(マンガ: 厨二病棟 様)
【難易度 ★☆☆ : 誰でも読んで頂けます】
それでは、「公務執行妨害罪」、「業務妨害罪」の解説をしますね。
前半で、「公務執行妨害罪」、「業務妨害罪」について、基本的な内容をお伝えした上で、
後半で、今回の4コマのような事例において、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、「公務執行妨害罪」、「業務妨害罪」が成立するのか、という観点から解説します。
公務執行妨害罪は、公務員のお仕事を妨害する罪です。警察官に対する抵抗行為が典型ですよね。なんちゃら警察24時という番組で良くやってます。
パトカーを蹴っ飛ばしたり、警官をどついたり、被疑者の行為が一線を超えた場合に、急にそれまで穏やかだった警官が豹変し、被疑者に対して怒鳴りながら、「○時○分、公務執行妨害で現行犯逮捕!」と言っているアレです。
ただ、警察官に対する妨害だけが、公務執行妨害罪ではもちろんありません。
警察官という職種が、色々な人々と関わる仕事であり、妨害を受けやすいから目立っているだけで、「公務員」の仕事を妨害すれば、それは公務執行妨害罪です。
では、公務執行妨害罪の条文である刑法95条1項と、公務員を定義している刑法7条1項を見てみましょうか。
第95条
1項 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第7条
1項 この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
・・・まぁ、こんな感じです。「公務員」とは、というこの定義を正確に覚えて頂く必要など全くありません。皆さんが一般的にイメージする「公務員」です。
先程より少しだけ正確に言えば、「公務員」に対して「暴行又は脅迫」することにより、職務執行の邪魔をすれば、公務執行妨害罪となるのです。
では、次に(偽計)業務妨害罪が載っている刑法233条を見てみましょう。
第233条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
平たく言えば、不特定多数にウソをばらまいたり(=「虚偽の風説を流布」)、特定人を騙したり(=「偽計」)して、「業務を妨害」する犯罪です。
ちなみに、これは日本語の問題ですが、233条の読み方が分かるでしょうか。
この条文は、大きく4パターンについて規定しています。
1、虚偽の風説を流布し、人の信用を毀損する行為 ⇒ 信用毀損罪
2、偽計を用いて、人の信用を毀損する行為 ⇒ 信用毀損罪
3、虚偽の風説を流布し、業務を妨害する行為 ⇒ 業務妨害罪
4、偽計を用いて、業務を妨害する行為 ⇒ 業務妨害罪
・・・このうち、3と4を今回取り扱っています。釈迦に説法でしたかね。
さて、「公務」も基本的には「業務」ですから、「公務」を妨害する行為は、(公務執行妨害罪のみならず)業務妨害罪にもなり得るのです。
※ 法学部生向けの補足です。「公務」が「業務」に該当するか否かについて、判例は、強制力を行使する権力的公務と、それ以外の公務に分けて考えています。「権力的公務」は、「権力」を背景としており、妨害に対する耐久力を有しています。そのため、わざわざ業務妨害罪で保護する必要はない、と考えられています。しかし、「それ以外の公務」には、そのような耐久力はないため、業務妨害罪によって保護する必要がある、と考えられているのです。
つまり、「公務」の中でも「権力的公務以外の公務」が、業務妨害罪にいう「業務」なのです。
以上です。
公務執行妨害罪及び業務妨害罪の概要と、「公務」に対する妨害であれば両罪(観念上は)成立する可能性があるぞ、ということが分かって頂けたのではないでしょうか。
CMコーナーです。
ニュースでよく聞く刑法用語や民法用語について、キャラが解説している音声作品をiTunesにて公開しております。
https://itunes.apple.com/jp/album/fa-lu-yong-yuzemi/id858331309
全ファイルにつき、最初の30秒試聴できますので、上記リンク先より、一度お試し下さいませ。
では、後半参りましょう。
前半の内容を踏まえて、サドみちゃん(ピンク髪の女の子)に、犯罪が成立するのかどうか判断していきます。
裁判官になったかのような気分で読み進めてください。
まず、サドみちゃんが、実際に爆弾を仕掛けたのかどうかによって、大きく変わります。
どっちでしょうねぇ。サドみちゃんなら仕掛けていてもおかしくないですねぇ。
仮に、爆弾を仕掛けていたとしましょう。
そしたら、もう公務執行妨害だ業務妨害だ、というような小さい話ではありません。
激発物破裂罪(刑法117条1項)です。
第117条
1項 火薬、ボイラーその他の激発すべき物を破裂させて、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を損壊した者は、放火の例による。第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を損壊し、よって公共の危険を生じさせた者も、同様とする。
・・・この条文を読んでも全然分からないと思います。
この条文は、爆弾を爆発させる行為は、放火と同じだけ悪い行為だから、放火罪と同じ基準で処罰するね、と書いてあります。
そして、結論だけ申しますと、サドみちゃんの行為は、現住建造物等放火罪(刑法108条)と同等の罪ですから、「死刑又は無期若しくは五年以上の懲役」ということになります。
公務執行妨害罪や業務執行妨害罪とはレベルが違います。
次に、仕掛けていなかったとします。
マンガ的には、こっちの可能性の方が小さいですが、一応検討しましょう。
公務執行妨害罪は成立するでしょうか。
「爆弾を仕掛けた」というのは、授業を妨害するのに十分な「脅迫」です。
では、この「授業」は「公務」でしょうか。
すなわち、この先生は「公務員」でしょうか。
どちらの可能性もありえます。
私立の先生なら、「公務員」ではありませんし、市立の先生等であれば、「公務員」です。
ですので、ここでさらに場合分けです。
この先生が、「公務員」であれば、授業は「公務」となり、公務執行妨害罪は成立します。
「公務員」でなければ、公務執行妨害罪は成立しません。
次に、業務妨害罪は成立するでしょうか。
これは、先生が「公務員」であろうがなかろうが、成立します。
「爆弾を仕掛けた」という嘘の情報を先生に対して伝え(=「偽計」)、先生の授業という「業務」を「妨害」しているからです。
したがって、結論としては、
1、爆弾を本当に仕掛けた場合、主として激発物破裂罪が成立
2、爆弾を本当に仕掛けていなかった場合で、先生が「公務員」ならば、公務執行妨害罪及び業務妨害罪が成立(ただし、観念的競合)
3、爆弾を本当に仕掛けていなかった場合で、先生が「公務員」ではないならば、業務執行妨害罪のみ成立
・・・という感じですかね。
実は、「2、」の方が「3、」より成立する犯罪は1つ多いですが、必ずしも「2、」の方が「3、」よりも重い刑罰を受ける訳ではありません。
そのあたりを説明するには、「観念的競合」や「法定刑・処断刑・宣告刑」といった概念を説明する必要があり、紙幅が足りませんので、気になる方は、この単語で検索してみてください。