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従業員持株制度(百選21事件)


従業員持株制度と退職従業員の株式譲渡義務(最判平成7425、百選21事件)

 

[事実の概要]

 

原告はY会社の(元)株主兼元従業員Xら、被告はY会社である。

 

被告Y社は、その定款によって株式の譲渡制限を規定している株式会社であるところ、昭和43年ころ、従業員に被告Y社の株式を取得させることにより、従業員の財産形成とともに、会社との一体感を強めてその発展に寄与させることを目的として、いわゆる従業員持株制度を導入した。

 

Xらは、いずれも被告Y社の従業員であったが、昭和43年ころから昭和5473日にかけて、右制度の趣旨、内容を了解した上で被告Y社の株式を額面額で取得し、その際、被告Y社との間で、「退職に際しては、同制度に基づいて取得した株式を150円で取締役会の指定する者に譲渡する」旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。

 

そして、昭和6153日、被告Y社の全従業員約40名がいたが、その中で営業担当の23名の従業員のうち、上告人らを含む12名が一斉退職した。

 

もっとも、被告Y社は、右の一斉退職等に伴う混乱等のため、取締役会において、Xらの有する株式の譲受人を直ちには指定せず、昭和63711日に譲受人としてDY社代表取締役の息子)を指定し、同人は、買受けの意思を明らかにした上、同月20日から22日にかけてその代金額を供託した。

 

なお、被告Y社は、昭和43年度以降、当初はおおむね1530%、昭和56年度から昭和60年度は8%の割合による株式配当を行っていた(昭和61年度は株式配当をしていないが、これは右の一斉退職等に伴って営業上壊滅的な打撃を受けたためである。)。

 

 

     Xら元従業員とY社を経営している一族とのドロドロの対立が背景にあります。Xらは、経営者一族が全てを取り仕切っており、株主の強制取得も経営者一族の既得権益確保の為であると不信感を募らせており、反面、経営者一族も、(高裁の認定によれば、)Xらが一斉に退職届を出したうえ、翌日から有給休暇届を出して出勤せず、Y社のコンピュータープログラムを無断で持ち出され、Y社の取引先に対してY社の名前を変えた請求書、納品書が発送されるなどしたため、Y社は企業として大混乱に陥り、大打撃を被った、という事情があったため、Xらと決定的に対立していたのです。

 

     このように、Y社がXらの一斉退職のせいで大混乱状態にあったという事情及びXらが本件提訴をしてきたため、訴訟の推移を見てから判断する必要があったため、買受人の指定が退職時から2年も遅れたのです。ちなみに、買受人の指定がなされた昭和63711日というのは、本訴第1審係属中です。

 

 

[裁判上の主張]

 

原告であるXらは、被告Y社に対し、未だXらが株主であることを前提に、自己の保有株式についての株券を交付するよう求めて提訴した。

 

その請求原因は、Xらはいずれも被告の株主であり、株券交付を請求したのにY社が応じないことである。

 

被告Y社は、

 

本件(退職時の譲渡)合意の存在、株式譲受人指定の取締役会決議の存在、株式譲受人が株式の譲渡金を弁済供託したこと、を抗弁として提出し、原告らの株主の地位喪失を主張した。

 

原告は、再抗弁として、本件合意と称して提出させられた誓約書は、

 

(1)株式譲渡自由の原則(旧商法2041項、会社法127条)違反ゆえに無効

 

(2)公序良俗(民法90条)違反ゆえに無効

 

・・・と主張した。

 

[訴訟経過]

 

1審判決(名古屋地判平成1118):原告らの請求を棄却する

 

 

理由としては、

 

(1)株式譲渡自由の原則違反ゆえに無効の主張に対して、

 

「原告らは、本件各誓約書は株式譲渡自由の原則に反する旨主張するが、右原則(商法2041項)は会社と株主との間の個別的な契約の効力を直接規定するものではないから、本件合意は株式譲渡自由の原則に反するものではない。」

 

(2)公序良俗違反ゆえに無効の主張に対して、

 

「民法90条違反の主張については、原告らはもともと本件株式を額面額で購入しており、原告の供述によれば、原告らはそれぞれ持株に応じて配当金を受領していることが認められ、したがって、額面額で譲渡したとしても原告らに不当な不利益を与えることはなく、本件合意内容自体は公序良俗に反しない。」

 

「そして、原告らは額面価額は公正な価額とはいえないからこれを強要する合意は民法九〇条に違反する旨主張するが、上場されていない株式の時価の決定は極めて困難であるうえ、株式の時価は額面額以上の場合もあれば、以下の場合もあり、原告らに一方的に不利益を与えるわけではないから、株式の時価と額面額とが異ったとしても、そのことから直ちに公序良俗に反するとはいえない。」

 

「また、原告らは、被告が会社の従業員に対する支配的地位を不当に濫用して従業員の自由な意思によって契約できない状態で本件各誓約書が差入れられた旨主張するが、原告らの供述によるも、従業員の立場上断われなかったというにとどまり、被告が本件合意に際して不当な言動をしたとは認められず、かつ、前記のとおり本件合意の内容は原告らに不当な不利益を与えるものではないから、被告が本件各誓約書を要求したことは公序良俗に反するとはいえない。」

 

 

控訴審判決(名古屋高判平成3530):本件各控訴を棄却する

 

 

その理由としては、

 

(1)株式譲渡自由の原則違反ゆえに無効の主張に対して、

 

「右の規定は会社と株主との間で個々に締結される株式の譲渡等その処分に関する契約の効力について直接規定するものではないから、本件合意が、譲渡先と譲渡価格の点において株式譲渡の自由を制限するものであることを十分に考慮しても、そのことの故をもって、直ちに本件合意が同規定に違反するものであるとは断定できない。右の主張は採用できない。」

 

(2)公序良俗違反ゆえに無効の主張に対して、

 

「右の認定事実によれば、Y社が採用した本件従業員持株制度は、会社にとって、持株従業員に対して会社の発展に対する寄与を期待できるという利益があるとともに、持株従業員にとっても、Y社の株式をその時価にかかわりなく一律に額面額で簡便に取得することができるほか、相当程度の利益配当を受けることができるものであって、それなりに持株従業員の財産形成に寄与するものであることは疑いがない。」

「もっとも、本件合意内容によると、持株従業員は、退職時には額面額でY社の取締役の指定する者にその保有株式を譲渡することが強制されることになっているため、株式の自由な譲渡及びそれによる譲渡益の取得を否定されることになるが、前記のような従業員持株制度の目的を達成するために、自由な意思によって右制度の趣旨を了解して株主となった者と会社との間の合意によって、譲渡先を右のように限定することは、法令上禁止されているところではないし(Xらは、本件合意は、契約当事者が対等な立場に立って成立させたものではなく、Xら従業員が自由な意思による契約締結のできない状態の下で成立したものである旨主張するが、先に見たように、被控訴人は、本件持株制度の導入に際し、取得対象者たる役職従業員全員に対してその目的及び取得するかどうかは自由であることを説明しており、控訴人らにおいてもこれを了解のうえ本件株式を取得したものであって、その取得の有無が従業員の自由な意思に基づくものであることは、役職従業員の中で持株を取得しなかった者がいたこと及びそれらの者が取得した者に比して昇進等の処遇において殊更差別されたことは認められないことからも明らかである。右の主張は失当である。)、また、譲渡価格が時価によらず額面額に固定されている点も、その取得価格自体が右と同額と定められ、取得時における時価とはなっていないこと及び本件株式のような非上場株式について持株従業員の退職の都度個別的に譲渡価格を定めることが実際上困難であることなどを考慮すると、株式の譲渡価格を額面額に固定する本件合意をもって、直ちに持株従業員の投下資本の回収を著しく制限する不合理なものとまでは断ずることができない。」

 

     原告による公序良俗違反の具体的な主張内容は多岐にわたり、それに対する控訴審判決の応答も当然多数にのぼります。紙幅の関係上ダイジェスト的に紹介すると、

 

・従業員持株制度はダメな制度だ                       持株従業員もメリットあるし、そうでもない

・譲渡価格が額面額に固定されているのはダメだ           非上場株式は価額の算定が困難だから、ダメとまでは言えない

・譲渡強制は、キャピタルゲインが全く得られないからダメだ                 一般の株式投資と同一には考えられず、ダメとはいえない

・経営者一族の利益保護が実質的な目的だからダメだ                   持株制度は、従業員の財産形成のみならず会社の利益をも目的とするもので、仮にそんな目的があっても問題なし

2年も経過しているし、株式譲渡の意思表示は失効しているからダメだ                2年も経過したのは原告も負うところがあり、Y社に懈怠があったとはいえないし、意思表示が失効するはずもない。

 

・・・という感じです。

 

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

 

 

理    由

 

「右事実関係及び原審の説示するところに照らせば、本件合意は、商法2041項に違反するものではなく公序良俗にも反しないから有効であり、被上告会社の取締役会が、本件合意に基づく譲受人としてDを指定し、同人が買受けの意思を明らかにしたことにより、上告人らは被上告会社の株式を喪失したとして、株券の発行を求める上告人らの請求を棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本判決は、株式譲渡を制限する契約の効力について、(会社が当事者であることに格別の注意を払うことなく)契約は有効であると捉えています。下級審判決によれば、株式譲渡自由の原則は、具体的な契約を直接規律するものではないからです。また、根本には契約自由の原則があるのは明らかですね。

 

これに対し、学説は会社が当事者となる契約は、株式譲渡自由の原則の潜脱となりうるため、原則無効だが、会社が当事者とならない契約ex.株主間における契約など)は、原則有効と考える見解が多数を占めています。

 

他サイト様としましては、

 

「エヌ・ジェイ出版販売株式会社」様の

 

http://www.njh.co.jp/counseling/co1/

 

・・・がとても参考になるように思います。

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