列車、飛行機、船舶等と同じく運送手段であって社会通念上生命身体に対する故意の侵害用手段に利用されてはいないため、「凶器」に該当しない、と主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(大阪地判昭和4392):

 

被告人ABCをそれぞれ懲役10に処する。

被告人Cに対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

 

控訴審判決(大阪高判昭和45128):控訴棄却

 

 

Cに執行猶予がついたのは、E組若者頭補佐という地位とはいえ、それほど重要な役割を今回果たしていない上、定職がありそれに励んでいること等が考慮されたからである。

 

1審判決においては、ダンプカーが凶器にあたるのか否かという点は、おそらく弁護側が問題視しておらず、完全にスル―されていた。

 

 

[判示内容]

 

主    文

     

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

「上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。」

 

・・・と一蹴したうえで、

 

「原判決は、被告人らが他人を殺傷する用具として利用する意図のもとに原判示ダンプカーを準備していたものであるとの事実を確定し、ただちに、右ダンプカーが刑法二〇八条ノ二にいう「兇器」にあたるとしているが、原審認定の具体的事情のもとにおいては、右ダンプカーが人を殺傷する用具として利用される外観を呈していたものとはいえず、社会通念に照らし、ただちに他人をして危険感をいだかせるに足りるものとはいえないのであるから、原判示ダンプカーは、未だ、同条にいう「兇器」にあたらないものと解するのが相当である。」

「これと異なる判断をした原判決には、右「兇器」についての解釈適用を誤った違法があるが、原判決の維持する第一審判決によれば、被告人らは、右ダンプカーのほか、けん銃、日本刀などの兇器の準備があることを知って集合したというのであるから、右ダンプカーを除いても、被告人につき同条所定の兇器準備集合罪が成立するのであり、原判決の右違法は判決に影響を及ぼすものとは認められない。」

 

※細かい事だが、一応説明しておくと、仮に「事実の概要」における第三の行為が、ダンプカーの準備だけであったとすれば、第三の行為は犯罪を構成しないことになるため、原判決の違法は判決に影響を及ぼす可能性はあった。何故なら、第一~第四の行為は、いずれも併合罪の関係に立ち、第三の行為が犯罪を構成しないとすれば、A、B、Cいずれかの処断刑が異なりうるからである。(今回は、Cがそもそも一罪のみしか犯していないことになる)

※今回は、ダンプカーを除いても、第三の行為が、他に拳銃等の準備も含んでいたため、どうせ凶器準備集合罪が成立したという関係(=包括一罪の関係)にあったからこそ、原判決の違法は判決に影響を及ぼすものとは認められないと言い切れる訳である。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

この事案は、実はこれでもかなり簡略化しました。この事案を処理するという観点だけから言えば(刑法学的な観点を抜きにして言えば)、ダンプカーが凶器か否かなどいかに些末な問題であるかは分かって頂けたのではないでしょうか。

 

本判決の刑法学上の要点は、「なお」書きにおいて、判例が、本件のような相手を殺傷する意図は明確な場合にあっても、「人を殺傷する用具として利用される外観」がなければ、「凶器」にはあたらないとした点です。

 

ダンプカーには、そのような外観が備わることは通常ない訳ですから、ダンプカーの(用法上の)「凶器」性を否定したものと理解するのが素直ですが、

 

「原判示ダンプカーは、未だ、同条にいう「兇器」にあたらない」と、「未だ」という表現がついている事に着目し、「凶器」性は、周囲の状況によって時々刻々と変化するものと捉え、敵に突進する直前の、人にタイヤを向けて、エンジンをブォンブォン吹かしている状態のダンプカーであれば、「凶器」にあたりうることをむしろ示唆していると捉える事も可能なようです。

他サイト様としては、弁護士さんが書いておられる

http://park.geocities.jp/funotch/keiho/kakuron/kojinhoueki3/27/208-3.html

・・・が、凶器準備集合罪の周辺について理解するのに最適です。

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