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残余財産とは(4/1)

 

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(マンガ: まんがで気軽に経営用語 様)

 

残余財産というのは、会社清算時において、「会社の総財産から、契約で定められた債権者の取り分を除いた、株主の取り分となるべき残りの財産」を指す言葉です。

会社法上は、「残余財産の分配を受ける権利」という用語として登場しますね。

株主の権利は、未確定である上、会社債権者の権利に劣後するがゆえに、会社清算時には、「会社の債務一切を弁済した後で残った会社財産」の分配を受ける権利しか株主は持っていないのです。

一応、条文を確認しておきましょう。会社法502条本文です。

 

502条本文 清算株式会社は、当該清算株式会社の債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができない。

 

しかし、会社債権者に劣後するとはいえ、株主に認められている本質的な権利ですので、「自益権」の記事で既に述べた通り、「残余財産の分配を受ける権利」は、自益権の一内容として重要なのです(105条1項2号、なお2項も参照)。

 

(また、余談ですが、「ステークホルダー」の記事で少し述べた通り、「残余権者」としての株主の利益状況が最も端的に表れるのが、この会社清算局面でしたね。「残余権者」と「残余財産」の意味の違いは、この「ステークホルダー」の記事をご参照ください。)

 

そして、残余財産の分配は、基本的には「株主の有する株式の数に応じて」割当てられることになります(会社法504条3項)。頭割ではない、ということですね。

以上で、「残余財産」という用語について知っておくべき基礎知識は全て述べた気がいたします。

 

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(もう一歩前へ)

 

「残余財産」に関する説明は上述の内容で必要十分であると思います。

以下では、「ステークホルダー」の記事を前提に、「経営者」と「株主」の利害状況をもう少し見てみますね。

 

簡単におさらいします。

「株主」は「剰余権者」であるがゆえに、会社の利益状況と密接に関わりを持っており、「株主」と「会社」の利益は基本的に正の相関関係にあります。

 

これに対し、「経営者」は委任契約に基づいて報酬債権を持っており、会社に対する「債権者」ですから、「経営者」と「会社」の利益は連動しません。債権が回収できなくなるくらい会社が傾いた時にのみ(「会社」の利益が減れば、「経営者」の回収できる額も減る訳ですから)「経営者」と「会社」の利益は正の相関関係となります。

また、他人に仕事を任せた時には必ずエージェンシーコストがかかるのでしたよね。

 

さて、これだけの情報から言いますと、会社経営は「株主」こそが担うべきです。利害関係の薄い上に、利用するには必ずコストが発生する「経営者」に経営を委ねるのは非合理的です。

 

しかし、「株主」の数が増え、経営規模が大きくなってきますと、そう単純にはいきません。

「株主」の数が増えるということは、意見集約に新たなコストが発生する、ということです。経営判断は迅速であればあるほど効果を発揮します。その観点から言えば、経営判断の意見集約のために、時間というコストがかかるのは時として致命的です。

また、経営規模が大きくなるということは、経営が難しくなるということです。必ずしも経営の専門家ではない「株主」より経営の専門家である「経営者」の方が適切な判断ができるでしょう。言い方を変えれば、大きな会社を経営する際に、経営判断をする者が「経営について素人である」という事実は、リスクとなる、ということです。

 

このようにしてみると、「株主」の数が一定数以上となり、あるいは経営規模が一定以上となりますと、「経営者」を利用するためのコストを、「株主」が経営判断することにより生じるコストが上回り、「所有と経営が分離」し、会社の経営を「経営者」に委ねた方が得になる局面に変化することが分かりますね。

 

このような観点から会社法を見てみると、よく出来た法ルールだなぁと分かると思います。

基本的には、「株主総会」こそ最高の意思決定機関ですが(会社法295条1項)、「公開会社」(無個性の株主がうじゃうじゃ出てくる可能性のある会社)であれば、専門家で構成される「取締役会」を置かなければならないし(会社法327条1項1号)、(資本が5億円以上あるか、負債が200億円以上ある会社を意味する)「大会社」も「取締役会」を置く必要があります(会社法2条6号、328条1項、327条1項2号)。そして、「取締役会」が設置された場合には、「株主総会」は、最高の意思決定機関から、法律・定款に定めのある事だけを決定する機関にランクダウンするのでした(会社法295条2項)。

一応、少し説明しておくと、無個性の株主がうじゃうじゃ出てくる可能性は、「意見集約にコストがかかる」事を意味し、資本の規模や負債の規模が大きいということは、そのような会社の「経営が難しい」ことを意味するがゆえに、「経営判断をする者が素人である事のリスクが高い」事を意味します。ね、よく出来た法ルールですよね?

 

そして、「経営者」に経営を委ねた場合に発生するエージェンシーコストに対処するために数多くの法ルールが用意されている事は、もう既にステークホルダーの記事で述べました。

この点に関連して、少し異なる視点の分析も加えておきましょうか。

「経営者」は「債権者」でしたね。「債権者」はローリスク・ローリターン経営を志向しがちである旨、前の記事で述べました。つまり、「経営者」は基本的にローリスク・ローリターン経営をしがちなのです。いくら儲けてもリターンは自分にあまりない(もっとも、経営者として箔がつくため、経営者市場で自分に高値がつくという考え方は出来るかもしれませんが。)上、リスクが実現化したら債権が回収できなくなるわ、株主からの責任追及が待ってるわ、職を失うわ、で散々だからです。

 

しかし、それではリスクをとってでも前に進むべき時に進めません。

そこで経営者のリスクを一定程度和らげてあげるために出てきた判例法理が「経営判断の原則」(簡単にだけ言いますと、取締役の損害賠償責任を判断する際、取締役の業務執行がダメダメなものであったか否か(=任務懈怠があったか否か)の判断を、裁判官が事後的になすのは困難なので、原則的には、経営判断の是非には裁判所は立ち入らず、情報収集やそれに基づく選択決定に「著しい不合理」がなかったか、という形で(あくまで例外的な形で)裁判所は判断するのだ、という考え方です。)なのです。

 

色々な制度が繋がって面白いですよね。

今回は、以上です。

 

ステークホルダーとは(4/1)

 

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(マンガ: まんがで気軽に経営用語 様)

 

ステークホルダーというのは、利害関係者の事ですね。

 

――――― 完 ―――――

 

……では、寂しいですよね(笑)

法律用語ではありませんので、あまり重要な用語ではありませんが、少し詳しく見てみることにしましょうか。

以下は、「法と経済学」の観点からの分析を推し進めている(と、私が勝手に位置づけている)落合誠一先生の『会社法要説(初版)』(有斐閣、2010年)21頁以下のご分析に負うところが大きいです。

 

さて、ステークホルダーという用語は、利害関係者の事を指す言葉でしたね。

上記のマンガでは、株主・従業員・客(消費者)・債権者が出てきています。どの人も、その企業と大なり小なり利害関係がありますので、ステークホルダーです。

のみならず、他にも地域社会やら官公庁やらもステークホルダーの例として挙げることができます。

その企業と何らかの(直接又は間接の)利害関係を有していれば、ステークホルダーと呼ぶことができるのです。

 

では、具体的に、各類型の人達は、どのような内容の利害関係を有しているのでしょうか。

この利害の絡み合いを解き明かし、時として発生する利害対立を適切に調整するための法ルールが、「会社法」のあるべき姿です。

逆から言えば、「会社法」の制度設計の構築やその理解の為には、どのような利害関係を持つプレーヤー(=ステークホルダー)がいるのかの適切な把握が不可欠なのです。

 

落合先生は、上記書籍において、「株主」、(取引先や銀行等の通常の)「債権者」、(健康被害の被害者等の)「不法行為債権者」「従業員」「経営者」というプレーヤーを主として想定され、ご分析されています。以下の記述もそれに従っております。

 

(1) 株主

 

株主の特徴は、「間接有限責任」のみを負い、「剰余権者(残余権者)」であることです。

株主は、既に投下した資本を失っちゃうかも、という限度で責任を負っており、これを間接有限責任と言うんでしたよね?(「間接有限責任」が、あまりピンとこない方はコチラの記事をご覧ください。)

また、株主の権利は、未確定であり、会社債権者に劣後するため、株主の取り分は「会社のその時点での資産から、契約で定められた債権者の取り分を除いた、残りの部分」ということになります。この「残りの部分」の権利者である、という株主の特徴を「剰余権者」あるいは「残余権者」と(経済学では)呼ぶのです。(「株主の権利が未確定」という意味がピンとこない方はコチラの記事のラストをご覧ください。)

 

(補足です。この「剰余権者(残余権者)」という用語と、「残余財産の分配を受ける権利」という際の「残余財産」とは少しだけニュアンスが異なります。「残余財産」という用語は、会社がコケて清算手続に入った際、(債権者の取り分を除いた)「残余」部分しかお金貰えませんよ、という言葉です。これに対し、今回登場した「残余権者」という用語は、会社の平常運転時も清算時もひっくるめて、株主の利害は、「残余」部分と連動していますよ、という言葉です。意識的に区別して下さいね。もちろん、会社の平常運転時には、株主には「残余」部分を受け取る「請求」権はありません。「剰余金の配当を受ける権利」は、配当決議がない限り具体化しない未確定な権利だからです。とはいえ、利益状況としては(配当としてインカムゲインになるにせよ、内部留保に回ってキャピタルゲインになるにせよ)「残余部分」は間違いなく株主の利益と連動していますので、株主は会社の平常運転時においても「残余権者」なのです。会計的に見れば、より簡単に分かるはずです。貸借対照表の「資産」から、債権者の取り分である「負債」を除いた部分こそが、株主の取り分である「純資産」でしょう?)

 

この株主の特徴から、次の事が言えます。

「剰余権者」であれば、合理的に行動する限り、剰余部分を増加させる行動をとるはずですので、企業の業績向上に対して一番インセンティブを本来的に有しているプレーヤーです。つまり、利害状況から言えば、(利益の最大化を目指すべき)企業運営に一番向いているプレーヤーですので、基本的には株主こそが企業運営の中心的存在となるべきなのです。

また、「間接有限責任」のみを負担しているということは、いざという時の被害が限定されているという事なので、ハイリスク・ハイリターンの企業運営をするインセンティブが存在します。もっと言えば、企業が債務超過の状態であれば、株主としては小さな利益を上げても、どうせ自分の取り分に大した変更はないので、大博打を打つインセンティブが存在するということになります。

 

一番重要なステークホルダーである「株主」の利害状況分析が終わりました。

少し長くなりましたので、他のプレーヤーの分析は、(もう一歩前へ)ですることにいたしましょう。

 

(補足です。「株主」をもう少し細かく分析することも可能です。株主を「現在の株主」と「将来の株主(潜在的な株主)」とに分類すると、「現在の株主」は現在の配当を優先するのに対し、「将来の株主」は、現在の配当ではなく、利益の留保を優先する、ということが言えます。このような視点からは、経営者として、「現在の株主」に力点を置き、(敵対的TOB対策に一定の効果を有する)安定株主確保の為の増配路線で行くのか、「将来の株主」に目線を据え、留保利益を設備投資などに回し、配当を控える路線で行くのかの分岐が見えてくることになります。)

 

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(もう一歩前へ)

 

では、続きです。

 

(2) (通常の)債権者

 

債権者は、「一定額の支払いを請求する権利」を有しています。

ここから、株主とは異なり、企業がどれだけ利益を伸ばしても、債権者の関心事項は「一定額が回収できるか否か」だけですから、債権者に企業の業績向上のインセンティブはあまりない、と言えます。自分の債権がしっかり回収できる程度の利益が出たのであれば、たくさん儲かっていても、ちょっとしか儲かっていなくても、債権者にとっては一緒です。

つまり、(利益の最大化を目指すべき)企業運営にはあまり向いていないプレーヤーです。

また、株主がハイリスク・ハイリターン経営へのインセンティブがあったのに対し、債権者にはローリスク・ローリターン経営へのインセンティブがあります。リターンが大きくても、債権者はその分け前がもらえる訳ではないし、リスクが現実化してしまえば、債権が回収できなくなる可能性が高まるからです。

 

(3) 不法行為債権者

 

このプレーヤーが、「債権者」と区別されているのは、意図的に利害関係を有した訳ではない、という点にあります。通常の債権者が、企業がこけることによって損をするのは、事前の情報収集やリスク分析・対策が甘かったね、自己責任だね、ということで基本的には片づけることができます。

しかし、意図的に利害関係を有した訳ではない「不法行為債権者」は、そのような理屈は通用せず、特別に保護する法ルールを構築する必要があるからです。

 

(4) 従業員

 

従業員は、雇用契約に基づいて給料をくれ!という権利を持っているのですから、「債権者」としての地位を持っています。ただし、それのみならず、雇用契約により、会社に対して指揮・命令に服すべき従属的な地位に立たされているのですから、その点にも配慮した法ルールが構築される必要があります。日本では、この法ルールは、労働法の関心事ですね。

 

また、従業員には(成果給ではなくて定額の給料であれば)、業務に励むインセンティブがありません。四六時中従業員を監視することは不可能なので、従業員がサボる可能性は常に存在してしまうことになります。このような問題をエージェンシー問題と言います。

 

この問題への対応としては、例えばストックオプションを付与したり、優秀な社員を表彰してみたり、会社業績が上向いたら臨時ボーナスを出す制度にしたり、様々な対応がありえます。(ストックオプションについては、こちらの記事をご覧ください。)

 

(5) 経営者

 

経営者は、委任契約に基づいて報酬をくれ!という権利を持っているのですから、「債権者」としての地位を持っています。また、仕事を任されているのですから、当然会社と経営者との間にもエージェンシー問題は存在します。それも、経営者にはとても広範な裁量権があるのですから、かなり深刻なエージェンシー問題が存在していますサボるだけじゃなくて、会社を食い物にして自分の利益を図る事すら容易だからです。

 

経営者と会社との間のエージェンシー問題に対する対応としては、経営者にストックオプションをあげる方法の他に、会社を食い物に出来ないように株主と経営者との間に存在する情報ギャップ(=情報の非対称性)を埋める方法(いわゆるIRです)、そして、法ルールが会社を裏切った場合の不利益や罰則を用意する、という方法などが取られています。ラストは具体的には、会社法355条の忠実義務やら(受任者としての)善管注意義務やら、会社法423条の任務懈怠責任やら様々な法ルールが用意されています。

 

(補足です。エージェンシー問題を一から簡単に説明しますね。とある経済主体が、他の経済主体にお金や仕事を任せる場合、任せる側を「プリンシパル」、任される側を「エージェント」と呼びます。(所有と経営が分離した)会社と経営者の場合は、会社が「プリンシパル」で経営者が「エージェント」です。そして、「プリンシパル」は「エージェント」の活動を逐一監視することは出来ませんし、監視する能力にそもそも欠けている場合もあります。このように考えますと、「エージェント」は機械ではなく人間ですので、自己の利益(ex.プリンシパルを食い物にしてお金が欲しい、楽するためにサボりたいなどなど)を「プリンシパル」の利益よりも優先させてしまうインセンティブが存在することになります。これは、「プリンシパル=エージェント関係」にあれば、必然的にこのインセンティブが存在してしまう、ということです。これが「エージェンシー問題」です。これでは、任せる側の経済主体に、(お金を横領される、サボられる等の)何らかの損失が発生してしまいます。この損失を「エージェンシーコスト」と呼び、このコストを最小限にする方法を「経済学」やら「金融論」やらは模索し続けているのです。)

 

(なお、会社と経営者との間の「エージェンシー問題」であれ、会社(や経営者)と従業員との間の「エージェンシー問題」であれ、エージェンシーコストを最小にするための、プリンシパルの最も効果のある対策の一つが、「信頼のおける人をエージェント(従業員・経営者)にする」事であるのは疑いを容れないはずです。法学も経済学も金融論も、「(人間を均一化して)どのような法システム・配当政策・資源の配分が最適か」などという議論をやっていますから、上のような話となりますが、上述の文脈で言っても、「人の役に立ちたい」、「誠実でありたい」、「この人の信頼に応えたい」という思いが、「エージェント」個人の「自己の利益」として重要なのだとしたら、それは「自己の利益」の内容が「プリンシパルの利益」に近づいているのですから、「エージェンシーコスト」は小さくなるはずです(私見)。まぁこのあたりは「人を動かすには」みたいな自己啓発本的な内容になりそうですので、このくらいにしておきますね。)

 

これで一応、主要5プレーヤーの利害状況の簡単な説明が終了しました。

「残余財産」の記事の後半で、「経営者」と「株主」の関係に絞って、この分析を前提にもう少しだけ話を進めてみようかな、と思っております。

それでは、今回は以上です。

 

のれんとは(3/21)

 

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(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)

 

今回は、のれんですか……。

のれんは、主に会計学の領域ですから深入りせずに基礎を押さえましょう。

 

日常用語の「のれん」って分かりますよね?

軒先に張って日よけに使うための布です。

お店の入口でよく見かけます。店の名前とかが書かれていて、手でどけなきゃ、髪の毛や顔にファサってなっちゃう布です。

この「のれん」をくぐり抜けて、「いらっしゃいませ!何名様でしょうか」までが飲食店あるあるですね。

 

この「のれん」には、店の名前が書かれていると申しました。

今日では、真っ先に目に入る店の「看板」であり、その店を象徴するものが「のれん」だという認識が定着しています。

ここから転じて、「店の信用力、ブランド力」をも意味するものとされました。

 

この意味の「のれん」を法律学的に定義すると、得意先との関係や主人の人柄など客観的・個別的には評価できない事実関係、と定義されることになります。(最判昭和51・7・13は、「他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」と表現しています。)

他方、会計学的に定義すれば、もっと簡単です。店の信用などの目に見えない収益力が「のれん」なのです。

 

この「のれん」も法的保護の対象となります。

具体的には、「のれん」に対する侵害行為についても不法行為責任が生じるのです(大判大正14・11・28)。

 

「のれん」の会計上の取扱いにつきましても、軽く見ておきましょうか。

商法施行規則第33条第1文を見てみます。

 

「第33条 のれんは、有償で譲り受け又は吸収分割若しくは合併により取得した場合に限り、貸借対照表の資産の部に計上することができる。」

……とされています。

 

「のれん」というのは、目に見えない収益力です。

将来的に収益を上げる要素なのですから、本来であれば常に「資産」として計上されるはずです。会社の財務情報を適正に開示するという観点からは、むしろそうすべきです。

しかし、「のれん」というのは、法律学上の定義にもありましたが、客観的・個別的に評価できないです。また、評価の難しい「のれん」を経営者が自分で評価できる制度にしたら、(会計帳簿をごまかしたいというインセンティブは、経営者には常にある訳ですから)恣意的な計上のされ方が常態化するでしょう。上のマンガは、このことを言っています。やや小難しい言葉でいえば、「自己創設のれんの計上禁止」です。

そこで、普段は「のれん」は、簿外の含み資産として、「資産」の部に計上しなくてよいこととなっているのです。

ただ、「有償で譲り受け」る場合や、「合併により取得した場合」のように、「のれん」に客観的に値段が付いた場合には、それを「資産」として計上できることとされているのです。

これが、法律学及び会計学の観点から見た「のれん」の基礎中の基礎知識です。

 

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以下は、細かい話なので、あまり見て頂く必要もないかもです。

一言で言えば、上で「のれん」に客観的に値段が付いた場合、と申しましたが、どうやって値段をつけるの?というお話です。

 

そこで、会社買収における「のれん」の扱いをもう少しだけ見てみます。

吸収合併を考えてみましょう。

食べる会社(合併存続会社)が、食べられる会社(合併消滅会社)を食べるのは、食べられる会社がおいしいからです。

その「おいしさ」の物差しは、「将来の収益力」です。比喩が過ぎますかね(笑)

 

吸収合併は、食べられる会社の「現在の価値」だけではなく、食べられる会社の「将来の収益力」をも買い取るものです。つまり、食べられる会社に支払われる購入代金には、「のれん」が含まれているのです。

そして、この「のれん」が含まれた購入代金から、食べられた会社の現在の価値を示す「純資産相当額」(= 食べられた会社が有していた全「資産」 - 引き継ぐべき全「負債」)を引きますと、数値化された「のれん」が出てきますでしょう。

 

購入代金(「純資産相当額」+「のれん」) - 「純資産相当額」 = 「のれん」

 

・・・という事です。超単純化すれば、という話ですけれどね。この「のれん」は正の場合もあれば負の場合もあります。

このように、会社買収の場合には、客観的に数値が出てきますので、恣意の入る余地が少ないため、「のれん」は(「連結調整勘定」や「営業権」という名の勘定科目として)「資産」に計上されるのです。

 

(※ ちょ~細かい補足です。以上のような「のれん」の捉え方を「差額説」と言います。国際的にはこの考え方が一般的ですし、日本においても現在はこの考え方が取られています(会社計算規則13条、企業結合会計基準等参照)。しかし、かつては「超過利益説」という考え方も有力でした。この考え方は、「のれん」は、(その店が実際に上げた利益から、その店の事業資産であれば通常上げたであろう利益を引くことで算出する)独自に数値化できる「超過収益力」と捉えます。上記最高裁判例(最判昭和51・7・13)の「のれん」の「他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」という定義は、実は「超過利益説」に立脚した定義だったのです。ただ、今の国際的な潮流及び日本の会計基準は「差額説」ですので、この判例の定義が現在も妥当しているとは考えなくてもよい気がいたします。)

 

以下は、さらなる余談です。

 

たいていの会社法の本には、企業結合における会計処理の方法につきまして、パーチェス法と持分プーリング法の二つがあると書いてあります。

パーチェス法は、取得財産を時価で再評価する方式で、持分プーリング法は、評価替えを行わずに、直前の帳簿価額を引き継ぐ方式であると書かれていますよね。

 

簡単に言い換えるとですね、パーチェス法というのは、食べる(消滅会社を購入する)という発想なのに対し、持分プーリング法は、合体するという発想なのです。

パーチェス法へ一本化するのが世界の潮流だから、持分プーリング法はなるべく使わないというお話も書いてあるはずです。計上方法が二つあれば、経営者の恣意的判断が介在する余地が生まれちゃうので、会計への信用が損なわれるからですね。

 

このように、パーチェス法一本化が世界の潮流なのですが、日本は少し変わった(まだ遅れている?)制度となっています。

パーチェス法での計上が原則なのですが、対等な者同士の合併で、どっちがどっちを食べたとも評価できない場合には、持分プーリング法を適用することになっています。

 

そして、実はこの持分プーリング法の発想からは、合併時に「のれん」は出てきません。

どちらがどちらを「購入」した訳でもないからです。二つが一つに合体したのです。

ですので、上述した「のれん」の計算式は、「差額説」を前提にした上で、パーチェス法の発想も前提にしている、ということは理解する必要があるように思います。

 

授権資本制度とは(3/21)

 

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(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)

 

分かり易いマンガでしたね。

うぅん、授権資本制度をちゃんと理解しようと思うと、資本制度を理解する必要があります。一から説明すると長くなりそうですが……頑張ります。

 

構成は、

1、資本制度って?

2、資本の法的性格

3、授権資本制度の登場

4、現在の授権資本制度の概要

・・・でいきましょうか。

 

1、資本制度って?

 

株主は、株式会社制度の下では、既に投下した分のお金を失っちゃうかも、という限度でのみお金を失う可能性があるのでしたよね?

これを間接有限責任と言いました。(間接有限責任の詳しい解説は、コチラをご覧ください。)

社員たる株主が間接有限責任しか負わないということは、会社と取引する人は、その会社がヤバくなった時に株主の個人資産からお金を回収できないってことです。

じゃあ、会社と取引する人は、会社からお金を回収する他はありませんね。

とはいえ、社外から会社の内部事情を詳しく知る事など出来ないのですから、その会社がどれくらいお金を持っているか分かりません。

そんなことでは、合理的な方であれば、そもそもそんな「株式会社という存在」とは取引しません。いざとなったらどの程度被害を被るか(債権回収を諦めなければならないのか)のリスク予測が出来ないからです。

 

そこで、取引相手のリスク予測を可能にするために採られた方策として、「会社がその財産を確保すべき一定の基準額(目標額)」たる「資本金」を設定し、貸借対照表及び登記にて公示すべきことにしたのです(会社法440条、911条3項5号)。そして、公示した「資本金」額を何とか会社に確保させようとする資本充実・維持の原則等の法ルールを採用しました。

これにより、会社債権者は、その会社にどのくらいのお金があるのかについて、一定の指標を得ることになりますので、ある程度のリスク予測は可能になったのです。

これが現在の資本制度の基本的な考え方です。

 

「金庫株」の記事でもここら辺につきましては、同じ視点で少し言葉を変えて説明させて頂いておりますので、併せてご参照ください。資本制度を支える資本充実・維持の原則に関する簡単な説明もこちらの記事で行っております。)

 

2、資本の法的性格

 

さて、「資本」ってそもそも何でしょう?

かつて(1950年の商法改正前)は、「出資額」(=1株の価額×発行済株式総数)を意味していました。出資者たる株主が現在会社に入れているお金の総額が「資本」(=「資本金」)というとても分かり易い概念だったのです。

ここから、「資本」の価額の変更は、株式の数の変更を意味するため、株主たちが自分達で判断すべきこととされていました。具体的には、資本は定款の記載事項となっており、増資をするためには定款を変更する必要がありますから、株主総会の特別決議が必要だったのです。単純な理屈ですから、とても分かりやすいシステムですよね。

 

しかし、そう単純にはいきませんでした。経営者側の視点から考えてみてください。

株式を発行することは、(会社防衛の場合を除けば、)何も構成員を増やすことを目的としてやるのではありません。

会社の事業資金を調達するために通常は発行します。

そして、資金調達の中でも、(自己資本として)返済の必要のない株式発行は、とても重要な方法です。

ですが、株式の発行のたびに、毎回株主総会の特別決議が必要で、時間も費用もかかるというのでは、とても経営者の資金繰りはやっていけない。こう考えられたのです。

 

そこで、1950年の改正商法は、資本を定款の記載事項とするのをやめ、より経営者の資金繰りに配慮したルール作りに舵を切りました。そこで、登場したのが今回のテーマである「授権資本制度」です。

 

(その結果、「資本」概念は変更を余儀なくされ、法改正のたびに、立法者が機動的な資金調達の必要性にどんどん配慮し、「株式」とはどんどん関係の薄い概念となりました。

今では、「資本金」概念には1、で述べたように定義がありますが、「資本」概念に定義はなく、多義的に用いられています。

「株主の投下資本」といえば、「お金」(より正確には、「将来利益を生み出す源泉」)というだけの意味ですし、計算の分野では、「資本」は「純資産(資産-負債)」を意味することもあります。)

 

3、授権資本制度の登場

 

それでは、やっと本題ですね。

株式の発行は、「社員」たる地位の売買なので、基本的には社員たる株主が(株主総会において)自分達で判断すべきものです。特に、第三者に割当てられる場合は、支配率や株式の価値を左右するため、既存の株主は大きな利害関係を有しています。

他方で、株式の発行は資金調達の手段なので、時間がかかる株主総会を経ることなく、スピーディーに結論を得ることができる取締役会で決定したいという機動的な資金調達の要請も軽視できません。経営者による機動的な資金調達ができなくて困るのは、会社の「残余権者」たる株主自身です。

この二つの対立する要請を調整する制度として、1950年改正商法は、授権資本制度を導入しました。

大きな考え方としては、資本を定款の記載事項とするのを止める代わりに、発行可能株式総数(株式をどのくらいまでなら発行することができますよ、という数)を定款に定め、その範囲内でなら、(株主総会の決議を経ずとも)取締役会の決議だけで株式を発行出来る、という制度にしたのです。

取締役会決議での株式発行を可能にすることで、機動的な資金調達の要請に配慮するとともに、「発行可能株式総数」という上限を設けることで、既存株主の利益にも配慮しています。

この制度は、「定款」により、「株式の発行権限」が「取締役会」に「授権」されていると見ることが可能なため、授権資本制度と言うのです。

なお、今では上述のように「株式」と「資本」の概念は、関連性が薄くなっており、もはや「資本」が「授権」されていると見ることはできませんので、本当は「授権株式発行制度」とでも言うべきなのでしょうが、用語法として定着しているため、「授権資本制度」と現在でも言われています。

 

以上が、授権資本制度の大まかな理解でした。

後半では、現在の授権資本制度の概要をお伝えしたいと思います。

 

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4、現在の授権資本制度の概要

 

では、大まかな現在の会社法における授権資本制度を見ていきましょう。

まず、おさらいです。

授権資本制度は、ざっくり言えば、発行可能株式総数(株式をどのくらいまでなら発行することができますよ、という数)を定款に定め、その範囲内でなら、(株主総会の決議を経ずとも)取締役会の決議だけで株式を発行出来る、という制度でした。

 

授権資本制度を採用している事を示す会社法上の条文を指摘するとすれば、

37条1 発起設立による会社設立時、会社が成立するまでに「発行可能株式総数」を定款に定めるべし、という条文

98 募集設立による会社設立時、会社が成立するまでに「発行可能株式総数」を定款に定めるべし、という条文

113条1 定款を変更して「発行可能株式総数」の定めを廃止しちゃダメ、という条文

199条1項、2 株式の発行は「株主総会」(の特別決議)で行うのが原則だよ、という条文

200条1 「株主総会」が(特別)決議によって、株式の発行を「取締役」(「取締役会」)に委任してもいいよ、という条文

201条1 公開会社では、株式の発行は「取締役会」がするのが原則に変更するよ、という条文

……以上ですかね。

 

さて、この「発行可能株式総数」で枠をはめるという発想、このままだと枠としてちゃんと機能しなさそうだ、という事は分かりますでしょうか?

例えば、会社を設立する時点から、「発行可能株式総数」を「1兆株な~!」と子供みたいな事をすればどうなりますか?

事実上、経営者は何不自由なくいくらでも株式を発行できることになります。こんな事が可能であれば、「発行可能株式総数」という枠は、絵に描いた餅なのです。

 

この問題に対処する為、会社法は「4倍ルール」を採用しています(会社法37条3項、113条3項)。

「常に発行可能株式総数の4分の1以上は、現実に株式を発行しておかなければならない」というルールです。逆に言えば、「常に現在発行している株式の4倍までに発行可能株式総数は抑えなくてはならない」ということですね。

こうすることで、「発行可能株式総数」を「1兆株」にしたければ、少なくとも「2500億株」を実際に発行する必要がありますので、そんなことはムリなのです。

 

また、このようなルールを明示することで、既存株主は、新株発行に伴う自分の支配率の低下が「最大でも4分の1にとどまる」等というリスク分析をすることが可能となります

例えば、A社は、「発行可能株式総数」が「20株」で、現在「5株」発行しているとします。Bくんはそのうち「1株」もっていますから、支配率は現在20%です。

経営陣が、授権の範囲内で最も多く発行しても、あと「15株」発行することができるだけです。

その15株が他の人に割り当てられたとすると、Bくんは、全「20株」のうち「1株」保有していますので、支配率は5%になります。

このように、経営陣による株式発行の上限が設定されることで、株主は、支配率がどの程度薄まるかの予測を立てることができます。これも「4倍ルール」の効用ですね。

 

(この「4倍ルール」は公開会社だけのルールです。非公開会社であれば、上述のように基本的には「株主総会」の特別決議によって株式の発行を判断しますので、こんなルール必要ありません。(会社法37条3項ただし書、113条3項ただし書))

 

だいぶ長くなりましたので、このあたりにしましょうか。

株式の消却・併合時に「4倍ルール」が維持されるか(結論だけいえば、現会社法の下では例外的に維持されない)というお話もしたかったですが、少し細かすぎますよね。

以上です!

共益権とは(3/20)

 

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(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)

 

・・・う~ん。株主提案権は、「株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる」(議題提案権、会社法303条1項)等というものですから、このマンガには少し誤解が含まれている気がいたします。

社長が、同時に株主であれば株主提案権を行使できますが、そもそも社長は取締役なのですから、そんな回りくどいことをする必要はありません。取締役(あるいは取締役会の一員)として、議題を提案し、あるいは議案を提出すればそれで良いのです(会社法298条1項2号、4項等)。

株主提案(権)という言葉が、株主「が」提案するものであって、株主「に対して」提案するものではない事も併せて押さえておきましょう。

 

さて、本題である共益権の話に参りましょう。

自益権と共益権の区別につきましては、既にコチラの記事で述べました。

簡潔にだけおさらいしますと、

会社法上、株主に認められている権利の中で、「権利を行使する株主のみが利益を受けるもの」を自益権と呼び、「権利を行使する株主以外の株主も利益を受け得るもの」を共益権と呼んだのでした。 

そして、自益権は、株主が会社から直接経済的利益を受ける事を目的とする権利と定義できるという話を上記記事においてさせて頂きましたね。

これに対して、共益権は、株主が会社の経営に参加・関与し、又は会社の経営を監督・是正することを目的とする権利と定義できます。

 

共益権の具体例はホント数多いですが、重要なものをピックアップして見ていきましょう。

まず、最も重要なのは、議決権(会社法105条1項3号)です。株主総会において、個々のテーマに対して賛否の票を投じる権利です。

あとは、マンガにも登場した(株主総会で議論するテーマを設定したり(=議題提案権)、特定のテーマにおける自らの考えに対して賛否を問うことができる(=議案提出権))株主提案権や、(株主総会の場で経営陣に質問し、回答を求めることができる)質問権などがあります(会社法303条~305条、314条)。

以上が、定義の中でも「株主が会社の経営に参加・関与……することを目的とする権利」という部分の具体例です。基本的には、株主総会の一員として会社の経営に口出しする権利、という感じですね。

 

「会社の経営を監督・是正することを目的とする権利」の具体例としては、まずは書類等の閲覧等請求権が挙げられます。取締役会・監査役会等の議事録や、計算書類・会計帳簿などを株主がチェックすることで、経営陣に対して、ちゃんと経営しているかプレッシャーをかけることができるって事です。

次に、取締役等に対する責任追及の訴えなどの、訴訟の提訴権が挙げられます(会社法847条等)。これは、経営陣と対立してでも経営の是正を図る手法ですね。

 

以上で、共益権の中でも重要なものについては、概観できたように思います。

 

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(もう一歩前へ)

 

もう語るべきことは語ってしまった……。

議決権について掘り下げるか、株主提案権について掘り下げるか、訴訟の提訴権について掘り下げるか……。

 

この中で一番重要なのは株主総会での議決権です。

会社法308条1は、「株式一株につき一個の議決権を有する」と規定しています。

つまり、出資をたくさんして、株式をいっぱい保有している人ほど、(その株式が議決権制限株式でない限り)議決権もたくさん持つことができるのです。1人1票ではないのです。

 

そして、議決権を代理行使できるのか、というのも議決権についての重要な論点なのですが、その点につきましては、コチラの記事で、取締役会の議決権と株主総会の議決権を比較しながら、その違いを述べましたね。

改めて申しますと、取締役会においては、プロとしてのその取締役自身の能力への信頼を基礎に、取締役会で情報を集約しつつ、プロ同士の喧々諤々の議論を経て結論を得ることが求められているのですから、議決権の代理行使は認められません。

これに対して、株主総会においては、株主は出資者以上の何者でもなく、その能力・個性は重視されません。

ですので、会社法310条1は、「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる」としており、原則として議決権の代理行使は認められているのです。

 

こんな感じですか。代理人資格を限定して、株主の議決権代理行使の機会を一定程度制限する定款の有効性という応用のお話があるのですが、まぁすごく長くなりますし、そこまでは止めましょう、うん。

合理的な理由があって、相当程度の制限なら、そんな定款も有効になる(最判昭和43・11・1)という結論のみ書いておきますね。以上です。

 

自益権とは(3/20)

 

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(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)

 

教育マンガとして、素敵な内容でしたね。

会社法上、株式会社の株主に認められている権利はたくさんありますが、それらの権利は、「権利を行使する株主のみが利益を受けるもの」と「権利を行使する株主以外の株主も利益を受け得るもの」とに分類することができます。

そして、会社法学は、前者を自益権と総称し、後者を共益権と総称しています。

 

かつては、自益権は「株主が自らの利益の為に行使できる『権利』(=株主が社員の資格として有する権利)」で、共益権は「株主が会社のために行使すべき『権限』(=株主が会社の機関としての資格で有するに過ぎない権限)」である等という区別がなされることもありましたが、現在ではその議論はほとんど克服されています。

すなわち、自益権も共益権も『権利』であり、株主は自らの利益のために行使できるのです。ただ、その権利行使の結果として、自分だけが利益を得るのか、他の株主も利益を得る可能性があるのかで、自益権と共益権は分類されるのです。

このような現在の考え方からは、自益権と共益権とを区別する実益はさほどなく、共益権の方が他の株主の利益にも影響することがあるのでより制約されうる、ということがざっくりと言える程度なのです。

また、(一般には共益権とされている質問権や帳簿閲覧権は、実は利益を得ているのは権利行使した本人だけと言えない事もないため)自益権と共益権との区別が曖昧になってきているという指摘もあります。

 

さて、では自益権の説明に入ります。

自益権は、株主が会社から直接経済的利益を受けることを目的とする権利と一般に定義されています。

何故、「経済的利益」に限定されているかと言えば、単純な話で、会社法上株主に生じ得る利益の中で、「権利を行使する株主のみが受け得る利益」は基本的には「経済的利益」しかないからです。

 

自益権の具体的な内容を見てみましょう。

自益権の中でも一番重要なのは、やはり剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号)です。会社の業績が良いときにお金(=配当)を貰える権利ですね。

その次に重要なのは、残余財産の分配を受ける権利(会社法105条1項2号)です。会社が倒産しちゃった時に、会社が借金を全部返し終わった後に残った財産(=残余財産)を株主の皆で分け分けしよっか、という権利です。もちろん会社が解散したケースですから、残余財産なんて無い場合の方が多いです。そんな場合には、この権利は絵に描いた餅です。

あとは、会社法上、一定の場合に認められる株式買取請求権(=株主が会社に対し、株式を公正な価格で買い取ることを請求できる権利。会社法116条、469条等参照)も、株主自身のためだけの権利ですから自益権に分類されます。

 

これで、自益権についてざぁ~っと概観できたように思います。

 

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(もう一歩前へ)

 

せっかくですので、会社法105条を見ておきましょう。とても重要な条文です。

 

第105条

1項  株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。

 1号  剰余金の配当を受ける権利

 2号  残余財産の分配を受ける権利

 3号  株主総会における議決権

2項  株主に前項第一号及び第二号に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しない。

 

105条1項の1号と2号が、自益権の中でも最も重要な二つの権利でしたね?

3号の議決権は、共益権の中でも最も重要な権利です。ただし、これは別途共益権の記事で取り上げましょう。

今回のコーナーでもう少しだけ掘り下げようとしているのは、105条1項1号の剰余金の配当を受ける権利です。

 

どこかの会社の株主になられた事のある方なら分かると思うのですが、この権利って変な権利じゃありませんか?

剰余金の配当を受ける権利といっても、株主からアクションを起こして、今期の業績すごく良かったから内部留保に回さずに配当寄こせ!と請求できるわけではないのです。

会社の経営陣が配当するぞって決め、株主総会の決議(一定の場合には取締役会の決議)で配当に関する事項を決議して初めて、株主に「決議の内容に従った分の配当寄こせ!」と請求できる具体的な権利が生まれるのです(会社法454条、459条)。

 

もちろん、だからといって、株主としては、配当というインカムゲインが仮に得られなくても、内部留保に回る事によってキャピタルゲインが得られる訳ですから、株主が損をしているというお話ではありません。(インカムゲインを得るかキャピタルゲインを得るかについての、その局面局面における選択権が無いのですから、短期的には損をする可能性があると表現する事も可能かもしれませんが。)

そうではなくて、105条1項1号の剰余金の配当を受ける権利というのは、(具体的な配当の決議が無い限り)会社に請求できる訳でもない、名ばかりのふわふわした権利だという事が言いたかったのです。

この剰余金の配当を求める権利の、ふわふわした権利である、という特徴を、難しい言葉で言うと、権利内容の未確定性を有する、と表現されています。

大切な特徴ですので、是非覚えておいてくださいね。

以上で終わりますね。

刑法マンガ記事公開完了です(3/8)

 

刑法マンガ記事は、今まで公開した計10記事で公開完了いたしました!!

本当は、「遡及禁止論」、「概括的故意」、「被害者の素因」等もう少しマニアックなテーマも取り扱い可能だなぁとは思っていたのですが、刑法初心者を対象としていたはずのコーナーでそんなテーマ取り上げてどうするんだ?という疑問が自分の中で強くなり、取り扱いをやめました。

というわけで、厨二病棟様のマンガを利用してのマンガ記事は以上になります。

 

厨二病棟様、マンガコンテンツの利用許諾を頂きまして本当にありがとうございました!

既に本日、メールにて直接御礼申し上げましたが、改めてこの場でも御礼申し上げます。

あと、カミガミエビデイたまに拝見しております!超神様が好きです!

 

さてはて、現在、色々着手しております。

宅建を題材とした新HP・アプリ・音声作品制作の下準備作業を一歩一歩進めておりますが、

「憲法☆日和」の条文音声化も着々と進行させて頂いております。

条文音声化は、4月の上旬には完成しそうなので、次はこれを宣伝するtwitterのbotでも作ってみようかなぁと思ったりしております。

 

本HPの更新は、主として会社法マンガ記事の更新がしばらく続くと思われます。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

正当防衛とは(3/3)

 

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(マンガ: 厨二病棟 様)

 

【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】

 

それでは、「正当防衛」の解説をしますね。

前半で、「正当防衛」について、基本的な内容をお伝えした上で、

後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)は、「正当防衛」となるのか、という観点から解説します。

 

正当防衛については、おそらく皆さんご存知でしょう。

悪い人の攻撃に対して、身を守るために反撃する行為は違法な行為じゃないって感じですよね。「ヤらなきゃヤられる!だったらヤるしかねぇだろ!」ってやつです。その認識でオッケーです。

刑法36条1項に載っていますので、一応見ておきますか。

 

第36条

1項  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 

誰かが急にあなたに殴りかかってきました。

一方的に数発殴られた後、とっさに地面に落ちていた握りこぶしサイズの石をつかみます。

顔を狙っても外れる可能性が高いので、的が大きい相手の腹に!

石は相手の脇腹に命中し、相手が痛みで動きを止めた隙に大声で警察を呼びながらあなたは逃げました。

 

さて、以上のような状況を想像してみます。

あなたも相手もおそらくケガをしているでしょう。

そうすると相手の行為は、傷害罪となることは分かりますよね?

(分からない方は、コチラの記事をご覧ください。)

しかし、あなたの行為も素直に考えれば傷害罪になりそうであることは分かりますでしょうか?

だって、あなたも石を投げつけて相手を攻撃していますし、相手はケガをしちゃっていますよね?

 

ですが、悪いのは相手なのに、こんな場合にあなたが犯罪者となるのはオカシイです。

そこで、「正当防衛」という規定があるのです。条文に当てはめて考えてみましょう。

 

誰かが急にあなたに殴りかかってきた状況こそ、「急迫不正の侵害」状況です。

そして、あなたは自分自身の生命・身体という重要な「自己の権利」を「防衛するため」、「やむを得ずに」石を投げつけました。

完全に36条1項に書いてあることに当てはまりますよね?

ですので、あなたの行為は傷害罪になりそうでしたが、正当防衛行為として「罰しない」事とされるのです。

 

正当防衛の基礎知識は以上です。

なお、正当防衛と似た概念に緊急避難というものもあります。

この二つの概念の比較・説明は、既にコチラの記事で行っておりますので、併せてご参照くださいませ。

 

CMコーナーです。

ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。

https://itunes.apple.com/jp/album/fa-lu-yong-yuzemi/id858331309

全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。

 

では、後半参りましょう。

前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。

裁判官になったかのような気分で読み進めてください。

 

今回、テロみちゃん(金髪の女の子)は、サドみちゃんを倒して学校の支配者になろうと点火状態のダイナマイトを片手に持っています。投げつける気満々でした。

点火状態のダイナマイトを手に持ちながら窓を開けることで、ターゲット(サドみちゃん)との間の物理的障害を無くした時点(=要は、1コマめの段階)で、おそらくテロみちゃんに殺人未遂罪が成立しますが、まぁ本題ではありませんので脇に置いておきましょう。

 

分析の対象は、サドみちゃんが、テロみちゃんのダイナマイトを打ち抜いてテロみちゃんをやっつけた行為です。

この行為も、殺人未遂罪になりそうな行為です

(未遂なのは、今後もテロみちゃんは元気に登場するからです。)

 

しかし、「正当防衛」に当たるのであれば、「罰しない」として無罪となりますので、「正当防衛」になるかを検討しましょう。

刑法36条1項をもう一度載せておきます。

 

第36条

1項  急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

 

テロみちゃんが急にガラッと現れ、ダイナマイトを投げつけようとしたのは、どう考えても「急迫不正の侵害」です。

そして、サドみちゃんは最強設定ですが、体が通常人よりも丈夫という描写は私の知る限りございませんので、ダイナマイトから身体を守る必要があるのは一般人と変わりません。

ですので、自分の生命・身体という「自己の権利を防衛するため」、「やむを得ずにした」と評価できます。

 

よって、今回のサドみちゃんの行為は、正当防衛であるため無罪ということになります。

 

(法学部生向けの補足です。更なる細かい議論は可能ですが、正当防衛が成立するという結論は動かないでしょう。例えば、サドみちゃんが防衛にとどまらず攻撃の意思を有している可能性はありますが、防衛の意思必要説に立ったとしても、積極的加害意思がない限り、攻撃の意思を併有していたとしても防衛の意思の存在は肯定されます。そして今回の事例で積極的加害意思の存在を基礎づける事情はありません。また、サドみちゃんとテロみちゃんには明らかに力の差がありますが、そこから今回の行為が「やむを得ずにした」とは言えず(質的過剰として)過剰防衛だとするのも無理があります。お互いの武器は、近接距離での点火状態のダイナマイトと銃であり、武器として対等と評価すべきだと思います。)

 

 

脅迫罪とは(3/2)

 

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(マンガ: 厨二病棟 様)

 

【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】

 

それでは、「脅迫罪」の解説をしますね。

前半で、「脅迫罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、

後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、「脅迫罪」が成立するのか、という観点から解説します。

 

脅迫罪というのは、ホントそのままですが、人を脅すことによって成立する犯罪です。

脅迫罪が載っている刑法第222条を見てみましょう。

 

第222条

1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

例えば、「次見かけたらぶん殴るからな!」とか、「万引きした事を会社に言われたくなかったら分かりますよね?」的な行為です。

「次見かけたらぶん殴るからな!」というのは、通常は、「身体」「に対し害を加える旨を告知して」いますし、「万引きした事を会社に言われたくなかったら分かりますよね?」というのは、「名誉」「に対し害を加える旨を告知して」います

これらの行為が、「脅迫」行為なのです。

 

なお、この条文にいう(「脅迫罪」の対象となる)「脅迫」は、一般人を怖がらせることができるレベルのものをいいます。

例えば喧嘩に負けた後に、半泣きで「次見かけたらぶん殴る!」と言った場合や、友人同士が冗談めかして「次会ったらぶん殴るからな!」と言った場合を想像してみると、このような状況における「次会ったらぶん殴る!」という言葉では、フツーの人は、全くビビりませんので、ヤバさレベルが足りず、「脅迫」には該当しません。

つまり、誰でもフツーは怖がるよ、ってレベルじゃないと、「脅迫罪」として犯罪となる「脅迫」には当たりませんので、この点は注意して下さいね。

そして、そのレベルに達しているかどうかは、告知された内容や、お互いの身長、性別、年齢、周囲の状況など、様々な要素を踏まえて、個々の事例ごとに判断されるのです。

 

CMコーナーです。

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では、後半参りましょう。

前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。

裁判官になったかのような気分で読み進めてください。

 

もう一度、刑法222条を載せておきますね。

 

第222条

1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

 

サドみちゃんの「せんせいはなんでしぬの?」発言は、「生命」「に対し害を加える旨を告知して」いると解釈することができるでしょうか。

また、この発言は、誰でもフツーは怖がるレベルの「脅迫」でしょうか。

 

では、「なんで死ぬの?」という発言が、「脅迫」になりうるのか考えてみましょう。

この問題を考えるにあたって参考となる事件があります。

2つの派閥が抗争を広げている地域がありました。A派とB派としましょうか。このうち、A派の人間が、B派の中心人物の家に、今まで出火したこともないのに、「出火お見舞い申し上げます」と記載した葉書を郵送しました。

裁判所(最判昭和35・3・18)は、このA派の人間が葉書を出した行為を「脅迫」にあたる、としました。

「火つけるぞ」と直接書かれていないものの、その含意を読み取り、「生命、身体」あるいは「財産」「に対し害を加える旨を告知して」いると判断したのです。

そして、抗争状態であるという背景をも併せて考えると、それは一般人であれば、誰でも薄気味悪くなって怖くなるレベルですので、「脅迫」にあたるとされたのです。

 

この事件と、今回のマンガは、似ている部分もあれば異なる部分もあります。

 

似ている部分は、サドみちゃんの「なんで死ぬの?」という発言は、(上記事例における葉書が、純粋に出火をお見舞いするものではなかったのと同様、)純粋な死への疑問ではなく、先生を精神的に圧迫するための手段である、ということです。

これは、法律学がどうのというより、このマンガの文脈と申しますか、サドみちゃんのキャラから当然に導かれます。同じ発言を二度繰り返した事からも明らかですよね。

ここから、サドみちゃんの「せんせいはなんでしぬの?」発言は、「生命」「に対し害を加える旨を告知して」いると一応は解釈することができそうです。

(このように解釈できない、と考えることも可能です。そのように考える場合は、以下の検討を経ることなく脅迫罪不成立です。)

 

異なる部分は、これまたサドみちゃんのキャラから導かれる、法律学から程遠いお話なのですが、(トモみちゃんというキャラが別の4コマでサドみちゃんを評している通り)サドみちゃんは、基本的に構ってちゃんなので、発言が構って欲しい一心で出ている事を先生も重々承知しているであろうことです。それをも踏まえると、「脅迫」レベルには達していないと評価できることになります。

 

以上のような点を総合的に評価すれば、「脅迫」レベルには達しておらず、「脅迫罪」は成立しない可能性が高いと思われます。

 

まぁ、こんな感じで、マンガのキャラが対象なので、少し議論の精密さには欠けましたが、脅迫罪とはどういうものであり、どんな思考の手順を踏んで、とある行為が脅迫罪に該当するか判断するのかは分かって頂けたのではないでしょうか。

 

逮捕罪とは(3/1)

 

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(マンガ: 厨二病棟 様)

 

【難易度 ★★☆ : 基本的には誰でも読んで頂けますが、少し難しい部分があるかもです】

 

それでは、「逮捕罪」の解説をしますね。

前半で、「逮捕罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、

後半で、今回の4コマのような事例において、テロみちゃん(金髪の女の子)に、「逮捕罪」が成立するのか、という観点から解説します。

今回は、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)ではなく、テロみちゃん(金髪の女の子)の罪責を検討いたしますので、注意してくださいね。

 

まず、逮捕罪を初めて学習するにあたって、一番大事なのは、『「逮捕」って警察官が犯人を捕まえるときにやるヤツだよね、ほら、あの手錠かけるヤツ』という固定観念を一度取っ払ってしまうことです

「逮捕」という行為は、警官だけがやる行為ではありません。

 

私があなたを羽交い絞めにしました。

ならば、私はあなたを「逮捕」しています。

 

柔道の試合で、田中選手が、前田選手に対して袈裟固めで、一本を取りました。

ならば、田中選手は、前田選手を「逮捕」していたのです。

 

このように、「逮捕」という行為は、誰かが誰かを直接拘束して、身体の自由を(一定時間継続して)奪う行為を指します。自分の身体を使って、相手の身体を動けなくすれば、その行為を「逮捕」と呼ぶのです。

「逮捕罪」という罪がある理由が分かって頂けましたよね?

人の身体の自由を奪うのは、基本的には良くない行為ですから、犯罪とされているのです。

 

「逮捕罪」について規定しております刑法220条を載せておきます。

 

第220条  不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

 

「逮捕」が悪い行為とされていますよね?

「監禁」と同レベルに悪い行為なのです。

「逮捕」は、直接的に相手の身体の自由を奪う行為でしたが、

「監禁」は、間接的に相手の身体の自由を奪う行為です。

ドラマとかでよく見る誘拐の現場を想像してください。

被害者を羽交い絞めにして車に連れ込むシーンが、「逮捕」している状況で、その後アジトの部屋に鍵をかけて閉じ込めるシーンが、「監禁」している状況なのです。

 

では、警官の行う正式な「逮捕」や、柔道の試合で行われている「逮捕」は、何故、「逮捕罪」とならないのでしょうか。

これは、簡単に言えば「不法」ではないから(より正確には違法性がないから)です。

柔道の試合で行われる「逮捕」は、競技の一環として当然生じ得る正当な行為として社会的に容認されておりますので、違法性がない「逮捕」行為なのです。

また、警官の逮捕も、憲法及び刑事訴訟法等に、きちんとした手続を踏んだのなら逮捕してもいいよ、と書いてありますので、法が許しているのですから当然違法性がないのです。

 

こんな感じです。

「逮捕」は誰にでもなしうる悪い行為なのだ、ということ、及び、警官の「逮捕」は例外的に許されているのだ、ということを押さえて頂けますと、「逮捕罪」という概念は理解できたことになります。

 

CMコーナーです。

ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。

https://itunes.apple.com/jp/album/fa-lu-yong-yuzemi/id858331309

全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。

 

では、後半参りましょう。

前半の内容を踏まえて、テロみちゃん(金髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。

裁判官になったかのような気分で読み進めてください。

 

もう一度、刑法220条を載せておきます。

 

第220条  不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

 

そんなに難しくありませんね?

トモみちゃん(茶髪の女の子)の同意なく、トモみちゃんの首に自らの右腕を回し、トモみちゃんの身体の自由を(一定時間継続して奪っておりますので、テロみちゃんの行為は、「逮捕」です。

また、この行為を正当化する理由がありませんので、この「逮捕」行為は「不法」です。

よって、テロみちゃんの行為は、「逮捕罪」に該当することになります。

 

なお、友達同士がじゃれあって、例えばプロレスごっこをやっていたとしても、それは「逮捕」行為ではありますが、「逮捕罪」が成立することは通常ありえません。

そのような行為は、社会的に許容されていると考えられますし、フツーは相手の同意があり、違法性はないからです。

今回のテロみちゃん達の行為を、子供同士の誘拐ごっこと仮に見るのであれば、「逮捕罪」は成立しませんが、それはこのマンガの見方として誤りである気がいたします。

 

以上が、今回のテーマ「逮捕罪」に関係するお話でした。

 

 

ちなみに、以下は余談ですが、テロみちゃんが、トモみちゃんの「生命」「に対し」「害を加える旨を告知して」、サドみちゃんに「降伏しろ」という内容の「義務のないこと」を行わせようとしていますが、

テロみちゃんの今回の行為に強要罪って成立すると思います?

強要罪についてまだ学習されていない方は、コチラをご覧ください。

 

刑法223条全文を載せておきますので、考えてみてください。

 

第223条

1項 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。

2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。

3項 前二項の罪の未遂は、罰する。

 

答えは、強要罪は成立しません

 

サドみちゃんが「いいとも」って言っているからじゃないですよ?

「人に義務のないことを行わせ」る(=今回で言えばサドみちゃんを降伏させる)ことに失敗した場合でも、それをやろうとして脅迫行為を開始した時点で、「未遂」となります

 

今回は、その未遂すら成立しないのです。

その理由は、サドみちゃんとトモみちゃんは、親族関係にはないから、です。

 

強要罪というのは、その人自身か、その人の親族を脅して、その人に無理矢理何かをやらせる犯罪です。

今回のケースでいえば、サドみちゃん自身か、サドみちゃんの親族を脅して、サドみちゃんに降伏させようとする行為が、強要罪です。

その人の友達を脅して、その人に何かをさせようとしても強要罪にはなりません。

刑法222条は、そのような場合に「強要罪」になりますよ、とは書いていないからです。

したがって、テロみちゃんに、サドみちゃんに対する強要罪は成立しません。トモみちゃんに対する脅迫罪は成立しますけどね。

 

この結論に違和感を覚えられる方もおられるかもしれません。

なんで、「親族」と「友達」を区別するんだよ、と。その人の親族を脅した場合は罪なのに、その人の友達を脅しても罪にならないのかよ、と。もっともな考え方です。正論です。

ですが、事件を処理する裁判官は、そのように考える訳にはいかないのです。

 

詳しくは、「(被告人に不利な形での)類推解釈禁止の原則」「罪刑法定主義」でググってみてください。

紙幅の関係上、ここで説明することはできませんが、刑法を学習するにあたって、一番重要な概念が、この「罪刑法定主義」です。

 

では、余談が長くなり過ぎましたので、この辺で。

 

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