【平成25年度 行政書士試験 第46問 40字記述解説(民法2)】
問題:Aの指輪が、Bによって盗まれ、Bから、事情を知らない宝石店Cに売却された。Dは、宝石店Cからその指輪を50万円で購入してその引渡しを受けたが、Dもまたそのような事情について善意であり、かつ無過失であった。盗難の時から1年6か月後、Aは、盗まれた指輪がDのもとにあることを知り、同指輪をDから取り戻したいと思っている。この場合、Aは、Dに対し指輪の返還を請求することができるか否かについて、必要な、または関係する要件に言及して、40字程度で記述しなさい。
本問は、192条、193条、194条についての正確な理解が問われた問題である。本問は、分析力が必要という訳ではないので、知識問題である。
まず、条文を一通り概観しておく。
「第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」
「第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」
「第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。」
さて、これらの条文を用いて、本問を分析していく。
まず、Cは、BC間の売買という取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めており、善意ではあった。しかし、Cが無過失か否かは問題文によって明言されていないため、Cが192条の要件を満たすかは断言できない。そこで、Dについて即時取得の成否を検討する。
Dは、CD間の売買という取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めており、善意・無過失であった。よって、Dは192条の要件を満たす。
もっとも、占有の対象が盗品である場合には、(判例の理解からすれば、)Dは192条の要件を満たしても即時取得すると断言することはできない。193条が盗難時から2年間は、即時取得の成立を妨げ、被害者に所有権が残るものと考えられるからである。
そこで被害者Aとしては、盗難時から2年間、つまり、あと6カ月以内に、所有権に基づく返還請求をする必要があることになり、かかる請求により、占有の回復は可能であることになる。
193条の位置づけに関する一つの考え方として、「192条の要件を満たす以上、いったんDが即時取得しており、Dが所有権者となっているが、被害者は193条に基づいて、所有権を取り戻す事ができる」というようなシステムとなっていると考えることもできるが、判例はこのような考え方を採っておらず、盗難の時から2年間は、即時取得は成立せず、ずっと被害者に所有権があるものと考えられていることに注意してほしい。
もっとも、Dが「善意」であるため、このような請求をなす際には、194条が定めるように「占有者が支払った代価」、すなわち本問でいえば、DがCに支払った額50万円を弁償する必要があることになる。
ここにおいて、Cが「宝石商」という「同種の物を販売する商人」である事は問題文中に書かれているため、CD間売買が「公の市場」でなされた事やCが「同種の物を販売する商人」であることを必要な要件として解答に含める必要はないし、含めてもおそらく加点にならない。Aが「被害者」であることや、指輪が「盗品」であること、Dが「善意」であることも同様である。
解答例1:Aは、盗難の時から2年間、Dが支払った代価を弁償して、Dに対し指輪の返還を請求できる。
解答例2:Aは、6カ月以内にDに50万円を支払って、所有権に基づき指輪の返還を請求することができる。