【平成28年度 行政書士試験 第46問 40字記述解説(民法2)】
問題(平成28年度第46問):(平成28年度の問題については、著作権者である行政書士試験研究センター様の問題使用許諾を得ておりませんので、全文引用は避け、問題掲載ページへのリンクを貼ります。コチラです。なお、以下では著作権法で許される範囲の部分的な引用を行っております。)
(解説)
二年連続で家族法分野からの出題ですね。
流石に、平成29年度の試験は、三年連続で家族法分野から40字記述が出ることは無いと思うのですが、果たしてどうなるのでしょうね。
今回は、「離婚に伴う財産分与の目的ないし機能」に含まれる「要素」が問われていますね。「判例」が示した内容について問われていますが、学説上の整理も大枠については同じです。
(1)財産分与の3つの要素
先に答えを示しておきますと、判例(最判平成46・7・23)は、①夫婦関係財産の『清算』、②離婚後の『扶養』、③『慰謝料』の3つの要素が財産分与には含まれている、としています。
この中で明らかに異質なのは『慰謝料』です。判例・学説が「財産分与」の要素として「慰謝料」を位置付けている事を知らなければ、ひねり出せないでしょうね。
学習がある程度進んでいる方の中には、家族法と不法行為法とが頭の中で明確に峻別されていて、ここで「慰謝料」と書く勇気が沸いてこなかった人もいたんじゃないかなぁ、なんて想像します。「慰謝料」は、離婚につきもののワードですから、とりあえず頭には浮かんだでしょうけれどね。
それでは各々の要素について、やや詳しく見ていきましょう。
(2)財産分与に関する民法上の規定
……とその前に、財産分与について定めた民法上の規定を見ておきます。
第768条(財産分与)
1項 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2項 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。
3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
第771条(協議上の離婚の規定の準用)
第768条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
……これだけです。意外と少ないですよね。
今回に関わってくるのは、もちろん768条3項です。ただし、そこで示されている財産分与の財産額等の算定基準は、「その他一切の事情を考慮」という家庭裁判所への白紙委任的な形で規定されるにとどまっています。
(3)①夫婦関係財産の『清算』
しかし、実は768条3項から夫婦関係財産の「清算」という趣旨を導き出すことができます。768条3項は、「当事者双方がその協力によって得た財産の額」を考慮することを命じており、夫婦別産を原則とした夫婦財産制度となっている(762条)事を併せ考えると、夫婦関係財産のリセット・清算をなそうとしている事が当然に読み取れるのです。
この『清算』的要素こそが、財産分与の核心的部分です。
(4)②離婚後の『扶養』
離婚後の扶養というのは、生活に困る(元)配偶者に対して、扶養を継続することです。例えば、「離婚後5年間は、元夫は元妻に婚姻費用相当額の支払いを続ける」、「離婚後3年間は、元妻は元夫に月収の3割を支払い続けるべき」等というような内容です。
ただし、扶養である以上、分与する側に資力があり、分与を受ける側には扶養を必要とする事情があることが要件となります。違う角度から言えば、この「扶養」としての側面は、「清算」としての財産分与や「慰謝料」があっても、なお生活に困る場合に認められるという補充的なものと位置付けられています。
それゆえに、実務ではほとんど認められていないようです。
「清算」としての財産分与が少ない、収入に格差がある、婚姻期間が長い、離婚原因が相手方にある(=相手方の有責性が高い)、病気等の就職が容易ではない事情を抱えている、等の中の複数の事情が揃って初めて認められるものだと考えられているからです。ハードルがかなり高い、ということですね。
理論面でも、お互いの扶養義務を根拠づけていたのは、婚姻の効果であったため、離婚によってその義務が根拠を失う以上、扶養義務を肯定できる場合というのは例外的な場合に限定せざるを得ないのです。
学説においては、「婚姻の余後効(事後的効果)」、「社会保障の代替という法政策上の役割から暫定的・次善的な策としての必要性」、「婚姻中の性別役割分担により所得能力が減少した当事者に対する補償」(近時の有力説)等、様々な根拠づけが提案されているものの、いずれも離婚後の扶養義務を、説得力をもって根拠づけるには至っていないと思われます。
(5)③『慰謝料』
ここでいう「慰謝料」というのは、学説上の整理によれば、離婚されたこと自体によって被った精神的苦痛に対する慰謝料(「離婚慰謝料」)を指します。
ここでは、離婚原因となった事実(ex.暴力、虐待、悪意の遺棄、不貞行為など)による慰謝料(「離婚原因慰謝料」)と「離婚慰謝料」を区別することが意図されているのです。
「離婚原因慰謝料」は、その原因行為自体が「不法行為(あるいは債務不履行)」を構成するのであって、家族法というよりは、不法行為法(債権法)分野の話です。「財産分与」と完全に切り分けた形で慰謝料請求権を観念できるため、学説上の整理として、とりあえず除外しているわけですね。
もっとも、この学説上の整理に従った場合に、では「離婚慰謝料」であれば「財産分与」の文脈のみで語り尽くせるか、と言われれば実はそうでもないところが、とてもややこしい部分です。
判例(最判昭和46・7・23)は、「離婚における財産分与の……請求権は、相手方の有責な行為によって離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことに対する慰謝料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない」とした上で、「慰謝料」を財産分与と別に請求することも、財産分与の中で請求することも可能だとしました。この「慰謝料」には当然、「離婚慰謝料」が含まれていますが、学説もこの柔軟な解決を支持しています。
今回の問題の文脈に引き直して表現すれば、「慰謝料」というのは財産分与の一要素ではあるものの、財産分与を行った後で別途請求することも認められるため、「取り外し自在」の要素として位置付けられる、という感じでしょうか。
(6)まとめ
長々と説明してきましたが、解答としては①②③のワードを答えればオッケーです。
①は、『清算』、『清算分配』という言葉を用いる事が重要です。「夫婦財産の清算分配」、「夫婦関係財産の清算」、「夫婦の実質的な共同財産の清算」、「婚姻によって得た財産の清算」、「夫婦の協力によって築いた財産の清算」等、様々な表現がありうるでしょう。個人的には「配分」「リセット」でもニュアンス的にオッケーな気はするのですが、「清算」というのは判例・学説上固まっている表現ですから、減点されても文句は言えないでしょうね。
②は、『扶養』、『生計の維持』が正解ですが、「援助」でも良いと思われます。「離婚後の扶養」、「離婚後の援助」、「離婚後の一方当事者の生計の維持」等が本命です。また、「離婚後の相手方の生活保障」等でも個人的には良いと思います。趣旨は同じですしね。
③は、『慰謝料』、『精神的損害の賠償』が正解です。「離婚による慰謝料」、「離婚による精神的苦痛に対する慰謝料」、「精神的損害の賠償」等が本命の解答でしょうか。
(解答例)
夫婦関係財産の清算、離婚後の扶養、離婚による精神的苦痛に対する慰謝料の3つを内容とする。