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在宅投票制度廃止事件(百選212事件)


在宅投票制度廃止事件(最判昭和60・11・21、百選159・212事件)

 

[事実の概要]

 

昭和25年4月15日に制定された公職選挙法においては、不在者投票手続の一環として、在宅投票制度が採られていた。

これは、どのような内容であったかというと、身体障害その他の事由がある者に対し、郵便による投票や同居の親族による投票用紙の請求、投票の提出も認めたものであった。

しかし、昭和26年の4月に行われた統一地方選挙において、在宅投票制度が悪用されて、選挙人の知らない間に他人や親族によって勝手に投票がなされていたりする等、多数の選挙違反がなされた

これを受けて、国会は、在宅投票制度を廃止し、身体障害その他の事由がある者も不在投票管理者の管理する投票を記載する場所においてのみ投票することができるにすぎないという内容に、公職選挙法を改正した

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このまま民主主義の根幹たる選挙制度の歪みを放置する訳にはいかない!改正する!

 

 

 

さて、原告は、昭和6年ごろ、屋根の雪下ろし作業をしていた際、屋根から転落し、腰部を打撲し、脊髄前角炎、圧迫性脊髄炎症と診断され、入退院を繰り返していたが、快方に向かわず、自宅でほとんど寝たきりになった

この状態でも数回選挙には行っていたが、昭和28年頃から下半身の硬直の症状が悪化し、車椅子に乗ることすらできない状態になり、以後投票所へ行くことは不可能となった。

 

[訴訟上の主張]

 

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国は私に損害賠償をしなきゃダメだよね!あと、仮執行宣言も付けてね!

 

 

 

原告の請求の根拠は、制度廃止という立法行為及び、制度復活をしないという立法不作為は、憲法13条、14条1項、15条1項、15条3項、44条、47条に違反する、国会議員の違法な公権力の行使であり、それにより選挙権を計8回も行使できなかったことによって、精神的苦痛を被ったというものであった。
ちなみに、本訴は、国家賠償訴訟である。

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 原告の境遇に同情はするが、それでも、国会議員に何らの過失もない!損害賠償責任は認められない!

 

 

[訴訟経過]

 

第一審判決(札幌地判昭和49・12・9、百選159事件):

 

被告は、原告に対し、金一〇万円およびこれに対する昭和四六年六月二七日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

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あわわ・・・あ、新しい主張を組み立てないと!

 

 

第一審で敗北した被告側は、それまで国会議員に故意・過失はない、という主張や原告の損害賠償請求権は、既に時効だという主張が中心であったが、第一審での敗訴を受けて、あわてて立法行為に国家賠償法1条1項の適用がない旨の主張が新たになされた。

 

控訴審(札幌高判昭和53・5・24):請求棄却、原告敗訴

 

控訴審は、立法不作為を違憲と判断したものの、国会議員に故意・過失はないため、損害賠償責任の存在を否定した。

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むぅ~・・・

 

 

 

 

これに対して、原告が上告した訳である。

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

 

理    由

 

① 判断基準定立

 

「国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。」

「したがって、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。」

「そこで、国会議員が立法に関し個別の国民に対する関係においていかなる法的義務を負うかをみるに、憲法の採用する議会制民主主義の下においては、国会は、国民の間に存する多元的な意見及び諸々の利益を立法過程に公正に反映させ、議員の自由な討論を通してこれらを調整し、究極的には多数決原理により統一的な国家意思を形成すべき役割を担うものである。そして、国会議員は、多様な国民の意向をくみつつ、国民全体の福祉の実現を目指して行動することが要請されているのであって、議会制民主主義が適正かつ効果的に機能することを期するためにも、国会議員の立法過程における行動で、立法行為の内容にわたる実体的側面に係るものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのを相当とする。」

「さらにいえば、立法行為の規範たるべき憲法についてさえ、その解釈につき国民の間には多様な見解があり得るのであって、国会議員は、これを立法過程に反映させるべき立場にあるのである。憲法五一条が、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである、との考慮によるのである。」

「このように、国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであつて、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。ある法律が個人の具体的権利利益を侵害するものであるという場合に、裁判所はその者の訴えに基づき当該法律の合憲性を判断するが、この判断は既に成立している法律の効力に関するものであり、法律の効力についての違憲審査がなされるからといつて、当該法律の立法過程における国会議員の行動、すなわち立法行為が当然に法的評価に親しむものとすることはできないのである。」

「以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。」

 

② あてはめ

 

「これを本件についてみるに、前記のとおり、上告人は、在宅投票制度の設置は憲法の命ずるところであるとの前提に立って、本件立法行為の違法を主張するのであるが、憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定が存しないばかりでなく、かえって、その四七条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているのであって、これが投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨であることは、当裁判所の判例とするところである。」

「そうすると、在宅投票制度を廃止しその後前記八回の選挙までにこれを復活しなかった本件立法行為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はなく、結局、本件立法行為は国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものではないといわざるを得ない。」

「以上のとおりであるから、上告人の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく棄却を免れず、本訴請求を棄却した原審の判断は結論において是認することができる。」

 

[コメント&他サイト紹介]

 

判示内容については、大して長くもないので、ほぼ全文引っ張ってきました。

 

この判例は、ややマイナーなのか、丁寧に分析して下さっている他サイト様は、見当たりませんでした。

ただ、頭の整理に非常に役に立つと思われるのが、おそらく慶応ロースクールの資料と思われる、

http://fs1.law.keio.ac.jp/~ohsawa/sub1-7-15.html

・・・です。この判例を丁寧に読んだら、確認問題の10番くらいまでならさほど苦もなく解けそうな気がいたしますね。

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