使途を定めて寄託された金銭(最判昭和26・5・25、百選(第6版)61事件、百選(第7版)63事件)
[事実の概要]
被告人は、犯意を継続して、
第一,昭和22年3月、A組合から製茶1000貫の買付依頼を受け、その買付資金として金29万円を預かり、右組合のため保管中、数10回にわたり静岡市等において生活費遊興費等自己の用途に費消横領し、
第二、昭和22年4月20日頃、Bから製茶1000貫の買付依頼を受け、その買付資金として金17万円を預かり、同人のため保管中、数10回にわたり静岡市内等において自己の用途に費消横領し、
第三、昭和22年6月28日頃、Cから製茶1000貫の買付を依頼せられ、その資金として交付を受けた金45万円を右Cのため保管中、数10回にわたり、静岡市等において自己の用途に費消横領し、
第四、昭和22年年7月11日頃、D商店支配人Eから製茶1000貫~3000貫の買付依頼を受け、その資金として金40万円を預り、同人のため保管中、数10回にわたり静岡市内等において自己の用途に費消横領し、
第五、昭和22年7月28日頃、Fに対し、木造二階建瓦葺一棟建坪四十七坪一合八勺の買取斡旋を約し、その代金の支払に充てるためG振出名義H銀行宛金額20万円の小切手一通の交付を受けて、右Fのため保管中、数10回にわたり静岡市等において自己の用途に消費横領した
[裁判上の主張]
検察側は、
被告人の行為は、全て横領罪(刑法252条1項)に該当する、と主張した。
弁護側は、
本件は、すべて買付けが不調に終わった場合には、先渡し金と同額の金銭を返還すればよい事案であり、かつ、金銭は代替性を有するのだから、預かった金銭と同一のものを返還する必要はない。とすれば、預かった金銭は「他人の物」とはいえず、横領罪は成立しない、等と主張した。
[訴訟経過]
第1審判決:不明
控訴審判決(東京高判昭和25・6・23):被告人を懲役3年に処する。
控訴審判決は、事実に法令を淡々と適用しているにすぎず、さして見るべき部分はない。
[判示内容]
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
上記弁護側の主張(=金銭は代替性を有し、「他人の物」とはいえず、横領罪不成立)に対して、
「原判決は、所論金銭は製茶員受資金として被告人に寄託されたものであることを認定している。即ち、右金銭についてはその使途が限定されていた訳である。」
「そして、かように使途を限定されて寄託された金銭は、売買代金の如く単純な商取引の履行として授受されたものとは自らその性質を異にするのであって、特別の事情がない限り受託者はその金銭について刑法二五二条にいわゆる「他人ノ物」を占有する者と解すべきであり、従って、受託者がその金銭について擅に委託の本旨に違った処分をしたときは、横領罪を構成するものと言わなければならない。」
・・・と判示した。
[コメント&他サイト紹介]
本判決は、「使途を定めて寄託された金銭」についての、判例の立場を明らかにしたものです。
「使途を定めて寄託された金銭」というのは、本判決のいうように、「売買代金の如く単純な商取引の履行として授受されたもの」よりは、特定されているけれど、「封金」よりは特定性に欠けるという中間的な位置づけとなっています。
このような中途半端な特定性を有する(でも、日常生活では頻繁に登場する)「使途を定めて寄託された金銭」について、「特別の事情がない限り」、「他人の物」にあたる、と判断した点に本判決の意義があるわけです。
他サイト様としましては、意外と伊藤塾さんの
https://ssl.okweb3.jp/itojuku/EokpControl?&tid=504707&event=FE0006
・・・が上手くまとまっていると思います。