(マンガ: まんがで気軽に経営用語 様)
残余財産というのは、会社清算時において、「会社の総財産から、契約で定められた債権者の取り分を除いた、株主の取り分となるべき残りの財産」を指す言葉です。
会社法上は、「残余財産の分配を受ける権利」という用語として登場しますね。
株主の権利は、未確定である上、会社債権者の権利に劣後するがゆえに、会社清算時には、「会社の債務一切を弁済した後で残った会社財産」の分配を受ける権利しか株主は持っていないのです。
一応、条文を確認しておきましょう。会社法502条本文です。
「第502条本文 清算株式会社は、当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない。」
しかし、会社債権者に劣後するとはいえ、株主に認められている本質的な権利ですので、「自益権」の記事で既に述べた通り、「残余財産の分配を受ける権利」は、自益権の一内容として重要なのです(105条1項2号、なお2項も参照)。
(また、余談ですが、「ステークホルダー」の記事で少し述べた通り、「残余権者」としての株主の利益状況が最も端的に表れるのが、この会社清算局面でしたね。「残余権者」と「残余財産」の意味の違いは、この「ステークホルダー」の記事をご参照ください。)
そして、残余財産の分配は、基本的には「株主の有する株式の数に応じて」割当てられることになります(会社法504条3項)。頭割ではない、ということですね。
以上で、「残余財産」という用語について知っておくべき基礎知識は全て述べた気がいたします。
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(もう一歩前へ)
「残余財産」に関する説明は上述の内容で必要十分であると思います。
以下では、「ステークホルダー」の記事を前提に、「経営者」と「株主」の利害状況をもう少し見てみますね。
簡単におさらいします。
「株主」は「剰余権者」であるがゆえに、会社の利益状況と密接に関わりを持っており、「株主」と「会社」の利益は基本的に正の相関関係にあります。
これに対し、「経営者」は委任契約に基づいて報酬債権を持っており、会社に対する「債権者」ですから、「経営者」と「会社」の利益は連動しません。債権が回収できなくなるくらい会社が傾いた時にのみ(「会社」の利益が減れば、「経営者」の回収できる額も減る訳ですから)「経営者」と「会社」の利益は正の相関関係となります。
また、他人に仕事を任せた時には必ずエージェンシーコストがかかるのでしたよね。
さて、これだけの情報から言いますと、会社経営は「株主」こそが担うべきです。利害関係の薄い上に、利用するには必ずコストが発生する「経営者」に経営を委ねるのは非合理的です。
しかし、「株主」の数が増え、経営規模が大きくなってきますと、そう単純にはいきません。
「株主」の数が増えるということは、意見集約に新たなコストが発生する、ということです。経営判断は迅速であればあるほど効果を発揮します。その観点から言えば、経営判断の意見集約のために、時間というコストがかかるのは時として致命的です。
また、経営規模が大きくなるということは、経営が難しくなるということです。必ずしも経営の専門家ではない「株主」より経営の専門家である「経営者」の方が適切な判断ができるでしょう。言い方を変えれば、大きな会社を経営する際に、経営判断をする者が「経営について素人である」という事実は、リスクとなる、ということです。
このようにしてみると、「株主」の数が一定数以上となり、あるいは経営規模が一定以上となりますと、「経営者」を利用するためのコストを、「株主」が経営判断することにより生じるコストが上回り、「所有と経営が分離」し、会社の経営を「経営者」に委ねた方が得になる局面に変化することが分かりますね。
このような観点から会社法を見てみると、よく出来た法ルールだなぁと分かると思います。
基本的には、「株主総会」こそ最高の意思決定機関ですが(会社法295条1項)、「公開会社」(無個性の株主がうじゃうじゃ出てくる可能性のある会社)であれば、専門家で構成される「取締役会」を置かなければならないし(会社法327条1項1号)、(資本が5億円以上あるか、負債が200億円以上ある会社を意味する)「大会社」も「取締役会」を置く必要があります(会社法2条6号、328条1項、327条1項2号)。そして、「取締役会」が設置された場合には、「株主総会」は、最高の意思決定機関から、法律・定款に定めのある事だけを決定する機関にランクダウンするのでした(会社法295条2項)。
一応、少し説明しておくと、無個性の株主がうじゃうじゃ出てくる可能性は、「意見集約にコストがかかる」事を意味し、資本の規模や負債の規模が大きいということは、そのような会社の「経営が難しい」ことを意味するがゆえに、「経営判断をする者が素人である事のリスクが高い」事を意味します。ね、よく出来た法ルールですよね?
そして、「経営者」に経営を委ねた場合に発生するエージェンシーコストに対処するために数多くの法ルールが用意されている事は、もう既にステークホルダーの記事で述べました。
この点に関連して、少し異なる視点の分析も加えておきましょうか。
「経営者」は「債権者」でしたね。「債権者」はローリスク・ローリターン経営を志向しがちである旨、前の記事で述べました。つまり、「経営者」は基本的にローリスク・ローリターン経営をしがちなのです。いくら儲けてもリターンは自分にあまりない(もっとも、経営者として箔がつくため、経営者市場で自分に高値がつくという考え方は出来るかもしれませんが。)上、リスクが実現化したら債権が回収できなくなるわ、株主からの責任追及が待ってるわ、職を失うわ、で散々だからです。
しかし、それではリスクをとってでも前に進むべき時に進めません。
そこで経営者のリスクを一定程度和らげてあげるために出てきた判例法理が「経営判断の原則」(簡単にだけ言いますと、取締役の損害賠償責任を判断する際、取締役の業務執行がダメダメなものであったか否か(=任務懈怠があったか否か)の判断を、裁判官が事後的になすのは困難なので、原則的には、経営判断の是非には裁判所は立ち入らず、情報収集やそれに基づく選択決定に「著しい不合理」がなかったか、という形で(あくまで例外的な形で)裁判所は判断するのだ、という考え方です。)なのです。
色々な制度が繋がって面白いですよね。
今回は、以上です。