問題:(完全オリジナル問題)AはBの過失による交通事故で負傷した。そのため、AはBに対して1000万円の損害賠償を求める訴訟を提起し、全部勝訴判決を得た。ところが、勝訴判決を得てから5年後、事件直後においては医学的にも予見が困難であったような後遺症が発生し、その治療にさらにAは2000万円を負担することになった。Aは、後遺症発生から3か月が経過した現在において、この2000万円についても改めてBに請求する事はできるだろうか。理由と結論を40字程度で記述しなさい。
(下記の問題解説の文章に選択肢が含まれているので、正しいと思う選択肢を選んでいってください。アプリでタッチすれば次々と文章が流れていく形式を想定しておりましたので、選択肢の直後に解答がある場合もございますが、それはご了承ください。)
民法724条前段によれば、不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から
(①3年間②2年間③5年間④10年間)
行使しないときは、時効によって消滅すると規定されている。
損害の発生について、「当初の症状における損害」も「後遺症によって生じた損害」も同一の不法行為に起因するものであり、同一の債権であると考えれば、既に債権を行使し、勝訴判決を得ているのに再び行使してよいのかが問題となる。
そうではなく、「当初の症状に基づく損害」と「後遺症によって生じた損害」は別個の債権であると考えれば、後遺症によって生じた損害にのみ着目して消滅時効にかかっていないかを判断すればよいことになる。
この区別がつけられるようになることがまず大事である。便宜上、同一債権となる場合を第一類型、別個の債権となる場合を第二類型と呼ぶ。
判例は、後遺症によって生じた損害を第一類型と第二類型に振り分ける。どのように振り分けるのかというと、
(①後遺損害が重大か否か②後遺損害を当初から予想できたか否か③当初の損害と後遺損害に連続性があるか否か)
を基準にするのである。
すなわち、当初から後遺損害を予想できたのであれば、事後的に後遺症が発生したとしても、その損害は当初の損害の延長線上にあり、損害賠償債権も同一となるが、当初から予想することが困難であれば、その損害は当初の損害とは別個と捉え、別個の債権が発生すると考えるのである。
このように考えることで、被害者救済を図ると共に、加害者に過度な負担をかけないよう調整しているのである。
そして、本問においては、後遺症は医学的にも予見が困難であったわけであるから、第二類型となり、別損害として構成する事になる。そうすると、当初の損害の判決確定後に請求することも可能であるし、時効も別個に進行する事になる。
後遺損害の症状が固定した時が「損害・・・を知った時」にあたる訳であるから、時効は未だ完成していない。よって、Aは2000万円について別個に損害賠償請求できることになる。
ちなみに、ここから先は行政書士試験の範囲を超えた余談であり飛ばしてくれてよい。
この論点は、民事訴訟法上の論点と統一的に理解するとより理解が進む。
民事訴訟法上、後遺損害については、一部請求である明示がなくても一部請求と捉え、残部請求を可能にする見解が多数説であるが、この見解は、そもそも後遺損害も当初の損害と統一的に理解すべきであり、第一類型以外ありえないという前提の下に論理が組み立てられている。
ここから、一律に一部請求として処理する立場は判例の立場とは全く相容れない見解であるということは理解すべきである。判例の立場からも、第一類型においては、既判力を問題とすることになるし、一部請求である事が明示されていれば後遺損害について残部請求が可能であるが、それは一律に一部請求として処理すべきか否かとは全く別の問題であることは容易に分かるはずである。
(解答)
①②
・2問20点。均等配点。