公衆浴場の適正配置規制(最判昭和30・1・26、百選98事件)
[事実の概要]
公衆浴場始めたいんですけど・・・
(福岡県知事)
近くに既にあるからダメ~
近くにあるから何だっていうんだ!勝手に始めてやる!
被告人は、公衆浴場の建物を新築したが、「配置の適正を欠く」として、営業は不許可とされてしまった。
そこで被告人は、福岡県知事の許可を受けず、昭和27年1月8日から昭和27年3月16日までの間、前後16回にわたり、大人一人8円、子供一人5円の料金で一般公衆を入浴させて、計2万4633円を徴収し、もって公衆浴場を経営した。
[裁判上の主張]
公衆浴場法2条1項は、
「業として公衆浴場を経営しようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならない」
2条2項本文は、
「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる」
2条3項は、
「前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県知事が条例で、これを定める」
・・・と規定されており、この2条3項を受けて、福岡県の条例第54号3条は、
「公衆浴場の設置の場所の配置の基準は、既に許可を受けた公衆浴場から市部にあっては250メートル以上、郡部にあっては300メートル以上の距離とする」と規定し、
条例5条1項は、
知事は、地形又は人口密度その他特別の事情があると認めるときは、前二条(=3条、4条)の基準によらないで営業の許可ができる、と定めていた。
また、公衆浴場法8条1号は、
「第2条第1項に違反した者」について、「これを6か月以下の懲役又は1万円以下の罰金に処する」旨を定めていた。
無許可営業はダメでしょ!
弁護側は、
公衆浴場法2条(特に2条2項後段の適正配置規制部分)並びに福岡県条例第54号第3条は、憲法22条の職業選択の自由の規定に反し、無効である。ゆえに、起訴状記載の事実が真実であっても何らの罪となるべき事実を包含していないので、被告人は無罪だ!・・・と主張した。
[訴訟経過]
第1審判決(福岡地判昭和28・6・1):
被告人を罰金五千円に処する。
右罰金を完納することのできないときは金五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
控訴審判決(福岡高判昭和28・9・29):控訴棄却
第1審は、弁護側の主張に対して、
「憲法第二十二条は、国民の権利として職業選択の自由を「公共の福祉」の要請がある限り制限されうることを認めている。従って公衆浴場法が許可主義をとり、無許可営業を処罰することが「公共の福祉」を維持するために必要であるならば、その制限は何等憲法第二十二条に違反するものではない。而して公衆浴場法第二条第二項に謂ゆる「公衆浴場の設置場所若しくは其の構造設備が公衆衛生上不適当である」こと、又は「其の設置の場所が配置の適正を欠く」ことは、憲法第二十二条に謂ゆる「公共の福祉」に反するものと認めるのが相当である。故に公衆浴場法第二条は憲法第二十二条に違反するものと云うことはできない。」
・・・と応答している。
控訴審は、弁護側の主張に対して、
「憲法第二十二条は職業選択の自由を認めている。然しその自由も公共の福祉に反しない限りにおいて保障されていることは同条の明示するところである。公衆浴場法第二条第一項で公衆浴場業が許可を得てのみなし得ると定めている職業選択についての制限は、衛生等の警察的立場による政策的考慮からなされたものと解すべきであり、その限りにおいては、同法条は憲法第二十二条に違反するものではない。」
「問題は同浴場法第二条第二項後段である。然し公衆浴場の偏在を避け、配置の適正をはかることによって、できうる限り多数の者に浴場を利用させる便宜を与えるとともに、その経営を健全ならしめ、ひいては、衛生的設備を充実せしめることは公衆衛生上きわめて必要であり、その濫立に委すときは多くはその経営に経済的行き詰まりをきたし、ために浴場の衛生的設備なども低下し、不衛生になるのは、健全なる社会常識上考えられるところである。それらの意味からして,公衆浴場の設置の場所の適正をはかることは、公共の福祉にそうものというべきである。」
・・・と応答している。
[判示内容]
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護側の上述の主張に対して、
「公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共性を伴う厚生施設である。そして、若しその設立を業者の自由に委せて、何等その偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられないときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場合に不便を来たすおそれなきを保し難く、また、その濫立により、浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い。」
「このようなことは、上記公衆浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望ましいことであり、従って、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在乃至濫立を来たすに至るがごときことは、公共の福祉に反するものであって、この理由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設けることは、憲法二二条に違反するものとは認められない。」
・・・と、控訴審とほぼ同様の理由づけで結論として上告を棄却した。
[コメント&他サイト紹介]
1日労役場で働いても50円の価値しかないことや、入浴料が8円とか5円である事から、昭和28年当時の貨幣価値が大体分かりますよね。
この解説は、「mabo-daigoのリーガルクエスト」様の、
http://ameblo.jp/melodies-memories/entry-11483271727.html
・・・この解説が非常に分かりやすいです・・・が。藤井教授の百選解説がほぼそのまま引用されています。著作権的に気になりますが、内容としては素晴らしいです。