(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】
それでは、「脅迫罪」の解説をしますね。
前半で、「脅迫罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、「脅迫罪」が成立するのか、という観点から解説します。
脅迫罪というのは、ホントそのままですが、人を脅すことによって成立する犯罪です。
脅迫罪が載っている刑法第222条を見てみましょう。
第222条
1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
例えば、「次見かけたらぶん殴るからな!」とか、「万引きした事を会社に言われたくなかったら分かりますよね?」的な行為です。
「次見かけたらぶん殴るからな!」というのは、通常は、「身体」「に対し害を加える旨を告知して」いますし、「万引きした事を会社に言われたくなかったら分かりますよね?」というのは、「名誉」「に対し害を加える旨を告知して」います。
これらの行為が、「脅迫」行為なのです。
なお、この条文にいう(「脅迫罪」の対象となる)「脅迫」は、一般人を怖がらせることができるレベルのものをいいます。
例えば喧嘩に負けた後に、半泣きで「次見かけたらぶん殴る!」と言った場合や、友人同士が冗談めかして「次会ったらぶん殴るからな!」と言った場合を想像してみると、このような状況における「次会ったらぶん殴る!」という言葉では、フツーの人は、全くビビりませんので、ヤバさレベルが足りず、「脅迫」には該当しません。
つまり、誰でもフツーは怖がるよ、ってレベルじゃないと、「脅迫罪」として犯罪となる「脅迫」には当たりませんので、この点は注意して下さいね。
そして、そのレベルに達しているかどうかは、告知された内容や、お互いの身長、性別、年齢、周囲の状況など、様々な要素を踏まえて、個々の事例ごとに判断されるのです。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
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では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
もう一度、刑法222条を載せておきますね。
第222条
1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
サドみちゃんの「せんせいはなんでしぬの?」発言は、「生命」「に対し害を加える旨を告知して」いると解釈することができるでしょうか。
また、この発言は、誰でもフツーは怖がるレベルの「脅迫」でしょうか。
では、「なんで死ぬの?」という発言が、「脅迫」になりうるのか考えてみましょう。
この問題を考えるにあたって参考となる事件があります。
2つの派閥が抗争を広げている地域がありました。A派とB派としましょうか。このうち、A派の人間が、B派の中心人物の家に、今まで出火したこともないのに、「出火お見舞い申し上げます」と記載した葉書を郵送しました。
裁判所(最判昭和35・3・18)は、このA派の人間が葉書を出した行為を「脅迫」にあたる、としました。
「火つけるぞ」と直接書かれていないものの、その含意を読み取り、「生命、身体」あるいは「財産」「に対し害を加える旨を告知して」いると判断したのです。
そして、抗争状態であるという背景をも併せて考えると、それは一般人であれば、誰でも薄気味悪くなって怖くなるレベルですので、「脅迫」にあたるとされたのです。
この事件と、今回のマンガは、似ている部分もあれば異なる部分もあります。
似ている部分は、サドみちゃんの「なんで死ぬの?」という発言は、(上記事例における葉書が、純粋に出火をお見舞いするものではなかったのと同様、)純粋な死への疑問ではなく、先生を精神的に圧迫するための手段である、ということです。
これは、法律学がどうのというより、このマンガの文脈と申しますか、サドみちゃんのキャラから当然に導かれます。同じ発言を二度繰り返した事からも明らかですよね。
ここから、サドみちゃんの「せんせいはなんでしぬの?」発言は、「生命」「に対し害を加える旨を告知して」いると一応は解釈することができそうです。
(このように解釈できない、と考えることも可能です。そのように考える場合は、以下の検討を経ることなく脅迫罪不成立です。)
異なる部分は、これまたサドみちゃんのキャラから導かれる、法律学から程遠いお話なのですが、(トモみちゃんというキャラが別の4コマでサドみちゃんを評している通り)サドみちゃんは、基本的に構ってちゃんなので、発言が構って欲しい一心で出ている事を先生も重々承知しているであろうことです。それをも踏まえると、「脅迫」レベルには達していないと評価できることになります。
以上のような点を総合的に評価すれば、「脅迫」レベルには達しておらず、「脅迫罪」は成立しない可能性が高いと思われます。
まぁ、こんな感じで、マンガのキャラが対象なので、少し議論の精密さには欠けましたが、脅迫罪とはどういうものであり、どんな思考の手順を踏んで、とある行為が脅迫罪に該当するか判断するのかは分かって頂けたのではないでしょうか。