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行政調査権と住居の不可侵(百選124事件)


行政調査権と住居の不可侵(最判昭和30427、百選124事件)

 

[事案の概要]

 

kanako10

(訴外A)

ちょっと焼酎密造したいんだ・・・

 

 

yumi1

 

 

いいよ~。場所貸してあげるよ~

 

 

 

kanako16

 

(訴外A)

おいしくな~れ♪

 

 

 

tika3

 

私は収税官だ!

動くな!

密造の現行犯だ!

 

kanako3

 

(訴外A)

 そんなぁ・・・

 

 

 

Aは、法定の除外事由なくして政府の免許を受けないで、焼酎を密造した

 

被告人は、Aに対し製造場所をあっせん貸与し、その間留守番をしていた。

 

また、密造を検挙する際、収税官吏である大蔵事務官は、Aの密造現場で、密造に利用した蒸溜機や、釜、籠などの器具等を捜索・差押えした上、その事実を証明する顛末書を作成した。

 

[裁判上の主張]

 

1審、控訴審共に、判決には被告人側の主張は載っていないため、上告理由を記載することにする。

 

 

国税犯則取締法21項において、原則として裁判官の許可を得て(=令状を取って)、なすべきものとされていたが、国税犯則取締法31項は、必要性、緊急性のある場合で、許可を得られないときには、その「犯則の現場において」処分できるものとされていた。

そのため、本件大蔵事務官の捜索・差押えは、この31項に基づくものであった。

 

しかし、弁護側は、

憲法35の下で、令状なく住居に侵入し捜索・押収ができるのは、司法官憲が現行犯逮捕する場合のみであり、司法官憲以外の令状なき捜索・押収を認めた国税犯則取締法31項は、憲法35条に反する。ゆえに、大蔵事務官の顛末書は、違法収集証拠であり、証拠能力は否定されるべきで、この判断を誤り、証拠能力を肯定した原判決は破棄されるべき、と主張した。

 

※憲法351

「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない」

 

[訴訟経過]

 

1審判決(和歌山地判昭和231221):

 

被告人は、懲役3に処する

差押にかかる四斗樽三本(内二本焼酎在中、一本小麦麹在中)、二斗樽三本、一斗瓶二本(焼酎在中)、一斗罐一個、麹板六十九枚(米麹在中)、釜一個、蒸溜機一個,管二本、籠一個、ジョウゴ二個、ジャカン一個、比重計一組、小麦麹一斗三升、米麹約五斗、カイ一個、シャク一個及び一石樽十三本(内六本は醪在中)はこれを没収する。

 

控訴審判決(大阪高判昭和24216):

 

被告人を懲役3に処する

押収に係る四斗樽三本(内二本焼酎在中、一本小麦麹在中)二斗樽三本、一斗瓶二本(焼酎在中)一斗罐一個、麹板六十九枚(米麹在中)、釜一個、蒸溜機一個、管二本、籠一個、ジョウゴ二個、ジャカン一個、比重計一組、小麦麹一斗三升、米麹約五斗、カイ一個、シャク(大)一個及一石樽十三本(内六本醪在中)はこれを没収する。

 

上述のように、両判決共に3頁程度の簡潔なものであった。

 

[判示内容]

 

(1)大蔵事務官の捜索・押収について

 

上述の上告理由に対する応答として、

 

「憲法三五条は同法三三条の場合を除外して住居、書類及び所持品につき侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を保障している。この法意は同法三三条による不逮捕の保障の存しない場合においては捜索押収等を受けることのない権利も亦保障されないことを明らかにしたものなのである。」

 

「然るに右三三条は現行犯の場合にあっては同条所定の令状なくして逮捕されてもいわゆる不逮捕の保障には係りなきことを規定しているのであるから、同三五条の保障も亦現行犯の場合には及ばないものといわざるを得ない。それ故少くとも現行犯の場合に関する限り、法律が司法官憲によらずまた司法官憲の発した令状によらずその犯行の現場において捜索、押収等をなし得べきことを規定したからとて、立法政策上の当否の問題に過ぎないのであり、憲法三五条違反の問題を生ずる余地は存しないのである。さればこれと異る見地に立って国税犯則取締法三条一項の規定を憲法三五条に違反すると主張し、且これを前提として原判決に訴訟法違反ありとする論旨には賛同することができない。」

 

・・・と判断している。

 

(2)裁判所による没収について

 

上告理由には、上述の(1)の点のほかに、(大して重要ではないから載せなかったが、)裁判所の没収が違法であるという主張もなされていた。

 

「所論の物件は、本件密造にかかる酒類、醪、麹又は、これが製造に使用した機械器具容器であること、しかも、右物件は、本件犯罪の正犯者たるAの所有に属することは、原判決の碓定するところであるから、原判決が酒税法六〇条三項、六四条二項(昭和二四年法律第四三号による改正前)の規定に依って、右物件を没収したことをもつて、所論のように、違法とすることはできない。」

 

・・・判例は、この主張も一蹴している。

 

[コメント&他サイト紹介]

 

没収された物件から、密造装置は、どのような構造だったのだろうと想像してみるのも面白いですね。しかし、よくよく考えると、没収物件の列挙は、焼酎密造レシピと捉える事もできてしまいますね・・・。

他サイト様で本判決について詳しく検討されているものはありませんでした。

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