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会社の過失による名義書換未了(百選15事件)


会社の過失による名義書換未了と株式譲渡人の地位(最判昭和41728、百選15事件)

 

[事実の概要]

 

原告は、本田技研工業株式会社の株主X、被告は、本田技研工業株式会社である。

 

被告会社は昭和34122日、取締役会において、同会社の新株式発行につき、

 

(一)新株式は昭和35229日午後5時現在、株主名簿に記載されている株主に対し、その所有株式1株につき新株2株の割合で割り合てる。

(二)新株式の申込期間は同年425日より510日までとする、

(三)払込期日は同年521日とする、

(四)申込証拠金は1株につき金50円とし、払込期日に払込金に充当する

 

旨を決議した。

 

Xは右基準日以前の同年128日その有する旧株式500株を訴外Dに譲渡し、同訴外人は同年216日被告会社に株式名義書換の請求をしたけれども、被告会社の過失により書換は行われていなかったので、右基準日当時も依然としてX500株の株主として記載されていた。

 

そのため、被告会社は同年425日上告人に1000株の新株割当の通知をなし、Xはそれに基づき、同年52日払込取扱銀行にて1000株の申込みをするとともに証拠金50000円の払込みをした。

 

ところが、その翌日、被告会社は誤りに気づき、電報によってXに対する新株割当通知を撤回する意思表示をし、申込証拠金の払戻しを行った。

 

そこで、Xは新株の交付を求めるため提訴した。

 

※被告会社は、XではなくDこそが実質上の株主であると考え(これは、客観的にも正しいです)、Dに新株割当通知を行って、既に割当ては完了しています。一言で事案を表現するなら、ホンダが名義書換の事務処理をミスし、あわてて修正を行ったが、Xにそのミスを突かれて提訴された、という事件です。

 

[裁判上の主張]

 

原告は、新株式1000株の交付(引渡し)を請求している。

その請求原因は明確で、被告会社から割当通知を受け、それに適法に応じたことである。

 

被告は、請求原因については、全部認めた上で、

抗弁として、

 

(1)新株引受権の不存在

 

Xは、新株割当日において実質的株主ではないから、新株引受権を有しておらず、これに対してなされた新株割当通知及びXによる新株引受申込は当然無効である。

 

(2)錯誤無効

 

被告会社は、Xが実質的株主であると信じて右通知をなしたのであるから、その動機において錯誤があり、しかもこの動機は右通知自体によって表示されているから(内容の錯誤となるがゆえに)要素の錯誤となりうるもので、右通知は無効である。

 

(3)通知の撤回

 

仮に通知が無効でないとしても、新株割当通知は撤回されたため、遡って効力を失う。

 

・・・と主張した。

 

これに対してXは、

 

(1)新株引受権の不存在

 

(1-1)新株引受権者=名簿上の株主である

 

被告会社の本件新株発行に関する取締役会の決議は「昭和35229日午後5時現在の株主」に新株引受権を与えたもので、右日時現在の株主とは右日時現在株主名簿に記載のある株主の趣旨であることは最高裁判所昭和35915日言渡判決の趣旨(同判決は何日現在の株主とは、その日時において実質上株主であるや否やを問わず株主名簿に登録されていて会社に対抗できる株主であることは疑を容れないところである、と判示している。)によって明白である。

 

(1-2)新株引受権≠既存の株主権である

 

仮に、「新株引受権者=名簿上の株主」とはいえないとしても、被告会社はXに対し本件新株の割当通知をなし、控訴人は所定の方式により株式申込をしたのであるから、これによりXと被告会社間の株式引受契約は有効に成立したものである。これは控訴人が株主名簿記載の株主であると、否とは別個に存在する権利関係である。

 

(2)錯誤無効

 

仮に要素の錯誤にあたるとしても、被告会社に重大な過失がある。

 

(3)通知の撤回

 

電報においては、「(以前)お送りした新株式割当通知・・・は、こちらの誤りにつき訂正させて頂きたく協力願います」とあるのみで、撤回とはいえず、仮に撤回の意思表示としても、Xと被告会社間には、既にXの払込みによって新株引受契約が成立したのであるから、撤回はなしえない。

 

・・・と、被告会社の抗弁に対して、Xは否認&再抗弁した。

 

[訴訟経過]

 

1審判決(東京地判昭和37104):原告の請求を棄却する

 

その理由は、

 

「株式譲受人が譲受株式につき会社に対して名義書換の請求をしたにかかわらず、会社が正当の理由なくその請求に応じないときは、会社はいまだその名義書換のないことを理由として右譲受人の株主であることを否定しえない」

 

「被告会社が訴外田中佐一の名義書換請求に応じなかったのは、被告会社係員の過失によるものであることが認められるから、被告は本件割当当時同訴外人を株主と認めざるをえず、その反面において、原告は被告会社に対しもはや自己が株主であることを主張しえなくなったものといわざるをえない。従って、原告は、本件割当日において、株主名簿記載の株主とは云えないことになるから、その余の抗弁事実について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないことになる。」

 

・・・として、被告会社の(1)の主張を認めた。

 

 

控訴審判決(東京高判昭和381021):本件控訴を棄却する

 

その理由としては、

 

「株式の譲受人が譲受株式について会社に対し名義書換の請求をしたのに拘らず会社が正当の事由がなくその請求に応じないときは、会社はいまだその名義書換のないことを理由として譲受人の株主であることを否定しえないことは今日の定説である(大判昭和376参照)。」

 

「そうすると、先に指摘したようにDXから前記500株の譲渡を受け、被告会社に対し名義書換の請求をしたのに対し、被告会社が過失によってその書換を怠っていたものである以上、Dはその株式の取得を被告会社に対抗しうるとともに、その反面Xは被告会社に対しその株主たることを対抗しえなくなったものといわなければならないが、商法第280条の2により取締役会の決議により新株引受権を与えられうる株主は、会社に株主権を対抗しうる株主に限られ、それ以外の者に対する割当は無効と解するのが相当である。」

 

「けだし、もしそうでないとすると、会社はその恣意により株主名簿の書換を拒否することによって会社に対抗しうる株主権を有する株主の新株引受権を奪い右商法の規定をじゅうりんすることができるばかりでなく、旧株主に対して新株式の割当が決定されたときは、旧株式の取引が新株引受権付で行われている現在の取引(この点は公知の事実である)秩序が根本的に破壊される虞なしとしないからである。」


「そうすると、株式会社のいわゆる新株引受権を有する株主に対するその割当通知及びこれに基づく引受申込の法律的性格いかんに拘らず、本件において被告会社がXに対してした割当通知は引受権のない者に対し、また、Xの被告会社に対してした引受の申込は引受権のない者によってなされた無効のものとするほかはないから、その有効なことを前提として被控訴人に対しその主張の株式の交付を求める控訴人の本訴請求は進んで他の判断を加えるまでもなく失当として棄却」する

 

・・・と判断している。

結局、控訴審判決も(1)の被告会社の主張を認めている。

 

[判示内容]

 

主    文

 

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

 

 

理    由

 

「思うに、正当の事由なくして株式の名義書換請求を拒絶した会社は、その書換のないことを理由としてその譲渡を否認し得ないのであり(大判昭和376参照)、従って、このような場合には、会社は株式譲受人を株主として取り扱うことを要し、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことを得ない。」

 

「そして、この理は会社が過失により株式譲受人から名義書換請求があったのにかかわらず、その書換をしなかったときにおいても、同様であると解すべきである。」

 

「今この見地に立って本件を見るに、訴外DXから譲り受けた株式につき、前記基準日以前に適法に名義書換請求をしたのにかかわらず、被告会社は過失によってその書換をしなかったというであるから、右株式について名義書換がなされていないけれども、被告会社は右訴外Dを株主として取り扱うことを要し、譲渡人たるXを株主として取り扱い得ないことは明らかなところであり、従って、右基準日に株主であったことを前提として新株式の交付を求める上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は正当である。」

 

・・・と判断している。

ここでも結局(1)における被告会社の主張が認められている。

 

 

[コメント&他サイト紹介]

 

本事件は、判示内容よりも当事者の攻防のほうが見応えがあると思い、地裁・高裁段階での当事者の主張を整理して多めに紹介してみました。

 

論証する際は、本判決と同じ結論をとる場合であれ、本判決よりも言葉を尽くす必要があると思います。

 

・一般的には、「会社の過失により名義書換をしなかった場合、会社は書換があったのと同様に取り扱うべき」→「実質的株主を株主として取り扱うべき」→「実質的株主に新株引受権も帰属する」→「1個の株式について二重の権利は認められないため、反射的効果としてXに有効に発生しえた新株引受権は否定されることになる」・・・という論理の流れになるように思います。

 

・高裁の論理でいうと、「会社の過失により名義書換をしなかった場合、会社は書換があったのと同様に取り扱うべき」→「実質的株主を株主として取り扱うべき」→「実質的株主ではない名簿上の株主は、株主権を会社に対抗できないため、新株引受権者にそもそもなりえない」・・・という論理の流れになりますね。

 

上では、株主であるか否かと、新株引受権者であるか否かを一応別個に捉えているのに対して、下では、同一次元の問題として捉えています。当事者の主張でいうと(1-2)のレベルのお話です。

 

他サイト様としては、あまりオススメはございませんでしたが、

 

岡山大学法学部又はロースクールの資料と思われる、

 

http://www.law.okayama-u.ac.jp/~ryusuzu/2a12.htm

 

少し情報は古いですが、「シケプリ会社法」様の

 

http://www.geocities.co.jp/WallStreet/5500/index.html

 

・・・が一読の価値があるかもしれません。

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