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偽造の意義(百選93事件)


偽造の意義(大阪地判平成878、百選(第6版)93事件、百選(第7版)89事件)

 

[事実の概要]

 

※事案の概要をなるべく伝えるため、名前をXYという記号ではなく、「甲山乙男」等の仮名にしています。「甲山乙男」は実在の人物を仮名にしたもので、「丙山乙男」は、「甲山乙男」をベースにして被告人が作り出した架空の人物を、分かりやすいように私が別の名前にしたものです。

 

 

被告人は、金融会社の無人店舗に設置された自動契約受付機を悪用して、他人名義の運転免許証を偽造するなどした上、他人になりすまして融資金入出用カードを騙し取ろうと企て、行使の目的をもって、ほしいままに、大阪府公安委員会の記名、公印のある被告人の運転免許証の上に、甲山乙男の運転免許証写しから氏名、生年月日、本籍・国籍、住所、交付の各欄及び免許証番号欄の一部(上四桁、下三桁)を切り取ってこれを該当箇所に重なるようにして置き、さらに、その氏名欄の氏の部分に「丙山」の文字のある紙片を置き、上からメンディングテープを全体に貼り付けて固定し、もって、被告人が丙山乙男であるような外観を呈する大阪府公安委員会作成名義の運転免許証(免許証番号〈省略〉)一通を偽造し、

 

次いで、金融会社において、いずれも、行使の目的をもって、ほしいままに、同所備付けの借入申込書用紙の氏名欄に「丙山乙男」、自宅住所欄に「大阪府――――」、勤務先名欄に「(株)――――」、所在地欄に「大阪府――――」などと、極度借入基本契約書用紙の氏名欄に「丙山乙男」、自宅住所欄に「大阪府――――」、などと、備付けのボールペンを用いてそれぞれ記載し、


もって、丙山乙男作成名義の借入申込書及び極度借入基本契約書各一通を偽造し、

 

引き続き、自動契約受付機のイメージスキャナー(画像情報入力装置)に右偽造にかかる運転免許証、借入申込書及び極度借入基本契約書を順次読み取らせ、同イメージスキャナーと回線で接続された同支店設置のディスプレイ(画像出力装置)にこれを表示させるなどし、対応した同支店係員Aに対し、右偽造にかかる各文書が真正に作成されたものであるかのように装って一括呈示して行使し、同人をして、丙山乙男が借入れの申込みを行い、所定のとおり融資金の返済をなすものと欺き

 

よって、そのころ、同コーナーにおいて、右Aから、右自動契約受付機を通じて、丙山乙男名義のカード一枚の交付を受け


隣接して設置されているATMコーナーにおいて、同所備付けの現金自動入出金機に右詐取にかかる丙山乙男名義のカードを挿入して同機を作動させ、同機から前記支店支店長Bの管理する現金を窃取した

 

 

※味をしめた被告人は、同様の行為を複数回行い、プロミスから計20万円、アコムから計20万円、レイクから計30万円を窃取している。また、覚せい剤の使用・所持も同時に起訴されている。

 

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

被告人の上記行為は、

 

有印公文書偽造罪(1551項)、同行使罪(1581項、1551項)、有印私文書偽造罪(1591項)、同行使罪(1611項、1591項)、詐欺罪(2461項)、窃盗罪(235条)にあたると主張した。

 

※どの行為が、どの罪にあたるのかはさほど難しくありませんので、考えてみてください。事実の概要で太字にしたところが、何らかの罪の実行行為又は既遂となった時点(あと、評価に使う事実も太字にしておりますが・・・)です。

 

※ちなみに、罪数関係は、偽造有印公文書及び偽造有印私文書の各行使は、それぞれ一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、有印公文書の各偽造とその各行使と各詐欺、有印私文書の各偽造とその各行使と各詐欺との間には、それぞれ順次手段結果の関係があるので、いずれも刑法五四条一項前段、後段、一〇条により結局以上は科刑上一罪ということになります。そして、異なる金融会社に行った科刑上一罪3つと、(異なる金融機関のATMへの3つの)窃盗罪、そして他に起訴されている覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)は、併合罪ということになります。

 

 

弁護側は、

 

文書偽造の罪における「偽造」といえるためには、偽造された文書が一般人をして正規の作成権限者がその権限内で作成した真正の文書であると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えていることを要するところ、被告人が作成した判示第一、第四及び第六の各運転免許証は、いずれも、誰が見ても偽物であるとわかるものであり、到底右の程度の形式・外観を備えているとはいえず、したがって、右各運転免許証の作成とその呈示・使用は、公文書の偽造・同行使には該当しない、と主張した。

 

 

[訴訟経過]

 

なし(本判決が地裁判決なので)

 

[判示内容]

 

主    文

被告人を懲役三年に処する。
この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する
押収してあるエルカード会員入会申込書一通及びカードローン契約書一通の各偽造部分並びに覚せい剤一袋をいずれも没収する。

 

 

理    由

 

弁護側の主張(=「偽造」といえるだけの外観を備えていない)に対して、

 

被告人が作り出した偽物の免許証は、「運転免許証の大きさや記載内容(顔写真やカラー表示部分も含め)等は、通常の運転免許証と変わりなく、一応それらしき形式は備わっているということができること、しかし、表面は、メンディングテープで覆われているものの、切り貼りした工作の跡が容易にうかがわれ、また、裏面の記載が全くなかったりしており、外観上かなり問題があることが認められる。」

 

「また、関係証拠によると、被告人は、これらの運転免許証を、それぞれ判示の各自動契約受付機の所定の位置に置き、同機備付けの読み取り用カメラないしイメージスキャナーでその記載内容を読み取らせ、これらと回線で接続された判示各支店設置のディスプレイに表示させているところ、担当の各係員は、いずれも、表示された運転免許証の画像を見て、その写真部分と自動契約受付機備付けのモニターカメラを通じて送られてくる被告人の生の顔が同一か否か、運転免許証の桜のマークが付いているかなどを、注意して確認したものの、格別不審な点は見つけられず、右運転免許証が真正なものと認識したことが認められる。」


「ところで、文書偽造罪における「偽造」といえるためには、当該文書が一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えていることが必要であることは、弁護人が主張するとおりである。しかし、ここで、当該文書の形式・外観が、一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度であるか否かを判断するに当たっては、当該文書の客観的形状のみならず、当該文書の種類・性質や社会における機能、そこから想定される文書の行使の形態等をも併せて考慮しなければならない。」

 

「これを、本件で問題とされる運転免許証についてみると、運転免許証は、自動車等の運転免許を受けているという事実を証明するためのみではなく、広く、人の住所、氏名等を証明するための身分証明書としての役割も果たしており、その行使の形態も様々であり、呈示の相手方は警察官等の公務員のほか、広く一般人であることもあり、また、必ずしも相手方が運転免許証のみを直に手に取って記載内容を読み取るとは限らず、免許証等入れのビニールケースに入ったまま、しかも、相手に手渡すことなく示す場合もあるし、その場面も、夜間、照明の暗い場所であったりするし、時間的にも、瞬時ないしごく短時間であることさえある。」

 

「さらに、近時は、相手方の面前で呈示・使用されるだけではなく、身分証明のために、コピー機やファクシミリにより、あるいは、本件のように、イメージスキャナー等の電子機器を通して、間接的に相手方に呈示・使用される状況も生じてきている(このような呈示・使用が偽造文書行使罪における「行使」に該当することはもちろんである。)。したがって,運転免許証の偽造の程度を云々するに当たっては、このような行使の形態をも念頭に置いた上で、前記の判断をするのが相当であると考えられる。」

 

「そこで、本件各運転免許証についてみると、その外観は前示のとおりであり、これを直接手に取って見れば、弁護人が指摘するように、誰にでも改ざんされたものであることは容易に見破られるものであるとみる余地がないではないが、電子機器を通しての呈示・使用も含め、運転免許証について通常想定される前述のような様々な行使の形態を考えてみると、一応形式は整っている上、表面がメンディングテープで一様に覆われており、真上から見る限りでは、表面の切り貼り等も必ずしもすぐ気付くとはいえないのであって、そうとすると、このようなものであっても、一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度であると認められるというべきである(現に、本件では、イメージスキャナー等を通してではあるが、相手方係員らが真正な運転免許証であると誤認したことは前示のとおりである。)。」

「したがって、本件各運転免許証の作成とその呈示・使用が公文書の偽造・同行使には該当しないとの弁護人の主張は、採用することができない。」

 

・・・と判断している。

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本判決の意義は、「文書偽造罪における「偽造」といえるためには、当該文書が一般人をして真正に作成された文書であると誤認させるに足りる程度の形式・外観を備えていることが必要である」という大原則を確認した上で、それを判断する視点として、「当該文書の客観的形状のみならず、当該文書の種類・性質社会における機能、そこから想定される文書の行使の形態」というものを挙げた点です。

 

他サイト様としましては、「弁護士布野貴史のホームページ」様の、

 

http://park.geocities.jp/funotch/keiho/kakuron/shakaihoueki2/koukyonoshinyo/17/0.html

 

http://park.geocities.jp/funotch/keiho/kakuron/shakaihoueki2/koukyonoshinyo/17/155.html

 

・・・が基礎から理解するのにオススメです。

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