(マンガ:まんがで気軽に経営用語 様)
・・・合資会社のエッセンスがきちんと入っている上、綺麗にオチてますね~
さて、合資会社です。
「無限責任社員」と「有限責任社員」の2種類の社員からなる会社形態です。
この2種類が理論上必要なので、他の会社形態とは異なり、社員は1人以上ではなく、2人以上必要です。
えっと、ですね。合名会社も合資会社も現実には「無限責任」が怖すぎてそんなに利用されていません。「無限責任社員」のなり手がいない、という事です。
もっとも、「合名会社」は、人的会社の典型例として、物的会社の典型例である「株式会社」と好対照であったため、学習する意義がありました。
しかし、「合資会社」は、このような意義すらありませんので、ぼぉ~っと読み流してくださればそれで結構です。
合資会社というのは、「無限責任社員」が経営する事業に、「有限責任社員」が資本を提供して、その事業から生ずる利益の分配を受けようというシステムです。
旧商法下では、このようなシステムである事をそのまま反映して、無限責任社員が会社の業務執行権、代表権を有し、有限責任社員は、(会社の業務執行権、代表権は有さず、)それらの監視権を有するにすぎない、とされていました。
しかし、業務執行担当者は、別に自分達で決めたらいいよね、業務執行に関しては無限責任社員だから有限責任社員だからっていう規制は不必要だよね、という事になり、現在の会社法においては、「社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」(法590条1項)とされ、基本的に「社員」であれば業務執行権を有するようにした上で、違うシステムにしたかったら、自分達で「定款」に定めてね、ということになっています。
それを反映して、会社法では「有限責任社員」、「無限責任社員」という分類と同時に、「業務執行社員」と「それ以外の社員」という形で分類した規制をたくさん置いています(法593条以下など)。
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(もう一歩前へ)
「無限責任」は分かり易いですよね。
自分の全財産が債務の引き当て(=責任財産)な訳です。青天井ということです。
ですが、「有限責任社員」という時の「有限責任」は分かりにくい概念だったりしませんか?
民法を学ぶ際に、「有限責任」という概念についてきちんと整理されている方は、混乱することなく理解されているでしょう。
しかし、「有限責任」といえば、真っ先に株式会社の株主の「間接有限責任」が思い浮かぶけど、これと「有限責任社員」がいうところの「有限責任」とは何が違うんだろう?と思っていらっしゃる方が意外と多いのではないかと思います。
そこで、この点について説明させて頂きます。
(1)私法の原則=無限責任
(2)有限責任
(3)間接有限責任
・・・という順序でいきましょう。
一から説明している分、長くなってしまいました。気になる方だけご覧ください。
(1)私法の原則(=無限責任)
まず、会社法を離れて、AさんとBさんの売買契約を考えてみましょう。
AさんがBさんに車を300万円で売りました。しかし、Bさんは、車の代金を支払えません。Aさんは、契約を解除することなく、Bさんから代金を取り立てようと思っています。この時、どうなりますか?
Aさんは、Bさん家に押しかけて、無理矢理お金をぶんどる事は許されていませんから(=自力救済の禁止)、訴訟で片をつけることになります。そして、「BさんはAさんに300万円支払え」という判決が出て、その判決書を根拠として(債務名義として)Bさんの保有する財産へ強制執行がなされた、というところまで一気に想像してください。
この時のBさんの責任財産は何でしょう?
答えは、Bさんの全財産です。だって、お金をもし返せないのであれば、債務額に到達するまで、Bさんの持っているありとあらゆるものが差押えられちゃうでしょう?
これを言い換えると、個人の取引においては、「債務」を負った場合は、原則として「無限責任」を負っているのです。個人の取引では取引する額が小さいため、意識しないだけです。
友達から私はお金を5万円借りたけど、まだ返していない。ならば、私は「5万円返すべき債務」を負っているわけですから、いざとなったら「全財産」を引き当てとして「5万円返す義務」という内容の「無限責任」を負っているわけです。
(「無限責任」とは、「責任財産」が「無限」と読んで下さいね。「いざとなったら債権者が当てにできる財産」が「無限」か否かというお話です。「300万円」、「5万円」だから有限じゃないか、と思ってしまった方は注意して下さい。「300万円」や「5万円」というのは、債務額であって、「責任財産」ではありません。)
(2)有限責任
このように、私法における原則は、「無限責任」ですから、「有限責任」は、「法律又は契約で特段の定めをした場合」にだけ生じます。
先程からの文脈でいう、「有限責任」はどういう意味だかもう大体分かりますよね?
(債務を負っているという大前提の下、その債務の履行の担保として、)「全財産」ではなく、「一定の財産」のみが引き当て(=責任財産)となる場合をいいます。
「責任財産」が(一定の線引きがなされているが故に)「有限」という訳です。
「有限責任社員」という時の、「有限責任」は、まさにこの意味です。
「責任財産」が「会社に対する出資額」に限定されているため、「有限責任」社員なのです。
これでご理解頂けたとは思いますが、念を押して違う角度からもう一度。
本来、自分の「資本」を増やすための装置(=会社)が稼働しているメリットを「資本」の所有者は享受しているのですから、マイナスになってしまうかも・・・というデメリットも「資本」の所有者は背負うべきです。
ですから、会社が債務を負ったのであれば、「資本」の所有者である「社員」も、私法の原則通り「無限責任」を負うのが筋です。
具体的には、会社債権者に対して、債務全額について連帯債務を負うべきなのです(主債務者はもちろん会社です)。(会社法580条1項)。
しかし、カネだけ出してリスクはそんなに負いたくない、という声は大きく、会社法は一定程度デメリットを軽減してあげた制度を用意しました。
それが、「合資会社」であり、その中の「有限責任社員」です。
「有限責任社員」も会社債権者に対して、連帯債務は負うものの、その内容は、債務全額ではなく「出資の価額」を限度とした責任しか負わない事とされました。(会社法580条2項)
これは、会社債権者は、会社の債務額が「有限責任社員」の「出資の価額」よりも多くても、「出資の価額」よりも多く「有限責任社員」に対して強制執行をかけることができない事を意味しています。
「責任財産」が「出資の価額」の範囲という形で「有限」なのです。
(3)間接有限責任
以上のように、「有限責任社員」という言葉において用いられている「有限責任」という言葉は、通常の語法通りですので、会社法の基本書においても大した解説がないのです。
これに対して、間接有限責任という言葉は、株式会社の特殊性をもろに反映した特殊な言葉です。
ここでは簡単にしか説明しませんが、株式会社は、お金をいろんな人から集めるために、「資本と経営の分離」する可能性を認めたシステムでしたよね?
「資本」と「経営」が分離するということは、会社の行為は、「経営」側がやる訳ですから、会社の行為の責任を取るべき主体である「会社」と、「資本」を出した「社員(株主)」は分離される事になります。
つまり、今までの大前提だった、「会社の債務」=「社員の債務」という図式が崩れて、社員たる株主は会社債権者に対して債務を負っていない状態なのです。この点が、今までの議論と全く異なる点です。
債務がなければ責任はないのがフツーです。
もっとも、株主は、会社に「資本」を入れている訳ですが、会社がコケたら、その「資本」を失ってしまう可能性はありますよね。株式会社においては、「資本」充実・維持の原則により、「資本」こそ会社債権者の最後の当てとなる財産(=責任財産)だと考えられているからです。
この「株主」が「既に入れた資本分の金額を事実上回収できなくなってしまう可能性」を指して、「間接有限責任」と呼んでいるだけなのです。
「既に入れた資本分の金額を事実上回収できなくなってしまう可能性」は、「責任」と呼べるかすら怪しいです。
少なくとも、今までの文脈の(債務の存在を前提とした)「責任」とは明らかに違いますので、「間接」ととりあえず付けてみた、という感じです。
「反射的有限責任」でも「なんちゃって有限責任」でも「有限責任っぽい何か」でもよかったはずですが、真面目っぽく見せるために「間接有限責任」と名付けられたのです。
ですので、(1)(2)を「直接有限責任」と位置付ける必要はありません。「責任」財産としての負担は「直接」負うものです。これが当たり前です。
「間接有限責任」は、同じ「責任」、「有限責任」という言葉が使われていますが、全く別物と考えるべきで、統一的に考えようとしてはいけません。
こんな感じでどうでしょうか。