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表見代表取締役と第三者の過失(百選50事件)


表見代表取締役と第三者の過失(最判昭和521014、百選50事件)

 

[事実の概要]

 

明倫産業株式会社(被告)の取締役で、専務取締役上本町営業所長という名称の使用を承認されていた訴外Aは、手形振出権限がないのに、額面130万円の約束手形一通を明倫産業株式会社上本町営業所専務取締役営業所長名義で振り出した。

 

この約束手形の振出しは、別の約束手形(額面130万円)の支払期日が切迫し、金策に困ったあげくになされたものであった。

 

それゆえ、急遽手形の引き受け手を探す必要が生じていたため、被告会社から金融の斡旋を依頼されていた被告の元取締役であった訴外Cは、手形の信頼性を高めるために(=隠れた手形保証の趣旨で)、Aの父で被告の代表取締役であるBに第一裏書をしてもらうべきだと考えた。

 

そこで、CABの裏書をもらってくるよう要求したが、Aは本件手形を持ち帰り、同手形の第一裏書人欄に父に無断でBの住所氏名を手書きし、その下に有合わせ印を押なつしてB名義の裏書を偽造し、数日後に手形をCに交付した。

 

Cは、本件手形の振出日を昭和43815日、受取人をBとそれぞれ補充したうえ、原告に対し右手形の割引を依頼してこれを交付し、原告はさらに、同手形の満期を昭和44416日と補充した。

原告は、Aにも被告会社の代表権があるものと信じ、Aの代表権を問いただすことなく手形を取得し、満期に支払場所に提示したが、支払いはなかったため、手形金の支払を求めて訴えを提起した。

 

[裁判上の主張]

 

原告は、金130万円及びその利息の支払いと、仮執行の宣言を請求した。

 

その理由は、

 

Aに手形を振り出す権限が無かったとしても、商法262条(会社法354条)により、被告会社は責任を免れない、というものであった。

 

 

これに対し、被告は、

 

原告は、被告会社の代表取締役がAではなくBであることを知っていた。仮に、原告がこのことを知らなかったとしても、本件手形の振出人名義が被告会社上本町営業所専務取締役営業所長Aとなっていたから、原告は、右手形を取得する際、同手形が代表権のある者によって振り出されたものか否かについて当然に疑問を抱くべきであるのに、この点につき調査せずに本件手形を取得しても重大な過失がある

・・・として、原告の悪意・重過失により、被告会社に商法262条の責任は生じないと主張した。

 

[訴訟経過]

 

1審判決(大阪地判昭和48130):

 

被告は原告に対し、金一、三〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四四年四月一六日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。

 

 

理由としては、

 

「被告の商法第262条による本件手形振出人としての責任の有無について判断する。本件手形振出当時、苫野敬弥が被告会社の取締役であつたことは前記一で認定したとおりであり、被告会社が同人に対し「被告会社専務取締役、上本町営業所長」なる名称の使用を承認していたことは当事者間に争いがない。」
「ところで、右法条にいう第三者とは、手形関係においてはその流通証券である性質上から表見代表取締役によって代表せられる会社に対しこの取締役の代表権限を信じて権利者の地位に立つことができる者をすべて包含すると解すべきである。そうして、同法条により、表見代表取締役の行為につき会社が責任を負うためには、第三者が善意であれば足り、その無過失を要しないと解するのが相当である(最高裁昭和四一年一一月一〇日判決、民集二〇巻九号一七七一頁参照)。」

 

「したがって、本件においては、原告が右苫野敬弥の代表権の欠缺につき善意であったならば、被告会社は振出人としての責任を免れないことになるので、この点につき検討する。」

 

「原告は、被告会社の取締役で長年の知人であったCから本件手形の割引を依頼されたのでこれを承諾し、右手形を割引取得したこと、その際、原告は、Cから被告会社の社長はBであると聞かされていたけれども、本件手形の振出人が被告会社上本町営業所専務取締役営業所長Aとなっており、かつ、長年の交際で信頼していた被告会社の取締役であつたCが右手形の割引を依頼したので、Aにも被告会社の代表権があるものと信じ、同人の代表権につき特に問いただすこともしなかったことが認められる。」
「そうだとすると、原告は、Aの代表権の欠缺につき善意であったものと解するのが相当である。よって、被告会社は、商法第262条により、本件手形の振出責任を負わねばならない。」

 

・・・というものであった。

 

     重過失の検討を全くしていない事を確認しておいてください。

 

 

控訴審判決(大阪高判昭和51929):本件控訴を棄却する。

 

 

控訴審判決は、ごく簡潔な判示により原判決を相当としているのみであって、見るべきところはない。

 

     したがって、当然控訴審も重過失の有無の検討は全くしていません。

 

 

[判示内容]

 

主    文

 

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す

 

 

理    由

 

「商法262条に基づく会社の責任は、善意の第三者に対するものであつて、その第三者が善意である限り、たとえ過失がある場合においても、会社は同条の責任を免れえないものであるが(最高裁昭和四一年(オ)第七七七号同年一一月一〇日第一小法廷判決・民集二〇巻九号一七七一頁参照)、同条は第三者の正当な信頼を保護しようとするものであるから、代表権の欠缺を知らないことにつき第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視し、会社はその責任を免れるものと解するのが相当である。」

 

「本件記録によれば、上告会社は原審において被上告人に重大な過失があると主張しているのであるから、重大な過失の有無を判断することなく、被上告人が善意であるというだけで直ちに、被上告人の請求を認容した原判決には、法令の解釈を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。」

「そして、更に被上告人の重大な過失の有無につき審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。」

 

[コメント&他サイト紹介]

 

重過失は悪意と同視できるというのは、一般化して考えてもよいものと思われます。

何故なら、主観面の立証の難しさから、悪意を立証はできないが、フツ~に考えたら悪意だったんじゃないの?というようなケースについて、妥当な解決が図れますので、裁判実務上、悪意と重過失を同視するという発想は不可欠のものになっていると思われるからです。

 

他サイト様としては、表見代表取締役と表見取締役の違いを説明するものとして、「司法書士試験合格をサポートする」様の、

 

http://ueda-m.blog.so-net.ne.jp/2010-07-30

 

・・・が短いながらも分かりやすくご説明されていて一読の価値があるように思います。

 

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