【平成28年度 行政書士試験 第45問 40字記述解説(民法1)】
問題(平成28年度第45問):(平成28年度の問題については、著作権者である行政書士試験研究センター様の問題使用許諾を得ておりませんので、全文引用は避け、問題掲載ページへのリンクを貼ります。コチラです。なお、以下では著作権法で許される範囲の部分的な引用を行っております。)
(解説)
もやもやっとする問題ですよね。
国家試験の問題文は、もっと論理関係が明快であって欲しいです。
問題文によれば、「A」による主張で、「B」に対する主張で、「Cの抵当権に関する」主張であれば、第三者弁済・代価弁済・抵当権消滅請求以外は、解答となりうるのですよね。
もちろん、抵当権が実行されたという状況について聞かれている、とすぐにピンと来なければならないのですが、こんな問題文であれば、それ以外の解答はありえないのか考えてみたくなりますね。
(1)問題文の分析
分析といっても、とても簡単ですね。
CのBに対する債権を担保するために、Bが所有する甲土地に抵当権が設定され、その旨の登記がなされた。その後、AがBから甲土地を購入し、所有権移転登記をした。このように時系列に並べてみると、Aが「第三取得者」であることが一目瞭然ですね。
本問は、時系列でいえば後でなされたAB間売買を先に書くことで、問題状況の整理能力を問うている……のかもしれませんね。
当然ながら、AB間売買時に、既に抵当権設定登記を備えているCは、第三取得者Aに抵当権を対抗できます(177条)。そのため、第三取得者Aは、抵当権の負担の付いた所有権を取得できるにとどまります。Aは、抵当権が実行されてしまえば、所有権を失ってしまう立場ですね。
(2)解答
さて、では解答を見てみます。
民法567条(売主の担保責任の規定)に答えが載っています。
第567条(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
1項 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
2項 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
3項 前2項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。
これが答えです。条文そのままですから、一目瞭然ですね。
「抵当権の行使により買主がその所有権を失ったとき」に、「契約の解除」ができ、「損害を受けたとき」は、「賠償を請求することができる」のです。
なお、余談ですが、Aが抵当権の存在を知りながら、甲土地を購入した場合であっても、Aが甲土地の評価額に見合うだけの代金債務を負担する契約となっていれば、この解除・損害賠償請求の主張は認められます。
例えば、甲土地が客観的に1000万の価値を有しているのであれば、AがBから1000万に近い価額を出して買った場合は、善意悪意を問わずに567条の主張ができる、ということです。Aとしては、(悪意であったとしても、)Bが抵当権を消滅させてくれる事を期待してその値段をつけたはずだからです。
しかし、Aが抵当権の存在を知りながら、甲土地を購入し、その売買代金を被担保債権の額から控除して定めていた場合は、この解除・損害賠償請求の主張は認められません。
例えば、甲土地が客観的に1000万の価値を有しているとして、CがBに対して800万円の債権を有しており、それを踏まえてAが200万円前後で甲土地を購入したような場合であれば、567条の主張はできない、ということです。Aとしては、Cの抵当権実行の負担を自らが引き受けているものと解されるからです。余談でした。
さて、本問で問われているのは「B」に対する請求なのですから、請求内容は限られてくるため、「解除」や「損害賠償請求」が書けた人は多いでしょう。しかし、そこが書けていても、「抵当権が実行されたとき」、「抵当権が行使されたとき」という表現にとどまり、「所有権を失ったとき」という言葉が書けなかった人は、下手をすれば点数がつかない可能性があります。「担保責任」であるという本質を理解していない、と受け取られかねないからです。
「解除」とだけ記載した人、「損害賠償請求」とだけ記載した人、「解除又は損害賠償請求」と記載した人は、部分点は付くのではないかなぁと思いますが、それも良くわかりません。40字の採点は点数調整に使われますので……。
(解答例)
抵当権の行使によりAが甲土地所有権を失ったとき、契約の解除及び損害賠償請求の主張ができる。
(2)余談・蛇足
他に答えが成立する余地がないのか、少しだけ考えてみます。
結局、これだ!って答えは思いついていないので、ただの蛇足です。
まず、Aが甲土地所有権を失わないための方策として、
①第三者弁済(474条)をした上で、それにより発生する費用償還請求権(上掲567条2項)と売買代金債務(今回であれば、AがBに対して負う甲土地代金債務)を対当額で相殺し、抵当権の負担のない不動産を取得する、
②(A、B、C間で代価弁済の合意が予めなされ、それに基づいてAが代価弁済をなしうることを前提としてAの甲土地購入価格が定まっていたような場合に、)抵当権者Cの請求に応じて、不動産の売買価格を支払い、抵当権を消滅させる(代価弁済、378条)、
③Aが、取得の原因や代価額等を記した書面を、登記をしたすべての債権者に送付し、その債権者全員がそれを承諾(もしくは、みなし承諾)した場合、Aがその代価額を実際に支払うことで抵当権を消滅させる(抵当権消滅請求、379条)、
……というものがあります。
しかし、問題文中において、これらを解答してはいけない旨が明記されているので、当然ダメですね。
他にAがなしうる請求としては、
④第三取得者Aは、抵当権が実行されるまでは所有権者であって、不動産に費用(必要費・有益費)を投下することがあります。これらの費用は、一種の共益費として、優先的に償還を受けることが認められています(費用償還請求、391条)。そして、この償還を受けることなく抵当権が実行され、抵当権者がより多くの配当を受けた場合は、第三取得者は、抵当権者に不当利得返還請求ができるものとされています(最判昭和48・7・11)。
しかし、これは「Cの抵当権に関する」主張とは言えなくもありませんが、「B」に対する主張ではありませんので、ダメですね。
さらに、他に思いつくものでいえば、
⑤「CのAに対する被担保債権が消滅し、付従性により抵当権も消滅したとき」や「抵当権が独立して消滅時効にかかったとき」なんてどうでしょう。396条・397条に関する判例(大判昭和15・11・26)・通説は、抵当不動産の第三取得者との関係では抵当権が独立して消滅時効にかかることを認めています。
しかし、消滅時効の援用は、「B」に対する主張ではないのでダメですね。
また、Aは、消滅時効を援用し、Cに抵当権設定登記の抹消手続を共に行うように請求(抹消登記請求)できますが、これも「B」関係ないですし、ダメですね。場合によっては、Aが単独で登記を抹消できますしね。
もう思いつきません……でも問題文はもやもやっとします……(終わり)。