法廷の秩序維持(最決昭和33・10・15、百選134事件)
[事案の概要]
―――大阪地裁のとある法廷内―――
お~♪おお~♪お~♪
(裁判長)
静かにしなさい!
お?お?お~♪おお~♪お~♪
(裁判長)
・・・ハァ・・・(お~♪おお~♪お~♪)
監禁等被告事件の被告人として大阪地方裁判所において審理中の者ら26名が、
裁判長の制止をきかず、許可を受けないで、多衆をたのみ、腕を組み、放歌合唱をなし勝手な発言をなし、あまつさえ裁判長に対し、「おい、裁判長、きいているのか、貴様・・・返事しろ」「裁判長黙秘権かどうした返事せ、返事をおい」「売国奴とはお前の事だ」と罵倒した。
そこで、裁判所は、被告人らのうちX1,X2の2人を、法廷等の秩序維持に関する法律3条2項に基づいて拘束させ、制裁を科する裁判を行い、弁護人の陳述を聞いた後、法廷等の秩序維持に関する法律2条を適用して監置5日に処する旨の決定を言い渡した。
これに対して、X1,X2は、大阪高裁に抗告した。
[裁判上の主張]
X1,X2らは、
抗告人は法廷等の秩序維持に関する法律2条にもとづく監置決定ならびに監置のための保全処置としての拘束は憲法32条、33条、34条、37条を無視し、右全条またはその各条項に違反して抗告人に対してその身体の自由を拘束し、実質上刑罰または拘禁、抑留を科したものであって、違憲無効の決定処置である、と主張した。
[訴訟経過]
第1審決定(大阪地決昭和28・11・30):本人を監置5日に処する
抗告審決定(大阪高決昭和28・12・19):抗告棄却
大阪高裁の決定に不服のあるX1,X2が、最高裁に特別抗告した。
[判示内容]
主 文
本件特別抗告を棄却する。
理 由
「本法(法廷等の秩序維持に関する法律)の目的とするところが、法廷等の秩序を維持し、裁判の威信を保持することに存し、そしてこのことが民主社会における法の権威確保のために必要であることは、本法一条によって明らかにされているところである。」
「日本国憲法の理念とする民主主義は、恣意と暴力を排斥して社会における法の支配を確立することによって、はじめてその実現を期待することができる。法の支配こそは民主主義の程度を卜知する尺度であるというも過言ではない。この故に民主主義の発達したいずれの社会においても、法の権威が大に尊重され、法を実現する裁判の威信が周到に擁護され、とくに一部の国々においては久しきにわたる伝統として、裁判所の権威を失墜させ、司法の正常な運営を阻害するようないわゆる「裁判所侮辱」の行為に対して、厳重な制裁を科してきたのである。」
「この法によって裁判所に属する権限は、直接憲法の精神、つまり司法の使命とその正常、適正な運営の必要に由来するものである。それはいわば司法の自己保存、正当防衛のために司法に内在する権限、司法の概念から当然に演繹される権限と認めることができる。従ってそれを厳格適正に行使することは、裁判官の権限たると同時に、その職務上の義務に属するのである。」
「この権限は上述のごとく直接憲法の精神に基礎を有するものであり、そのいずれかの法条に根拠をおくものではない。それは法廷等の秩序を維持し、裁判の威信を保持し、以て民主社会における法の権威を確保することが、最も重要な公共の福祉の要請の一であることに由来するものである。」
「本法による制裁は従来の刑事的行政的処罰のいずれの範疇にも属しないところの、本法によって設定された特殊の処罰である。そして本法は、裁判所または裁判官の面前その他直接に知ることができる場所における言動つまり現行犯的行為に対し裁判所または裁判官自体によって適用されるものである。従ってこの場合は令状の発付、勾留理由の開示、訴追、弁護人依頼権等刑事裁判に関し憲法の要求する諸手続の範囲外にあるのみならず、またつねに証拠調を要求されていることもないのである。かような手続による処罰は事実や法律の問題が簡単明瞭であるためであり、これによって被処罰者に関し憲法の保障する人権が侵害されるおそれがない。なお損われた裁判の威信の回復は迅速になされなければ十分実効を挙げ得ないから、かような手続は迅速性の要求にも適うものである。」
「以上の理由からして、本法二条による監置決定が憲法三二条、三三条、三四条、三七条に違反するものとする抗告人の主張はこれを採用することができない。」
[コメント&他サイト紹介]
よくこんなので最高裁まで争ったな、というのが率直な印象ですね。黙っている裁判長に対する、黙秘権か!っていう煽りはちょっとだけ面白いですが。
この判例について詳しく分析して下さっている他サイト様はありませんでした。まぁ比較的マイナーですもんね。