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事後強盗罪の成否(百選40事件)


事後強盗の成否(最判平成161210、百選(第6版)40事件、百選(第7版)42事件)

 

[事実の概要]

 

被告人は,金品窃取の目的で,平成15127日午後050分ころ,A方住宅に,1階居間の無施錠の掃き出し窓から侵入し,同居間で現金等の入った財布及び封筒(現金339円及び財布1個外7点(時価合計約1380円相当))を窃取し,侵入の数分後に玄関扉の施錠を外して戸外に出て,だれからも発見,追跡されることなく,自転車で約1km離れた公園に向かった。

 

被告人は,同公園で盗んだ現金を数えたが,3万円余りしかなかったため少ないと考え,再度A方に盗みに入ることにして自転車で引き返し,午後120分ころ,同人方玄関の扉を開けたところ,室内に家人がいると気付き,扉を閉めて門扉外の駐車場に出た。

 

他方,家人のBは,これより前の午後040分ころ,玄関と勝手口に施錠し,上記掃き出し窓から出て施錠しないまま隣にある実家に赴き,午後120分ころに戻ってその掃き出し窓から室内に入ったが、室内のバスタオルやじゅうたんに泥が付着し,階段に泥水が落ちているのを認め,折から玄関の扉が閉まる音を聞いたことから,泥棒が出て行ったと思って玄関から門扉の外に出たところ,駐車場にいる被告人を見付けた。

 

帰宅していた家人のBに発見された被告人は,逮捕を免れるため,ポケットからボウイナイフを取り出し,Bに刃先を示し,左右に振って近付き,Bがひるんで後退したすきを見て逃走した。

 

しかし、間もなくBBに協力して車で追跡してきた者によって逮捕された。

 

 

[裁判上の主張]

 

検察側は、

 

     他人の家に侵入した点が、住居侵入罪(刑法130条前段)、窃盗をなし、逮捕を免れるためにナイフを左右に振って威嚇した点が事後強盗罪(刑法238条、236条)にあたり、

 

     ボウイナイフ1丁を携帯した点が銃砲刀剣類所持等取締法324号、22条違反にあたる

 

・・・と主張した。

 

他方、弁護側は、

 

     ボウイナイフを示したことも、左右に振り回して脅迫したこともないから、住居侵入罪と窃盗罪が成立することはともかく、事後強盗罪は成立しない

 

     隠し持っていたボウイナイフを玩具であると思っていて、刃物であるとの認識は無かったから、銃刀法違反の罪は成立しない

 

・・・と主張した。

 

また、弁護側は、控訴審段階において、

 

     被告人はA方に侵入して金品を窃取して、一度立ち去り、もう一度同人方に入ったところ、家人のBに発見されてBを脅迫したものであり、脅迫は当初の窃盗とは別の機会にしたと評すべきであるから、事後強盗には当らない

 

・・・という主張を追加した。

 

 

[訴訟経過]

 

1審判決(埼玉地判平成1585):被告人を懲役5に処する。

 

控訴審判決(東京高判平成151127):本件控訴を棄却する。

 

 

1審判決は、

 

弁護側の主張①(=ナイフ出して脅迫なんてしていない)に対して、

 

Bの証言は,留守にした自宅に戻り,室内の異常に気付いて玄関先に出てみると,異様な風体の被告人がいて,被告人から刃物で脅された状況について,記憶にある事柄を具体的に述べるものであり,戸外に出るといきなり被告人から刃物で脅されたが故に,被告人を犯人であると確信して追跡したことともつじつまが合うのであって,不自然,不合理な点はなくBがことさら虚偽を述べる事由もない。また,上記Bと一緒に車で被告人を追いかけた上記C及びDは,いずれも警察官調書で,Bから,車中で,被告人がナイフを持っているから気をつけてくださいと言われたと述べていて,上記高松由子が被告人は刃物を所持しているのを承知していたことを裏付けている。したがって,上記高松由子の証言は,十分信用することができる。」

 

・・・と一蹴した。

 

弁護側の主張②(=ナイフは玩具だと思っていた)に対しては、

 

「ボウイナイフは,柄部に滑り止めがある角様のプレートがはめ込まれたステンレス・スティール製の全長約25.2cmのもので,刃体は,その長さは約13.3cm,その厚みは最大約0.4cm,その幅は,最大約3cmであり,その先端部は鋭利であるという性状であることに加え,被告人が護身用に所持していたことを自認していることに徴すると,被告人が,上記ボウイナイフを玩具としか認識していなかったとは認め難い」

 

・・・と、これまた一蹴した。

 

その上で、住居侵入罪、事後強盗罪(両者は牽連犯なので、科刑上一罪)及び銃刀法324号、22条違反の成立を認めた。

 

 

控訴審判決は、

 

弁護側の主張③(=脅迫は、当初の窃盗とは別の機会であり、事後強盗ではない)に対して、

 

「このように,被告人は,住家に侵入して窃盗に及んだが,これにより得た現金が少ないとして,盗品をポケットに入れたまま,更に金品を窃取するため約30分後に同じ家に引き返したものであって,被告人が引き返したのは,当初の窃盗の目的を達成するためであったとみることができる。一方,家人は,被告人が引き返して玄関の扉を開けすぐにこれを閉めた時点で,泥棒に入られたことに気付き,泥棒が逃げて行ったとして追ったものである。そうすると,逮捕を免れるための被告人の家人に対する上記脅迫は,窃盗の機会継続中のものというべきである。」

 

・・・と判示した。

 

 

[判示内容]

 

主    文

 

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す

 

 

理    由

 

(1)原判決の要約

 

「原判決は,以上の事実関係の下で,被告人が,盗品をポケットに入れたまま,当初の窃盗の目的を達成するため約30分後に同じ家に引き返したこと,家人は,被告人が玄関を開け閉めした時点で泥棒に入られたことに気付き,これを追ったものであることを理由に,被告人の上記脅迫は,窃盗の機会継続中のものというべきであると判断し,被告人に事後強盗罪の成立を認めた。」

 

(2)原判決への批判(弁護人の主張③の認容)

 

「上記事実によれば,被告人は,財布等を窃取した後,だれからも発見,追跡されることなく,いったん犯行現場を離れ,ある程度の時間を過ごしており,この間に,被告人が被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況はなくなったものというべきである。そうすると,被告人が,その後に,再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても,その際に行われた上記脅迫が,窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。」

 

(3)結論

 

「したがって,被告人に事後強盗罪の成立を認めた原判決は,事実を誤認して法令の解釈適用を誤ったものであり,これが判決に影響することは明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。よって,刑訴法411条1号,3号,413条本文により,原判決を破棄し,更に審理を尽くさせるため,本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

あまり論点とは関係のない、第1審判決をやや丁寧に引用したのは、認定の仕方が参考になるかな~と考えたからです。

 

控訴審判決も、本最高裁判決も、判例・通説上承認されている、「事後強盗罪が成立するためには、その暴行・脅迫は、「窃盗の機会」においてなされなければならない」というテーゼを前提にしていることに注意してくださいね。

 

控訴審判決は、盗品をポケットに入れたままである(=「取り返される」可能性が再び出ている)事と、当初の窃盗と同一(延長上)の目的で二度目の窃盗がなされている事、家人が当初の窃盗において作出された現場の異常性(=室内のバスタオルやじゅうたんに泥が付着し,階段に泥水が落ちている)から、引き返してきた犯人が泥棒である事にすぐ気づいた事の3点から、「窃盗の機会」における暴行・脅迫と認定したのに対し、

 

最高裁判決は、だれからも発見,追跡されることなく,いったん犯行現場を離れ,かつ、ある程度の時間を過ごしている事を理由に、「窃盗の機会」における暴行・脅迫ではないと認定したのです。

 

他サイト様としましては、

司法試験上位合格者が著者である「夢のまた夢のむこう」様の、

http://nobodysays.blog137.fc2.com/blog-entry-101.html

・・・この記事が読みやすくてよいと思います。

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