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弁護士である監査役の訴訟代理の可否(百選75事件)


弁護士である監査役の訴訟代理の可否(最判昭和61218、百選75事件)

 

[事実の概要]

 

原告は、株式会社サンセンタープラザの発行済株式15万株のうち2675株を所有する株主である有限会社A、被告は株式会社サンセンタープラザである。

 

原告は昭和581114日、被告より交付を受けている株券(以下、本件株券という)のうち1000株券(券面額50万円)2枚を100株券(券面額5万円)20枚に券種変更すること等を請求したが、被告はこれを拒否した。

 

そのため、原告は、株券の券種変更(分割)手続をし、適法な様式を具備した株券を交付すること等を求めて出訴した。

 

なお、この訴訟における被告会社の訴訟代理人は、昭和58530日に被告会社の監査役に就任していた弁護士Bであった。

 

[裁判上の主張]

 

原告の請求に対して、被告は、

 

(1)原告の請求は、被告会社の株式は流通していないのに分割請求をするのは、被告会社を困惑させることのみを目的とした株主権の行使であり、権利濫用である、という反論をした。

 

また、控訴審までは争われていなかったが、上告理由において、

 

(2)監査役Bが訴訟代理人を兼ねるのは、旧商法276条(現会社法3352項)の監査役の使用人兼務禁止規定に抵触する

 

(3)監査役が株主の利益代表である以上、株主と会社の間の訴訟で会社側の代理人となることは、双方代理(民法108条)に該当する

 

・・・と主張した。

 

[訴訟経過]

 

1審判決(神戸地判昭和59628):

 

一 被告は原告に対し、被告発行にかかる株券一、〇〇〇株券二枚を一〇〇株券二〇枚に分割する手続をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

 

控訴審判決(大阪高判昭和591116):本件各控訴を棄却する。

 

 

1審判決は、事実を認定し、評価しているのみで見るべきところはない。

 

控訴審判決は、

 

被告の(1)の主張(=原告の請求は権利濫用である)に対して、

 

「株式会社の株主は、資金を回収するため、株式の全部又は一部を譲渡する自由を持っており、これは株主の基本的な権利の一つである。このことは、株式譲渡につき取締役会の承認を要するものとされている場合でも、同様である。そして株式の譲渡には株券を必要とするから、株主は所有株式の一部譲渡に備えて、少数の株式を表象する株券への変更交付を請求できるのも当然のことである。」

「仮に、第一審被告の株式がその主張のように一般には譲渡流通がされていなくとも、このことから右株式の譲渡が全く不可能であると断ずることはできないし、一〇〇〇株券から一〇〇株券への券種変更請求が会社を困惑させることのみを目的としたものと推認することはできない。」

「また、一〇〇〇株券を由なく額面五〇円の一株券一〇〇〇枚に変更請求するような場合とは異なり、本件のように額面計五万円にもなる一〇〇株券への変更請求については、その請求自体から必要性、正当性がないと推認することもできないし、第一審被告主張のような会社担当者の説明があっても、これが右請求を拒否できる理由となるものではない。ほかに第一審原告の右請求を権利の濫用と解させるに足る事実は、本件全証拠によっても認められず、第一審被告の権利濫用の抗弁は理由がない。」

 

・・・と判断して、被告の主張を斥けている。

もっとも、原告が他に請求していた損害賠償請求は否定されており、それを不服とした原告が、上述の(2)(3)の理由を追加し、上告した。

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

 

 

理    由

 

     被告の(2)の主張(=監査役Bが訴訟代理人を兼ねるのは、監査役の使用人兼務禁止規定に抵触する)に対して、

 

「監査役が会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることを得ないとする商法二七六条の規定は、弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社から委任を受けてその訴訟代理人となることまでを禁止するものではないと解するのが相当である。」

 

     被告の(3)の主張(=監査役が株主と会社の間の訴訟で会社側の代理人となることは、双方代理に該当する)に対して、

 

「監査役は株主総会において選任され、監査役と会社との関係が委任に関する規定に従うものであり、かつ、監査役は会社、取締役間の訴訟について会社を代表することとされており、監査役が会社ひいては全株主の利益のためにその職務権限を行使すべきものであることは所論のとおりであるけれども、そのことから直ちに、一株主が会社に対して提起した特定の訴訟につき弁護士の資格を有する監査役が会社から委任を受けてその訴訟代理人となることが双方代理にあたるものとはいえない。」

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本判決についての大塚英明教授の百選解説は必見であると思います。監査役兼任制限規定の趣旨を、会計監査と妥当性業務監査に分けて説明し、監査役という機関の「座りの悪さ」を論証する前半部分は特に一読の価値があります。

 

弁護士と会社の関わり方の問題は、(「株主総会における代理人資格の制限」での議論と同様、)弁護士という職業をどのように評価するかで立場が分かれるため、ご自身の立場を固めておかれる必要があると思います。

もっとも、事案を処理する際には、具体的な事案における顧問契約・委任契約の内容を(当該会社と弁護士は対等か従属的か、という観点から)まず分析する必要があるのは当然ですよね。

 

個人的には、弁護士法25条、弁護士職務基本規定27条・28条のような明文の規定を根拠に出来る事から、弁護士は強力な職業倫理に裏打ちされており、会社の業務執行に従属する危険性はない、とする立場の方が基本的にはおススメです。

実際に、企業と弁護士との関係がそのようになっているとは全く思ってはいませんが・・・。

 

他サイト様としては、あまりオススメはありませんでしたが、

 

ごく簡単に監査役関連の論点を見られるものとして、「たつひこの勉強部屋」様の、

 

http://blog.goo.ne.jp/hiko234/e/ed7a5f7e6b3b3b9247e27e58e3172270

 

少し内容が異なりますが、一歩進んだ問題点を指摘するものとして、「ビジネス法務の部屋」様の、

 

http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2007/04/post_e5dd.html

 

・・・が一読の価値があるように思います。

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