(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)
今回は、のれんですか……。
のれんは、主に会計学の領域ですから深入りせずに基礎を押さえましょう。
日常用語の「のれん」って分かりますよね?
軒先に張って日よけに使うための布です。
お店の入口でよく見かけます。店の名前とかが書かれていて、手でどけなきゃ、髪の毛や顔にファサってなっちゃう布です。
この「のれん」をくぐり抜けて、「いらっしゃいませ!何名様でしょうか」までが飲食店あるあるですね。
この「のれん」には、店の名前が書かれていると申しました。
今日では、真っ先に目に入る店の「看板」であり、その店を象徴するものが「のれん」だという認識が定着しています。
ここから転じて、「店の信用力、ブランド力」をも意味するものとされました。
この意味の「のれん」を法律学的に定義すると、得意先との関係や主人の人柄など客観的・個別的には評価できない事実関係、と定義されることになります。(最判昭和51・7・13は、「他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」と表現しています。)
他方、会計学的に定義すれば、もっと簡単です。店の信用などの目に見えない収益力が「のれん」なのです。
この「のれん」も法的保護の対象となります。
具体的には、「のれん」に対する侵害行為についても不法行為責任が生じるのです(大判大正14・11・28)。
「のれん」の会計上の取扱いにつきましても、軽く見ておきましょうか。
商法施行規則第33条第1文を見てみます。
「第33条 のれんは、有償で譲り受け又は吸収分割若しくは合併により取得した場合に限り、貸借対照表の資産の部に計上することができる。」
……とされています。
「のれん」というのは、目に見えない収益力です。
将来的に収益を上げる要素なのですから、本来であれば常に「資産」として計上されるはずです。会社の財務情報を適正に開示するという観点からは、むしろそうすべきです。
しかし、「のれん」というのは、法律学上の定義にもありましたが、客観的・個別的に評価できないです。また、評価の難しい「のれん」を経営者が自分で評価できる制度にしたら、(会計帳簿をごまかしたいというインセンティブは、経営者には常にある訳ですから)恣意的な計上のされ方が常態化するでしょう。上のマンガは、このことを言っています。やや小難しい言葉でいえば、「自己創設のれんの計上禁止」です。
そこで、普段は「のれん」は、簿外の含み資産として、「資産」の部に計上しなくてよいこととなっているのです。
ただ、「有償で譲り受け」る場合や、「合併により取得した場合」のように、「のれん」に客観的に値段が付いた場合には、それを「資産」として計上できることとされているのです。
これが、法律学及び会計学の観点から見た「のれん」の基礎中の基礎知識です。
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(もう一歩前へ)
以下は、細かい話なので、あまり見て頂く必要もないかもです。
一言で言えば、上で「のれん」に客観的に値段が付いた場合、と申しましたが、どうやって値段をつけるの?というお話です。
そこで、会社買収における「のれん」の扱いをもう少しだけ見てみます。
吸収合併を考えてみましょう。
食べる会社(合併存続会社)が、食べられる会社(合併消滅会社)を食べるのは、食べられる会社がおいしいからです。
その「おいしさ」の物差しは、「将来の収益力」です。比喩が過ぎますかね(笑)
吸収合併は、食べられる会社の「現在の価値」だけではなく、食べられる会社の「将来の収益力」をも買い取るものです。つまり、食べられる会社に支払われる購入代金には、「のれん」が含まれているのです。
そして、この「のれん」が含まれた購入代金から、食べられた会社の現在の価値を示す「純資産相当額」(= 食べられた会社が有していた全「資産」 - 引き継ぐべき全「負債」)を引きますと、数値化された「のれん」が出てきますでしょう。
購入代金(「純資産相当額」+「のれん」) - 「純資産相当額」 = 「のれん」
・・・という事です。超単純化すれば、という話ですけれどね。この「のれん」は正の場合もあれば負の場合もあります。
このように、会社買収の場合には、客観的に数値が出てきますので、恣意の入る余地が少ないため、「のれん」は(「連結調整勘定」や「営業権」という名の勘定科目として)「資産」に計上されるのです。
(※ ちょ~細かい補足です。以上のような「のれん」の捉え方を「差額説」と言います。国際的にはこの考え方が一般的ですし、日本においても現在はこの考え方が取られています(会社計算規則13条、企業結合会計基準等参照)。しかし、かつては「超過利益説」という考え方も有力でした。この考え方は、「のれん」は、(その店が実際に上げた利益から、その店の事業資産であれば通常上げたであろう利益を引くことで算出する)独自に数値化できる「超過収益力」と捉えます。上記最高裁判例(最判昭和51・7・13)の「のれん」の「他の企業を上回る企業収益を獲得することができる無形の財産的価値を有する事実関係」という定義は、実は「超過利益説」に立脚した定義だったのです。ただ、今の国際的な潮流及び日本の会計基準は「差額説」ですので、この判例の定義が現在も妥当しているとは考えなくてもよい気がいたします。)
以下は、さらなる余談です。
たいていの会社法の本には、企業結合における会計処理の方法につきまして、パーチェス法と持分プーリング法の二つがあると書いてあります。
パーチェス法は、取得財産を時価で再評価する方式で、持分プーリング法は、評価替えを行わずに、直前の帳簿価額を引き継ぐ方式であると書かれていますよね。
簡単に言い換えるとですね、パーチェス法というのは、食べる(消滅会社を購入する)という発想なのに対し、持分プーリング法は、合体するという発想なのです。
パーチェス法へ一本化するのが世界の潮流だから、持分プーリング法はなるべく使わないというお話も書いてあるはずです。計上方法が二つあれば、経営者の恣意的判断が介在する余地が生まれちゃうので、会計への信用が損なわれるからですね。
このように、パーチェス法一本化が世界の潮流なのですが、日本は少し変わった(まだ遅れている?)制度となっています。
パーチェス法での計上が原則なのですが、対等な者同士の合併で、どっちがどっちを食べたとも評価できない場合には、持分プーリング法を適用することになっています。
そして、実はこの持分プーリング法の発想からは、合併時に「のれん」は出てきません。
どちらがどちらを「購入」した訳でもないからです。二つが一つに合体したのです。
ですので、上述した「のれん」の計算式は、「差額説」を前提にした上で、パーチェス法の発想も前提にしている、ということは理解する必要があるように思います。