(マンガ : まんがで気軽に経営用語 様)
分かり易いマンガでしたね。
うぅん、授権資本制度をちゃんと理解しようと思うと、資本制度を理解する必要があります。一から説明すると長くなりそうですが……頑張ります。
構成は、
1、資本制度って?
2、資本の法的性格
3、授権資本制度の登場
4、現在の授権資本制度の概要
・・・でいきましょうか。
1、資本制度って?
株主は、株式会社制度の下では、既に投下した分のお金を失っちゃうかも、という限度でのみお金を失う可能性があるのでしたよね?
これを間接有限責任と言いました。(間接有限責任の詳しい解説は、コチラをご覧ください。)
社員たる株主が間接有限責任しか負わないということは、会社と取引する人は、その会社がヤバくなった時に株主の個人資産からお金を回収できないってことです。
じゃあ、会社と取引する人は、会社からお金を回収する他はありませんね。
とはいえ、社外から会社の内部事情を詳しく知る事など出来ないのですから、その会社がどれくらいお金を持っているか分かりません。
そんなことでは、合理的な方であれば、そもそもそんな「株式会社という存在」とは取引しません。いざとなったらどの程度被害を被るか(債権回収を諦めなければならないのか)のリスク予測が出来ないからです。
そこで、取引相手のリスク予測を可能にするために採られた方策として、「会社がその財産を確保すべき一定の基準額(目標額)」たる「資本金」を設定し、貸借対照表及び登記にて公示すべきことにしたのです(会社法440条、911条3項5号)。そして、公示した「資本金」額を何とか会社に確保させようとする資本充実・維持の原則等の法ルールを採用しました。
これにより、会社債権者は、その会社にどのくらいのお金があるのかについて、一定の指標を得ることになりますので、ある程度のリスク予測は可能になったのです。
これが現在の資本制度の基本的な考え方です。
(「金庫株」の記事でもここら辺につきましては、同じ視点で少し言葉を変えて説明させて頂いておりますので、併せてご参照ください。資本制度を支える資本充実・維持の原則に関する簡単な説明もこちらの記事で行っております。)
2、資本の法的性格
さて、「資本」ってそもそも何でしょう?
かつて(1950年の商法改正前)は、「出資額」(=1株の価額×発行済株式総数)を意味していました。出資者たる株主が現在会社に入れているお金の総額が「資本」(=「資本金」)というとても分かり易い概念だったのです。
ここから、「資本」の価額の変更は、株式の数の変更を意味するため、株主たちが自分達で判断すべきこととされていました。具体的には、資本は定款の記載事項となっており、増資をするためには定款を変更する必要がありますから、株主総会の特別決議が必要だったのです。単純な理屈ですから、とても分かりやすいシステムですよね。
しかし、そう単純にはいきませんでした。経営者側の視点から考えてみてください。
株式を発行することは、(会社防衛の場合を除けば、)何も構成員を増やすことを目的としてやるのではありません。
会社の事業資金を調達するために通常は発行します。
そして、資金調達の中でも、(自己資本として)返済の必要のない株式発行は、とても重要な方法です。
ですが、株式の発行のたびに、毎回株主総会の特別決議が必要で、時間も費用もかかるというのでは、とても経営者の資金繰りはやっていけない。こう考えられたのです。
そこで、1950年の改正商法は、資本を定款の記載事項とするのをやめ、より経営者の資金繰りに配慮したルール作りに舵を切りました。そこで、登場したのが今回のテーマである「授権資本制度」です。
(その結果、「資本」概念は変更を余儀なくされ、法改正のたびに、立法者が機動的な資金調達の必要性にどんどん配慮し、「株式」とはどんどん関係の薄い概念となりました。
今では、「資本金」概念には1、で述べたように定義がありますが、「資本」概念に定義はなく、多義的に用いられています。
「株主の投下資本」といえば、「お金」(より正確には、「将来利益を生み出す源泉」)というだけの意味ですし、計算の分野では、「資本」は「純資産(資産-負債)」を意味することもあります。)
3、授権資本制度の登場
それでは、やっと本題ですね。
株式の発行は、「社員」たる地位の売買なので、基本的には社員たる株主が(株主総会において)自分達で判断すべきものです。特に、第三者に割当てられる場合は、支配率や株式の価値を左右するため、既存の株主は大きな利害関係を有しています。
他方で、株式の発行は資金調達の手段なので、時間がかかる株主総会を経ることなく、スピーディーに結論を得ることができる取締役会で決定したいという機動的な資金調達の要請も軽視できません。経営者による機動的な資金調達ができなくて困るのは、会社の「残余権者」たる株主自身です。
この二つの対立する要請を調整する制度として、1950年改正商法は、授権資本制度を導入しました。
大きな考え方としては、資本を定款の記載事項とするのを止める代わりに、発行可能株式総数(株式をどのくらいまでなら発行することができますよ、という数)を定款に定め、その範囲内でなら、(株主総会の決議を経ずとも)取締役会の決議だけで株式を発行出来る、という制度にしたのです。
取締役会決議での株式発行を可能にすることで、機動的な資金調達の要請に配慮するとともに、「発行可能株式総数」という上限を設けることで、既存株主の利益にも配慮しています。
この制度は、「定款」により、「株式の発行権限」が「取締役会」に「授権」されていると見ることが可能なため、授権資本制度と言うのです。
なお、今では上述のように「株式」と「資本」の概念は、関連性が薄くなっており、もはや「資本」が「授権」されていると見ることはできませんので、本当は「授権株式発行制度」とでも言うべきなのでしょうが、用語法として定着しているため、「授権資本制度」と現在でも言われています。
以上が、授権資本制度の大まかな理解でした。
後半では、現在の授権資本制度の概要をお伝えしたいと思います。
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4、現在の授権資本制度の概要
では、大まかな現在の会社法における授権資本制度を見ていきましょう。
まず、おさらいです。
授権資本制度は、ざっくり言えば、発行可能株式総数(株式をどのくらいまでなら発行することができますよ、という数)を定款に定め、その範囲内でなら、(株主総会の決議を経ずとも)取締役会の決議だけで株式を発行出来る、という制度でした。
授権資本制度を採用している事を示す会社法上の条文を指摘するとすれば、
・37条1項 発起設立による会社設立時、会社が成立するまでに「発行可能株式総数」を定款に定めるべし、という条文
・98条 募集設立による会社設立時、会社が成立するまでに「発行可能株式総数」を定款に定めるべし、という条文
・113条1項 定款を変更して「発行可能株式総数」の定めを廃止しちゃダメ、という条文
・199条1項、2項 株式の発行は「株主総会」(の特別決議)で行うのが原則だよ、という条文
・200条1項 「株主総会」が(特別)決議によって、株式の発行を「取締役」(「取締役会」)に委任してもいいよ、という条文
・201条1項 公開会社では、株式の発行は「取締役会」がするのが原則に変更するよ、という条文
……以上ですかね。
さて、この「発行可能株式総数」で枠をはめるという発想、このままだと枠としてちゃんと機能しなさそうだ、という事は分かりますでしょうか?
例えば、会社を設立する時点から、「発行可能株式総数」を「1兆株な~!」と子供みたいな事をすればどうなりますか?
事実上、経営者は何不自由なくいくらでも株式を発行できることになります。こんな事が可能であれば、「発行可能株式総数」という枠は、絵に描いた餅なのです。
この問題に対処する為、会社法は「4倍ルール」を採用しています(会社法37条3項、113条3項)。
「常に発行可能株式総数の4分の1以上は、現実に株式を発行しておかなければならない」というルールです。逆に言えば、「常に現在発行している株式の4倍までに発行可能株式総数は抑えなくてはならない」ということですね。
こうすることで、「発行可能株式総数」を「1兆株」にしたければ、少なくとも「2500億株」を実際に発行する必要がありますので、そんなことはムリなのです。
また、このようなルールを明示することで、既存株主は、新株発行に伴う自分の支配率の低下が「最大でも4分の1にとどまる」等というリスク分析をすることが可能となります。
例えば、A社は、「発行可能株式総数」が「20株」で、現在「5株」発行しているとします。Bくんはそのうち「1株」もっていますから、支配率は現在20%です。
経営陣が、授権の範囲内で最も多く発行しても、あと「15株」発行することができるだけです。
その15株が他の人に割り当てられたとすると、Bくんは、全「20株」のうち「1株」保有していますので、支配率は5%になります。
このように、経営陣による株式発行の上限が設定されることで、株主は、支配率がどの程度薄まるかの予測を立てることができます。これも「4倍ルール」の効用ですね。
(この「4倍ルール」は公開会社だけのルールです。非公開会社であれば、上述のように基本的には「株主総会」の特別決議によって株式の発行を判断しますので、こんなルール必要ありません。(会社法37条3項ただし書、113条3項ただし書))
だいぶ長くなりましたので、このあたりにしましょうか。
株式の消却・併合時に「4倍ルール」が維持されるか(結論だけいえば、現会社法の下では例外的に維持されない)というお話もしたかったですが、少し細かすぎますよね。
以上です!