建造物侵入の意義(仙台高判平成6・3・31、百選(第6版)17事件、百選(第7版)掲載なし)
[事実の概要]
被告人は、2万人を超える観衆が見守る国民体育大会の開会式において、開会式を妨害する意図を秘し、一般観客を装い、同開会式が行われる陸上競技場に立ち入った。
そして、天皇のお言葉が始まると間もなく、突如防犯ブザーを作動させ、点火された発炎筒を掲げてトラックに飛び出し、その発炎筒をロイヤルボックス目掛けて投げつけた。
なお、本件開会式の会場のゲート等22箇所に設置された掲示板には、会場内での示威又は喧騒にわたる行為など、行事の運営及び進行を妨害する行為をすることを禁止する旨明記されていた。
[裁判上の主張]
検察側は、被告人の行為は建造物侵入罪(刑法130条)、威力業務妨害罪(刑法234条)に該当すると主張した。
弁護側は、建造物侵入罪に関して、「建造物侵入罪の保護法益は今日では建造物内における利用者個々の私的生活の平穏と解されているところ、本件開会式場は一般の利用に供することを目的とする開かれた建造物であるから、この建造物の本来の性格、使用目的を考慮すれば、入場券を所持して正規の入口から平穏に入場した被告人の入場行為によって、本件建造物の保護法益が侵害されたとはいえない」と主張した。
[訴訟経過]
第1審判決:不明
[判示内容]
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
弁護側の主張(=未だ平穏は崩れておらず、保護法益の侵害がない)に対して、
「建造物侵入罪の保護法益を建造物の管理権と見るか、建造物利用の平穏と見るかはともかくとして、他人の看守する建造物に管理権者の意思に反して立ち入ることは、その建造物管理権の侵害に当たることはもとより、一般に、管理権者の意思に反する立入り行為は、たとえそれが平穏、公然に行われた場合においても、建造物利用の平穏を害するものということができるから、本件について建造物侵入罪の保護法益の侵害はない旨の所論は採用できない」
・・・と判示した。
[コメント&他サイト紹介]
本判決は、「包括的同意」が問題となっている事案において、判例は、住居者等が行為者の目的を知っていたら同意を与えなかったであろうとの基準を用いている点に意義があります。この「行為者の目的」は、侵入当時管理者が知らず、また、知る由がなかったとしても、後から公判において明らかになったのであれば、判例の考え方からは考慮材料となります。
判例は、この「包括的同意」の場合であれ「推定的同意」の場合であれ、このように錯誤がなければ同意はしなかったであろう、という場合に広く建造物侵入罪の成立を肯定しています。
詳しくは、私の書いた別HPの
をご参照頂ければ幸いです。