【平成27年度 行政書士試験 第44問 40字記述解説(行政法)】
問題(平成27年度第44問):(平成27年度の問題については、著作権者である行政書士試験研究センター様の問題使用許諾を得ておりませんので、全文引用は避け、問題掲載ページへのリンクを貼ります。コチラです。なお、以下では著作権法で許される範囲の部分的な引用を行っております。)
(解説)
単純な知識問題です。
今回の事案を時系列で並べると、
① XがY県知事に開発許可申請する
② Y県知事は、申請拒否処分する
③ Xは、Y県開発審査会に審査請求する
④ Y県開発審査会は、請求棄却裁決をする
⑤ Xは、申請拒否処分と請求棄却判決の両方につき取消訴訟を提起する
・・・です。単純な図式ですね。
(1) 被告は誰か
単なる知識問題ですが、知らなくても勘で当てにいくことは出来たかもしれません。
答えの候補は、「Y県」、「Y県知事」、「Y県開発審査会」です。
このうち、「Y県知事」は、申請拒否処分を行ったのであって、裁決を行ったわけではありませんから、裁決取消訴訟の被告にはならなさそうですよね。
従って、「Y県」か「Y県開発審査会」の二者択一です。
知らない事を前提に、現場で考えてこれ以上は絞れそうにありませんが、「被告」以外にあと2つの要素(「主張内容」、「原則名」)も答えなければならないなら、「Y県開発審査会」は字数多すぎだろって考えて、勘で「Y県」といきたいですね。答えを知っているからそう思うだけかもしれませんが(笑)
さて、実は昔は、取消訴訟の被告は、処分を行った「行政庁」と考えられていました。本問で言えば、処分取消訴訟の被告は「Y県知事」で、裁決取消訴訟の被告は「Y県開発審査会」にすべきだとされており、実際そのように運用されていたのです。これを行政庁主義といいます。
しかし、行政と関わりの薄い一般人が、処分を行った「行政庁」がどれかを特定するのは、中には困難な場合もあり、原告の負担となっていました。そこで、その負担を救済するため、2004年の行政事件訴訟法改正により、「行政庁」ではなく、「行政庁の所属する国または公共団体」を被告とすべきことになったのです。これを行政主体主義といいます。
条文で確認しておきましょう。行政事件訴訟法11条1項です。
第11条1項
処分又は裁決をした行政庁(――略――)が国または公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない
1号 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体
2号 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体
従って、本問においては、申請拒否処分の取消訴訟は、11条1項1号により、「処分をした行政庁」(=Y県知事)が所属する「公共団体」(=Y県)を被告とすべきですし、
請求棄却裁決の取消訴訟は、11条1項2号により、「処分をした行政庁」(=Y県開発審査会)が所属する「公共団体」(=Y県)を被告とすべきことになるわけです。
(2)ふぇんしょふんしゅひ
いきなりタイトルで答えを出してしまってはいけませんからね(笑)
口に物を詰め込んでモゴモゴしながら言ってみました。
さて、これは知らなければ、現場でひねり出しようがありません。諦めるしかないと思います。
まず状況を整理してみましょう。
Xとしては、開発許可が欲しいです。それを実現するための司法救済ルートとして、❶「申請拒否処分の取消訴訟」と❷「請求棄却裁決の取消訴訟」の二つが存在しているわけです。
しかしながら、本来❶も❷も「Xに開発許可してあげてよいか」という一つのテーマに対する判断である、という点で重なります。同じ内容を二回も争わせるのは無駄です。また、❶で「開発許可してもよい」という結論が出て、❷で「開発許可してはいけない」という結論が出てしまっては、矛盾していてXはどうすればいいのか分からなくなります。
そこで、このような不都合を避けるため、原処分の違法は、原処分の取消訴訟のみによって争われるべき、という考え方が採られるようになりました。つまり、基本的には❶のみが司法救済ルートってことにしてね、ということです。このような考え方をふぇんしょふんしゅひ(=原処分主義)、といいます。
この原処分主義の下では、❷は、あくまで例外的な救済ルートに位置付けられます。
すなわち、「裁決」自体に何らかの問題(例えば、裁決権限のない行政庁が裁決を行っていたり、法で定められた手続を経ていなかったりするような場合)があった場合、「原処分」を対象とする❶では救済しきれません。このような場合にのみ例外的に❷が使えることとされているのです。
まだ理解できないぞ!って方の為に、もう少しだけ砕いた説明をします。
「1、(許可申請を拒否した)処分が本当に正しい判断であるか(=開発許可を認めてあげてもよいか否か)」、というメインテーマ以外に、「2、処分がちゃんとした手続でなされたか」、「3、裁決がちゃんとした手続でなされたか」という問題も、処分や裁決が「違法」として「取り消されるべき」か否かを判断する際の考慮するポイントです。
そして、「1と2」は、❶のルートである(原)処分取消訴訟で解決できますが、「3」は❶のルートでは解決できません。そのため、❶のルートを中心にしても、❷のルートの存在意義は、完全に無くなったわけではありません。また、❷のルートは「3」を解決するためだけのツールと位置付けてしまえば、「1と2」を解決するツールである❶のルートとの間に矛盾は生じませんよね。このように考えているのが、今の制度なのです。
以上を条文で確認してみましょう。行政事件訴訟法10条2項です。
第10条2項
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消を求めることができない
「処分の違法」というのは、上の砕いた説明で言うところの「1と2」のことです。逆にいえば、「3」の違法(=裁決固有の瑕疵)は、「裁決の取消しの訴え」(=❷のルート)で主張することは禁止されていません。ですので、これが「どのような主張が許され」の答えであることになります。
解答例:被告はY県。裁決固有の瑕疵の主張のみが許され、こうした原則を原処分主義と呼ぶ。