法廷における写真撮影の制限(最決昭和33・2・17、百選78事件)
[事実の概要]
Xは、北海タイムス釧路支社報道部写真班員であった。
―――釧路地方裁判所第1号法廷内―――
(裁判所書記官)
これから、撮影はやめてくださいね~
は~い
(裁判長)
それでは、裁判始めます。被告人入ってきて下さい。
・・・クケケケケケ!!(パシャパシャッ
(裁判長)
な!?やめなさい!
隙を見せたあんたの負けだ!
クケケケケ!!(パシャッ
Xは、釧路裁判所第一号法廷において、訴外Aに対する強盗殺人被告事件の公判が開廷された際、事件の取材のために、法廷内の新聞記者席に居合せた。
公判開廷前の午前9時半頃当裁判所刑事部書記官室において当裁判所書記官Bより、「本日の公判に関する公判廷における写真の撮影は審理の都合上裁判官が入廷し公判が開始された以後はこれを許さないから公判開始前に撮影されたい。」旨の裁判所の許可を告知されて十分これを了解していた。
それにも関わらず、裁判官が入廷し、右被告事件の公判が開始され、人定質問のために被告人が証言台に立つや否や、裁判長の許可がないのに勝手に記者席を離れ法廷内の一段高い裁判官席の設けられてある壇上に登るべく写真機を携帯して傍聴席より向って右側の右壇上に至る階段を駆け上がり始めた。
裁判長は「写真は駄目です。」と制止したのにこれに従わず、右壇上に上り被告人に向かって写真機を構え同所において被告人の写真一枚を裁判所の許可なく且つ裁判長の命令を無視して撮影した。
[裁判上の主張]
法廷等の秩序維持に関する法律2条1項
「裁判所又は裁判官が法廷又は法定外で事件につき審判その他の手続をするに際し、その面前その他直接に知ることができる場所で、秩序を維持するため裁判所が命じた事項を行わず若しくは執った措置に従わず、又は暴言、暴行、けん騒その他不穏当な言動で裁判所の職務の執行を妨害し若しくは裁判の威信を著しく害した者は、20日以下の監置若しくは3万円以下の過料に処し、又はこれを併科する」
どう見てもこれに該当するよね!
一体いつから錯覚していた?
―――キミが「写真は駄目だ」って言っていたときには既に写真撮影終わ
なん・・だと・・!?
後述のように、上記法律2条1項に該当するため、過料1000円に処するという裁判所の判決に対し、Xは抗告を申し立て、
① 「駆け上がったのではなく、静かに上がった」し、「裁判長に「写真は駄目だ」と制止された時点では既に撮影を終わっていた」ため、裁判長が命じた事項を行わなかったわけではない
② 裁判所書記官は、「審理の始まる前にとるように」と言っていたため、その指示通り人定質問の始まるギリギリ直前に撮影したにすぎない
③ 原裁判所の措置は新聞紙の報道の自由を制限する違法なものである
・・・と反論した。
[訴訟経過]
第1審判決(釧路地判昭和28・12・10):Xを過料1000円に処する
抗告審決定(札幌高決昭和29・2・15):本件抗告を棄却する
抗告審は、Xの反論①②について、
「原決定に対しては法廷等の秩序維持に関する法律第五条第一項に定められているとおりその裁判が法令に違反することを理由としてのみ抗告を申立てることができるのであるから、事実の誤認は適法なる抗告の理由とすることはできない。よって抗告人の所論中原決定が事実の認定を誤っているとの主張は判断の限りではない。」
・・・と一蹴した。あらゆる意味でXの反論①②はヒドイ内容だった訳である。
Xの反論③については、
「いわゆる報道の自由とは憲法第二十一条に規定されている表現の自由の一種に外ならないが、本件における写真の撮影は取材行為というべく、報道のための準備的行為であって、報道行為そのものではない。また写真を撮影しなければ裁判の報道ができないわけではないから写真の撮影を制限或は禁止することは憲法の規定に違反するものとはいえない。」
・・・との判断を下して、結局Xの抗告を棄却した。
納得のいかないXは、最高裁に特別抗告の申立てを行った。
[判示内容]
主 文
本件特別抗告を棄却する。
理 由
Xの反論③に関して、
「およそ、新聞が真実を報道することは、憲法二一条の認める表現の自由に属し、またそのための取材活動も認められなければならないことはいうまでもない。」
「しかし、憲法が国民に保障する自由であっても、国民はこれを濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うのであるから(憲法一二条)、その自由も無制限であるということはできない。」
「そして、憲法が裁判の対審及び判決を公開法廷で行うことを規定しているのは、手続を一般に公開してその審判が公正に行われることを保障する趣旨にほかならないのであるから、たとい公判廷の状況を一般に報道するための取材活動であっても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し被告人その他訴訟関係人の正当な利益を不当に害するがごときものは、もとより許されないところであるといわなければならない。」
「ところで、公判廷における写真の撮影等は、その行われる時、場所等のいかんによっては、前記のような好ましくない結果を生ずる恐れがあるので、刑事訴訟規則二一五条は写真撮影の許可等を裁判所の裁量に委ね、その許可に従わないかぎりこれらの行為をすることができないことを明らかにしたのであって、右規則は憲法に違反するものではない。」
[コメント&他サイト紹介]
抗告審でのXの反論①②を見て、多くの方が「小学生か!」的な突っ込みを思い浮かべたのではないでしょうか。
他サイト様は・・・
本判例を分析されている記事は見当たらなかったです。
全文が載っているという意味で、「憲法判例集(仮)」様の
http://blog.livedoor.jp/cooshot5693/archives/52441152.html
・・・を一応挙げさせていただきます。